・転移装置完成 いざ森エルフの国へ! 2/3
受け付けはいつものイケメン(オカマ)だった。
ここはいつ来てもこいつだ……。いったいどうなってるんだ……。
「あら坊や、いらっしゃい。取り合えずビールでいいわよね?」
「はぁっ……。なんでいつもいつも顔を合わせるなり、お前にツッコミを入れなきゃいけないんだろな……」
「うふっ、そ、れ、は、タマタマ坊やの反応がキャワイイからよっ♪」
「うっ……。既婚者にウィンクするな……」
「だけど2人と1度もエッチしてないんでしょう? んもぅ、そこがキャワィィッ♪」
カマが下品すぎて、思考回路が何度もプチフリーズを繰り返した。
エルフっていうのは長寿だからな。
俺たちみたいな若いやつの行動一つ一つが、こいつらには面白いのかもしれん……。
「それよりオッサン」
「イヤッ、オッサンは止めて、あたしまだオッサンじゃないわ!! せめて、せめてかわいいお姉さんって呼んでちょうだい♪」
「お姉さん」
「なあに、坊や♪」
「転移装置が完成した。グラフ――グライオフェンはどこにいる?」
「あら……」
急に声を低くして、カマカマ野郎は後ろの棚からバインダーを取った。
「そうね、そろそろ迷宮から出てくるころだと思うわ。ここなら近場よ、ラクダを貸してあげるから迎えに行ってあげなさい」
「いいのか? そりゃ悪いな」
「いいのよ。あの子、がんばり過ぎでうちのみんなが心配していたもの。1日で迷宮3つを受け持った日もあったわ」
「どおりで家に帰ってこないはずだ……。んじゃ、借りてくぜ」
「ユリウス、あたしからもお願い。リーフシーカーを助けてあげて。……あたしも本気出しちゃうわ♪」
だったら受付なんてやってないで最初から前線に立てよ……。
そう返すと話が長引くなるに決まってるのであえて黙り、ギルドの厩舎に飛び込んで砂漠へと出た。
・
迷宮から出てくると、そこに俺が待ち構えていたので当然グラフは驚いた。
同時に、どことなく嬉しそうにも見えた。
だが事情を告げると、彼女は何も言わずにラクダに飛び乗る。
俺も特に何も言わず、彼女とともに工房のある行政区を目指した。
間に合わせの公房は市長邸宅の一角にある。
元々は管理用の道具置き場だったらしいが、コンクルによる補強により、中も外装もすっかりマリウスに改造されていた。
「呼んできたぞ。で、転移装置はもう飛べるのか?」
「ユリウスッ、行くなら行くと言えっ! どこまでせっかちなんだ君はっ!」
たどり着くといきなり文句が飛んできた。
グラフの方は身軽にラクダから飛び降り、公房内部のマリウスに駆け寄る。
「ついに完成したんですね! 早くみんなを助けに行かなきゃ!」
「焦らないでくれ。これは君たちが思っているほど万能な道具ではなくてね、完成はしたが、いくつかの問題がある」
「問題っ!? 完成したんじゃないのかっ!?」
ラクダには悪いがヤシの木陰で我慢してもらうことにして、俺も工房の内部に入る。
するとどうにも意外なことに、工房の内部にあったのは改造されたあの棺だけだった。
古いパーツが取り外され、その代わりに俺が精錬させられたレインボークォーツを敷き詰めた箱が繋がっている。
あのシンクウカンという名の変なパーツも付け加えられていた。
……正直、なんだこりゃって印象だ。
「ユリウス、どうだった……?」
「どうって、何がだ?」
「おっぱいに、決まってるでしょ、グラちんの」
「お前は空気くらい読め……」
すまんとグラフに頭を下げると、不満だったのかそっぽを向かれた。
マリウスにまで誤解されてしまったのか、険しいで睨まれていた。
「ふんっ、最低だな」
「だったらどうすりゃよかったんだよ……」
「ラクダだけ渡して、君だけ飛んできたらよかっただろ」
「お……おおっ、言われてみればそうだったな……」
「急いでて気づかなかった……」
どこか抜けていた俺たちに、いや俺だけをマリウスは冷たい目でまた睨んだ。
どうしたら俺たちは仲直り出来るんだろうな……。
「転移装置の話に戻すぞ。この棺の問題は大きく見て2つだ。これは内部構造が複雑すぎて、我々には解析出来ない。だからログを頼ることになる。それを頼れば最後の転送元であるリーンハイム王国に飛べるのは確かだが、その土地のどこに飛ばされるかはわからない」
