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・大いなる遺産 2/2

「恐らくは神々の時代に使われていたアーティファクトでしょう。何せ場所が場所ですから、間違いないかと……」


 大型の荷馬車を呼び寄せて、苦労しながらその巨大な棺を市長邸へと持ち帰ると、シャムシエル都市長はもったいぶるように吟味した後に、そう俺たちに告げた。


「具体的にどういう物なのですか? 何かご存じなら教えて下さい」

「フフフ……ユリウスくんにするような言葉づかいでも、私は構いませんよ、マリウスさん」


「いえ、ユリウスと違って最低限の節度は守ります。エルフの長相手に『爺さん』だなんて、同郷として恥ずかしいですよ、俺は」

「そうやって当てつける方が非礼だろ。俺と爺さんは同志であり家族だからいいんだよ」


 マリウスは文句を言いたげだったが、爺さんの話の続きの方が気になるようであえて黙ったようだ。


「驚くかもしれませんが実は昔、私はこれを見たことがあるのです。多数のエルフがこれに魔力を供給することで、少人数の転移が可能になる。そんな奇跡的な装置だったはずです」

「いや、ちょっと待ってくれ、爺さん。そういうアンタ、今何歳なんだ……」


「それなりに若作りはしておりますよ」

「知らなかったのか? シャムシエル様といったら、エルフにとっては生ける伝説だ」

「いや、それにしたって長生きにも限度があるだろ……」


 都市長の話にマリウスはますます興味を引かれたのか、さっきから棺との睨み合いを再開していた。

 回収したはいいが、これがそんなにとんでもない物とは思わなかった。


 果たしてこれは俺たちに使える技術なのだろうか……。


「何かわかったか?」

「大まかにはな。詳細な原理はわからないが、どこがどうなってるくらいならわかったぞ」


「ほ、本当ですかっ!?」


 それに飛びついたのはグライオフェンだった。

 マリウスはいきなり美人に手を取られて、かなり驚いた様子だった。


「あ、ああ、あくまで外側だけですが……。ここのこれが変換装置でしょう。ポーション工場で使っている物によく似ています」

「へー……」


「わかってないだろっ、ユリウス!」

「専門外だからな。というよりもだ、お前こそなんで超古代の技術がわかるんだ……?」

「そこは私もユリウスさんに同感ですね。どうしてマリウスさんは、我々エルフの技術をご存じなのでしょう」


「……シャムシエル様、驚きかも知れませんがこれは、ツワイクの技術に似ているんです。見たところこの構造ならば、外部パーツの改良も出来るかと思います」


 それはまたおかしな話だ。

 だが少し整理して考えれば、因果関係が見えてこなくもない。

 この石の棺が示唆するところは、転移術が元々はエルフの技術であった可能性だ。


 爺さんもその結論に行き着いたのか、解決の糸口が見えたというのに難しそうな顔をしていた。

 失った技術をヒューマンが使いこなしているとあっては、さぞ複雑だろう。


「俺も同じ結論だ。ツワイクからパーツを取り寄せて交換すれば、魔力の変換効率が上がると思うぜ」

「それとここの魔力を蓄えるコンデンサーも新しく出来そうです。だけど取り寄せるだけだとつまらない。ここは新しく作ってしまいましょう!」


 師匠が後押しをすると、爺さんは納得するようにうなづいた。

 要するにアーティファクトを現代の技術で魔改造するってことか。


 工房を接収されて腐っていたマリウスが、目を輝かす姿は親友として嬉しいものだった。


「けど、作れるのかお前?」

「ユリウス、君は俺のことをなんだと思っているんだっ!?」


「だって、伝説級のアーティファクトだぞ……」

「君が働いていたポーション工場に、技術を提供しているのは俺たち職人だ!」


「そうだったのか? それは知らなかった……」

「なんで知らないんだよっ!?」


