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・白百合と砂漠の錬金術師は間が持たない

 翌朝、俺たちは朝日が昇って間もない早朝に慌ただしく起き出して、市長邸のエントランスにて調査隊と合流した。

 主な人員は冒険者たちだ。ゾーナ・カーナ邸は以前、魔物の大発生地点となってシャンバラを滅ぼしかけたため、調査隊にもそれ相応の連中が選ばれたようだ。


 集合が済むと俺たちは冷たく乾いた砂漠を進み、30分ほどラクダに揺られると、あの因縁の地に到着していた。



 ・



「姉さんの実家、せっかく綺麗だったのに、ボロボロになっちゃったね……」

「あんなことがあったんだからしょうがないわ。それに都市長は、余裕ができたらここを補修するつもりみたい」


 敷地に入ってみると、ただでさえ崩落寸前の建物にいくつもの亀裂が走っているのがわかった。

 特に籠城地点だった神殿の方はもはや亀裂どころではなく、破壊された壁や落ちた天井がおびただしい瓦礫を作っていた。


「なあ、なんかあそこ、うっすら光ってないか……?」

「あそこの地下にあったあの不気味な迷宮、二人とも覚えてるでしょ。あれはそれを封じる結界よ」


 なんだ結界か。

 リーンハイムが襲われた今となっては、それこそが正しい判断だっただろう。


「あの時は、ヤバかった……。処女のまま、死んでたまるかって、神を呪いかけた……。でも、まだ処女のまま……」

「あ、それはボクも少しわかる……。じゃなくて、何言ってるんですか、メープルさんっ!?」


「グラちんも、処女……?」

「うっ……。だって、だってボクには、女王様がいたから……」


 白百合ことグライオフェンは、そこまで答えて祖国のことを思い出してしまったようだ。

 女王様とやらはよっぽど立派な人物なのだろう。彼女の表情から崇拝にも近い感情を感じた。


「じゃーん……それでは、恒例の、くじ引きタイムです……。はい、引いて引いて……」

「お前のクジは毎度毎度、やたらおかしな結果ばかり出る気がするんだが、俺の気のせいか……?」


 これから手分けをして、ゾーナ・カーナ邸の全域を調べ回ることになっている。

 崩落の可能性が高いので、このことは昨日の時点で決まっていた。


「メープルさんが不正なんてするわけないだろ。ほら、君も引けよ」

「あ、ああ……。お前、男相手と女相手で態度がだいぶ違わないか……?」


「当然だ。母にそう躾られたんだ」

「そりゃ凄い母親だな……。って、嘘だろ?」


「嘘じゃない、本当――えっ……?!」


 俺とグライオフェンは互いのクジを付き合わせて、そこに同じ模様が刻まれている現実に絶句した。

 すなわち、今日の調査はグライオフェンとペアを組むことになる。


 これは絶対におかしい。証拠はないが、絶対に何か仕込まれているとしか思えない……。

 困惑と抗議の混じり合った目でメープルを睨むと、彼女は悪びれもせずにご満悦の微笑を返してきた。


 人に睨まれて喜ぶなんて、つくづくこじらせた嫁さんだった。



 ・



 調査が始まった。そして即、困った。本格的に困った。困り果てた。

 いや別に無理して言葉を交わす必要なんてないのだが、気づけば調査開始より20分近く、俺とグライオフェンは一言も言葉を交わしていなかった。


 さっきまで普通に話せていたのは、間にシェラハとメープルがいたからだ。

 いざ二人だけになってしまうと、あまりにそれぞれの立場が異なり過ぎて、言葉を交わそうにも話題が見つからなかった。


 ヒューマン嫌いの向こうからしたら、俺は最悪のペア相手だろうしな……。


「そこ、危ないぞ」

「あ、うん」


「……その、俺がペアで悪かったな」

「ああ……だけどそれはそっちもだろ。俺、男の人とこうやって話す機会、あまりなかったから……」


「そうなのか? リーンハイムって変わってるな」

「誤解するな、違うよ。ボクは女王様の直属だから……」


「へーー……」


 さらに続けて根ほり葉ほり聞くこともできたが、どうしても気まずいこの感覚が拭えない。

 一度長い沈黙が生まれると、そのまま会話がとぎれてしまっていた。


「いつ結婚したの……?」


 次に彼女が口を開いたのは、それからしばらく後のことだ。


「メープルとシェラハとか? 一月くらい前だ。あの時は式場にモンスターの大群が現れて、あわや全滅するところだった」

「そうだったんだ……。そうだった、ボクはがんばらなきゃ……」


「ああそうだな。だがそうやって焦ると怪我するぞ、そこも崩れそうだ」

「そんなのわかってるよ……」


 コイツが悪いやつじゃないことは昨日の時点でわかっている。

 俺だって同じ立場だったら、仲間を心配するあまりにナーバスにだってなる。


「だから、そこ崩れるぞっ!?」

「わかって――あっ?!」


 乱暴にグライオフェンの手を握ってこちらに引っ張りよせると、手前にあった外壁が倒れるようにこちらに崩れ落ちてきた。

 それから逃れるために、俺は彼女の腰に腕を回して抱き寄せることになっていた。


「ッッ……!!」

「すま――ンガッッ?!」


 平手打ちがパチンとこちらの頬をはたき飛ばすと、気まずさが限界を迎えて、以降会話がなくなっていた。

 白百合と呼ばれるだけあって、彼女はとても綺麗で、密着するといい匂いがした。


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