・二代目ユリウス像建立事件 1/2
今日もユリウスは姉さんの水浴びに夢中だった。
いつもいつも同じ木陰に身を隠して、裸でオアシスを舞う姉さんに熱い目を向けていた。
姉さんはそんなユリウスの視線をときおり流し目で確かめながら、のぞかれている事実に恥じらいながらも無防備をさらす。
ああ、なんて大胆で、ヘタレで、ムッツリスケベな夫婦だろう……。
そんな2人を私はハイドの魔法で身を隠して、わりと至近距離でいつもガン見している。
やっぱりエロい……。
姉さんに夢中になるユリウスを見ていると、私はニヤニヤとだらしなく笑わずにはいられなかった。
世間は私を変わり者だと言うけれど、私はユリウスと姉さんの両方が大好きなだけ。
好意を持った相手に自己投影して、それを見守るのが好きなだけだ。
「いつもあそこなのよね……。もっと、近くで見てくれてもいいのに……」
姉さんが大きな胸を自慢げに撫でて、大好きな旦那様に少し不満そうな目を向けた。
姉さんも姉さんだ。見られているとわかっているのに、この習慣を絶対に止めようとしない。
もう夫婦なのだから、もっと大胆なことをしたっていいのに……。
「ふぅ……。そろそろ家のことをしないと……」
姉さんの水浴びが終わった。
だから私は足跡で気付かれないように回り込んでから、今度はユリウスの背中に回って肩を叩いた。
「うわっ……おまっ、またお前かよっ!?」
「襲っちゃえばいいのに……」
毎日思う。そんなに姉さんが大好きなら、襲っちゃえばいいのに……。
もっと近くであれを見て、欲望に身を任せればいいのに……。
「へっ……?」
「姉さん、襲っちゃえば……?」
「んなっ……あっ、朝っぱらから何言ってんだよっ、お前!?」
「夫婦らしいこと、もっとした方がいい……」
「そ、そうか……?」
ユリウスは夫婦としての在り方をまだ悩んでいるみたいだ。素直な反応だった。
「うん。おはようのキスとか……」
「ハハハハハ……無理だ、俺のキャラじゃない」
奥手にもほどがある……。
私が背中を押してあげないとこの2人、どこまでも子供同士のカップルみたいなやり取りを続けると思う……。
「じゃあ、私で練習。あなた、おはようのキスを……えっと――よこしやがれ?」
「お前も慣れてねーのに無理すんな……」
「うん……。これ、いつもするエロい誘惑より、言うの勇気いた……」
たぶん、私もユリウスと姉さんの奥手時空に飲まれかけている……。
手と手が触れ合うだけでときめいちゃう、ねんねな世界が姉さんとユリウスの地平に広がっていた……。
「お前は相変わらずどっかズレてるな……」
「まーね……そういう、自覚ある」
「ん……?」
「どしたの?」
ユリウスが急に不思議そうに周囲を見回した。
特に変なところはない。いつもの爽やかなシャンバラの朝だった。
「……見ろ、あのオーク像が消えたぞ?」
「ユリウス像だよ?」
「俺はあんなビール腹じゃねーよ……」
「あれは、ユリウスの、心の贅肉だから……」
「いや意味わかんねーし……」
ユリウスは変わった。
過去の栄光にすがりつくだけだった哀れな男だったのに、いつの間にか心の贅肉が落ちた。
「ブヒィって言ってみて?」
「言うわけねーだろ……。しかしどこ行ったんだろな、あれ……」
「あ、言わなかったっけ……? あれなら、公園に置いたよ?」
驚いたり怒ると思ったのに、ユリウスは固まっちゃった。
だから私はもう一度、事実を伝えてあげた。
「あれは、あそこの公園に置いた……」
「はぁっ!?」
「あのね、あとね、ユリウスの功績を称えた、石碑も隣に作っといたよ……?」
またユリウスは固まった。
それからようやく理解が追いつくと、気が遠くなったのかフラフラと倒れかけた。
「おま……お前、なんてことを……っ。悪ふざけさせたら天下無双だなお前っ!? なんてことすんだよっ!?」
「みんなが欲しいって言うから、私も泣く泣く譲ったのに……」
ユリウスのうろたえがかわいくて、私は満面の笑みを浮かべてしまうのを堪えた。
動揺している。既にもう取り返しはつかない。ユリウスは嫁に恐怖した……。
「他になかったのかよ……。アレじゃ、シャンバラのユリウスはオークだって勘違いされるだろ……」
「ウケる……」
「ウケねーよっ!?」
いっぱいあおると、ユリウスは私のおでこを小突いてくれた。
それを待っていた。私は嬉しくなって、もう我慢できない。ユリウスを満面の笑顔で笑い返していた。
「はぁぁ……っっ。なんてことをしてくれるんだ、お前は……」
そうするとユリウスは溜め息を吐いて、私の壮大なイタズラを許してくれた。
「でも、好評だよ……?」
「お前には一生叶わねーわ……」
私たちは姉さんの姿を探して、2人一緒に家へと帰った。
新作、作りたくなってきたけど、今やコンクルは貴重な建材。そこは我慢だった……。