 エルフとヒューマンは接点が少ないようで、目に見えないところで繋がっているのかもしれない。

 救出の糸口が見えてきたからか、グライオフェンは深いため息を吐いて、やっとこさやわらかな微笑みを浮かべだした。


「とにかく良いパーツを作れれば、それだけ多くの援軍を大量に送れるってことだ」

「アルヴィンスさん、それは性急に国境の通行許可を取るよりも現実的なプランでしょうか?」


「ああ、中心部分の原理は俺も皆目わからんが、ツワイク製のパーツに変えるだけでも、10人くらいは運べるようになるだろ。根本的なところは俺たち宮廷魔術師の技術と変わらんはずだ」


 そこで何を考えたのやら、師匠とマリウスの視線が半ば傍観者になりかけていた俺に集まった。

 それは連鎖的に、その場にいた連中全ての注目に変わった。


「これからシャンバラの力を動員して、集めてもらいたい素材がある」

「そしてその素材を使って、テメーには錬金術を使った精錬をさせてやる。やってくれるよな?」


 そう言われても精錬なんて一度もやったことがないぞ。

 しかしツワイク製のパーツを待っていられないとなると、パーツそのものを自作するしかないのか。


「わかった。軍隊を引き連れて転移魔法を使うよりはよさそうだ、やろう」

「ではシャムシエル様、ギルドはコンデンサーの原材料になる帯電石と、変換機に使うレインボークォーツを調達して下さい」


 精錬のノウハウなんてまったくないが、こうなっては経験がなかろうとやるしかない。

 俺たちだって同じ異常事態で死にかけたんだ。最初からこれは他人事じゃなかった。


「お任せを」


 こうして一丸となって素材の調達、加工、生産の予定が組まれていった。

 そんな中、グライオフェンは言葉を失ったまま、ただ俺たちツワイク人の顔ばかり見ていた。


「あ、あの……ボクは……」

「どうした、何か引っかかることでもあるのか?」


「別にそんなものはない……。ただ……君たちの行動が、心底意外で……」

「気にするな、俺は技術者としてこの話に興味があるだけだ」

「魔術師として、最高に面しれぇネタなのは間違いねぇしな」


 師匠とマリウスのヘソの曲がった返しに、白い肌のエルフは拳を握り締めて感激していた。

 それから俺を見ると、何やら自分の手のひらを掴んで、何かに迷ったようだった。


「何でもするから手伝わせてくれ。そ、それと、ユリウス……あ、あの時はごめん……。お、男の人に、ああいうことされるの、慣れてなくて……っ、ぅぅっ……」


 その言葉によりマリウスが蔑むように俺を冷たい目で睨み、師匠が下品な笑い声を上げた。

 俺の顔面にビンタをくれたときのことを言っているのだろうか。


 だが義父である都市長の前でそれを言われるのは、そういう言い方をされるのは勘弁してほしかった……。


「たかがビンタ1発だ」

「ダハハハハハハッッ、テメェこんな美人さんにビンタ食らわされたのかよっ!? そりゃ最高のご褒美じゃねぇか! いやぁ羨ましいねぇ!」


「師匠は笑い過ぎです」


 その後、グライオフェンが特にシェラハに懐いている点もあったので、うちの家で面倒を見ることにすると決めると、俺は彼女を連れて昼食と嫁さんの待つ自宅への帰路についた。


「あんな綺麗なお嫁さんがいるだなんて、ボクは君が羨ましいよ。綺麗なだけじゃなくて、あんなにやさしくて、かわいらしい人なんだから……」

「その話をシェラハが聞いたら喜ぶだろうな」


「えっ……!? い、言わないでくれっ、恥ずかしい……っ」

「だったら言わなきゃいいだろ……」


 グライオフェンのことが少しだけわかったような気がした。

 コイツは……女好きだな。美人に目がなく、そのくせやけに純粋で、そこに愛嬌を感じた。


 コイツの同胞ならば救ってやりたい。そう思えた。


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