「女王とやらに、グラフが飛ばされた場所に行くんじゃないのか?」
「いや、きっとそうはならない。向こうのどこかにこれと同じ装置が隠されていて、そこに飛ばされることになると思う」
「フフ……。じゃ、地面の中に、飛ばされたりして……」
「ちょっとメープルッ、止めてよそういうのっ!? か、考えただけでも震えがくるじゃない……っ」
「で、もう1つの問題は?」
「少し考えればわかることだが、この転移装置は一方通行だ。こちらに戻るには同じものを向こう用意しなければならない。そして3つ目の問題は、1度も試運転をしていないことだ」
後出しで現れた3つ目の問題は、わりとシャレになっていなかった。
これは古代のアーティファクトを、現代のパーツで魔改造して作り上げた継ぎ接ぎだらけの装置だ。
「実験台にならボクがなる!」
「いや、これは誰が実験台になるかという問題ではないだろ」
マリウスは最初からわかっていたようだ。
わかっていたから、都市長に報告する前にうちを訪ねた。
この転移実験に最も相応しい被験者。それは俺だ。
「止めるな、ユリウス……。ボクは、ボクはこれ以上君に借りを作りたくない……」
「なら考えてみろ。仮に実験が成功したとして、その成功の報告をどうやってシャンバラに届ける? 早馬を乗り継いでも数日かかるぞ」
だから俺が被験者になるしかない。
転移術を最も巧みに使いこなせる俺ならば、地中に飛ばされてもどうにかなる。
マリウスはやはりわかっていたようで、静かにうなづいた。
「ユリウスが適任だ……。ユリウスなら、どこに飛ばされても戻ってこれる……」
「なら決まりだな。実験開始と行こう」
「ま、待て! それでもボクも一緒に行く! ボクなしでどうやってリーンハイムを歩くつもりだ!? 国中が森に囲まれてるんだぞ!」
「ん、まあ一理あるね……。それにユリウス、ヒューマンだし……」
「そうね……。ユリウスだけじゃ、話を聞いてもらえないかもしれないわ……」
行って戻るだけのつもりだったが、向こうへの伝令をかねるならばグライオフェンが必要だ。
グライオフェンを絶望的な戦況である向こうに残すのは、あまり乗り気がしないのだが……。
「だったら俺も行こう」
「んなっ、し、師匠!?」
「白いエルフちゃんだらけの国に俺も興味があるからな。男なら行かねぇわけにはいかねぇだろ」
「ぉぉ……清々しいほど、わかりやすい動機、キタコレ……」
「お師匠様なりの照れ隠しよ。……そ、そうよね?」
両方だろ……。
最近の師匠は完全に開き直っているからな……。
お堅い職場でずっと我慢してきた反動だろう……。
「俺のいたツワイクでは、特殊な状況でもない限り魔導士はペアで偵察する。ペアでないと、目標の監視と伝令を両立出来ない。師匠が同行する価値は高い」
ただし今回の監視対象はリーンハイム王国ではなく、グラフだ。
師匠に目配せすると『それは俺が教えたことだろ、バカ弟子』と言いたげにニヒルに表情を歪ませた。
「んじゃ役割分担だ。ユリウス、テメェは結果をシャンバラに持ち帰る役だ。んで俺は、お嬢ちゃんと現地に滞在して情報を集める役な」
「その配役、不安なので俺と逆に出来ませんか……?」
「バァァカッ、テメェがシャンバラから消えたら誰が薬作るんだよ、アホ」
「そうですけど……。師匠みたいな人間をヒューマン代表だと思われるのは、ちょっと……」
「はっ、エルフの嫁さん2人も囲っておいてよく言うわ」
いつもの感覚で師匠に反論しようとしたのに、それにはぐうの音も出なかった。
そこを突かれると非情に弱い。
だが俺は、シェラハとメープルの両方が欲しかった。くれると言うから正式に両方もらっただけだ。
「それには俺も同意しよう。お前はヒューマンの恥だ……あまつさえ、マク湖にあんな物をこさえるなんて……。最低だ……」
「フフ、ウケる……」
「ウケねーよっ!? とにかく話は決まりだ、都市長に報告次第決行するぞ!」
転移魔法ですぐに姿を消したい気分だったが、やはり外に放置されたラクダが可哀想なので、俺はその背に飛び乗ると市長邸の厩舎を目指した。




