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・アリ王子編 ユリウスを追って三千里 2/2

しかしその5日後――


「ユリウス貴様ァァァーッッ、貴様は今どこにいるぅぅぅぅっっ!! こんな辺境くんだりまで俺を連れてきて、足取りを消すなど不親切にもほどがあるだろう、ふざけるなぁぁっっ!!」


 この地の馬車駅でヤツは馬を買った。

 恐らく早馬を乗り継ぐ理由がなくなったからだろう……。


 ならばヤツはこの最果ての地のどこかにいる。

 ツワイクに蔓延する闇ポーションの背後にヤツがいるとすれば、必ずどこかの有力者に味方しているはずだ……。


「逃がしてたまるか……。ここまできて、逃げられると思うなよ、貴様ァッッ!! 絶対に見つけ出して、謝罪してやるからなクソがぁぁーっっ!!」


 天に向かって叫んでも、聞こえてくるのはヒバリの鳴き声と風の音だけだった……。



 ・



それからさらに2日後――


「何、本当かっ!? 本当にソイツはユリウスと呼ばれていたのかっ!?」


 ついに俺は、小麦も生えない荒れ地の村でヤツの足取りを発見した……。


「落ち着きなされ、若いの」

「これが落ち着いていられるかぁっっ、それでそのユリウスはどっちに行ったっ!?」


「それが不思議でのぅ……。ワシらは止めたんじゃが、どうもアッチなんじゃよ」


 そのジジィが指さした方角には、広大な砂漠が広がっていた。

 砂塵か何かが行く手をおおっていて、砂漠の先が見えない。


「さ、砂漠を越えたのか……?」

「いんや、あれは人間には越えられねぇんよ。あれは迷いの砂漠。エルフだけが行き来出来る、ここではない別の世界の入り口じゃよ」


「どうやったら行ける」

「無理じゃよ。デザートウォーカーは下手な人間よか話のわかる連中じゃが、行き来の掟には厳しいべ」


「それでも俺は中に入らなければならん! そのデザートなんとかの国に入る方法を教えろっ!」


 ジジィは目を細めて黙った。


「わしゃ、そういう下品な物言いのやつと、これ以上喋りたくないのぅ……」

「俺のどこが下品だ!!」


「全部じゃよ」

「ク……クソォォーーッッ!!」


 下民といえど、横暴な態度を取ると反撃に出てくることは既に学習済みだ。

 俺は下民と対等に会話しなければならないこの状況に絶望した。


 あと少し、あと少しでユリウスにたどり着けるというのに、迷いの砂漠だと!? ふざけるな!


「こ、こりゃ待つのじゃ! そっちはダメじゃ、迷いの砂漠はマジで危険なんじゃよっ!!」

「姿を現せ、ユリウスゥゥゥーッッ!!」


 俺は迷いの砂漠を馬で駆けた。

 だがしばらく進むと馬が砂に脚を取られて、俺は頭から落馬してしまった。


 辺りを見回せば一面の砂の世界で、どこから自分がきたのかすらわからなくなっていた。

 それでも俺はもう引き返せない。再び馬にまたがり、砂の大地を進んだ。


 ・



 砂漠の出口はその翌夕ようやく見つかった。

 凍え死にかけたほどの冷たい夜に、干からびて死んでしまいそうな昼の日差しに俺は干物にされた……。


「み、ず……水を、くれ……」

「それ言わんこっちゃない! だから行くなとワシは言ったんじゃ!」


 あの荒れ地の村に戻ってこれたのは奇蹟だった……。


「ここまで来て……ユリウス……ユリウス、貴様……」

「一人の男にそこまで執着するとは……もしや、おぬし……。一途なホモじゃな?」


「出てこい……出てこいクソが……俺が、わざわざ、ここまで来てやったというのに……。うっ……」


 重度の脱水症状に、俺はそれから三日三晩、まったくといって立ち上がれなっていた。

 あまつさえ、ようやく身体が回復した頃には、村の中で俺は彼氏を追ってきたホモ野郎だと酷い勘違いを受けていた……。


 ユリウス……ユリウス……ユリウス貴様……ッッ!

 卑怯だぞ、砂漠から出てこい! 俺がここまで来てやったのに、ふざけるなっ、ふざけるなぁぁぁーっっ!! 俺に謝罪をさせろぉぉっっ!!


「そのユリウスっていうのは、罪作りな男よのぅ……。しかしアリさんや、叶わぬ恋は諦めて、他の彼氏を作ったらどうじゃ?」


 老人は一度記憶した情報を修正できない。

 その後何度言っても、ジジィの誤解は解けなかった……。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあストーカー扱いは仕方無いよね
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