・オアシスの新居に落ち着こう
「それで……ここが、あの……し、新居よ……」
「なんで緊張してるんだ?」
「だ、だって……っ」
「恥ずかしがるお姉ちゃん……ハァハァ」
工房を経由して併設された白亜の邸宅に入った。
メープルが暖炉に炎を放つと、日没を迎えた室内を暖色の光が照らし出した。
こちらも準備が不十分で家具が少ない。
それでも居間には白いテーブルとイスがあり、奥には本棚も用意してくれていた。
ふと奥の部屋が気になって入ってみると、そこには一変して誰かの私物がひしめいている。
もう1つの部屋も同様だった。
「まさか、これってお前らの部屋か……?」
「あ、私のウサちゃん……」
「貴方の補佐をするんだから、と、当然でしょ……っ。あ、貴方はっ、あたしたちを選んだんじゃないっ!」
「そういやそうだったな」
「なんで忘れてるのよ……っ!?」
あの時は駆け引きのつもりだったんだよ……。
だけどまあ、今となってはこの2人が補佐に付いてくれることに、心のどこかでホッとしている。
「ユリウスは、そういう人……」
「もう、信じられないわ……」
美人で賢くて知らない女を付けられるより、ずっといい。
メープルは面白いやつで、シェラハゾは少しお硬いが誠実でいいやつだ。
「それより、俺の部屋は?」
「そ……その話は、後にしないかしら……?」
「地下に、拷問部屋があって……ユリウスは、そこで飼う予定……」
「そういう冗談に聞こえない冗談止めろよなっ!?」
「ごめん、願望だった……」
「ますます悪いわっ!」
また頭の後ろを軽く叩くと、メープルの口元から幸せがこぼれ落ちた。
なんかあっという間に、コイツとは打ち解けてしまったな……。
「で、俺の部屋は? まさかマジで地下じゃないだろな……?」
「違うわよっ、2階よっ2階! あ……っ」
何か2階にまずいものがあるらしい。
それを聞いてメープルが先んじて飛び出し、俺もその背中を追って階段を上った。
そしたらあったよ。
俺に見られたら、非常にいたたまれない気分になるやつが……。
「わお……」
「だ、だから後にしてって、言ったじゃない……っ」
俺の部屋はでかかった。そこには書斎机が一つ置かれ、そしてよりにもよって部屋の片隅に、キングサイズのベッド(天幕付き)配置されていた。
しかも枕が3つだ。新品の白い枕が1つと、使い込んだピンクのやつと、ウサギの耳が付いたやつが密着していた。
ベッドはつい飛び込みたくなるほどふっかふかだ。
「これ、都市長の指示だろ……?」
「あたしの意思のわけないでしょっ!」
枕が3つあるということは、今夜はお楽しみ下さいというメッセージだろうか……。
あのジジィ、やっぱり油断できないやつだ……。
「これはもしや……純潔を捧げて、ユリウスを、掌握しろ……というメッセージ……」
「ッッ……。あ、あたしは、そんな……まだ、そんな覚悟、出来てない……っ」
そうやって尻を揺すって恥じらわれると、本気で変な気を起こしたくなるから止めろ……。
シェラハゾはいい女だ。美しく、出るところは出ていて、戦士らしく引き締まっている。
「あんま姉を苛めるなよ……。ハニトラ大好き汚職ジジィでもあるまいし、んなもんは要らん。床で寝る」
「それは無謀……夜は、とても冷える……。温め合う、必要あり……?」
「だったらお前らだけ家に帰ればいいだろ……」
「あたしたちは戻れないわ」
「私たちにとって、都市長の命令は、絶対だから……」
俺たちは3人揃いも揃って、余りに高すぎて踏み出せそうもない大人の階段を見上げた。
生理的にも精神的にも一緒に眠れるわけもない。
「それでいいのかよ、お前ら……」
「いいよ……? 恥ずかしくて、頭、変になりそうだけど……。天井の染み、見つめて、我慢する……」
「もうっ、どこで覚えてくるのよそういう言葉っ!」
「……いや、よく考えたら下の暖炉があるじゃないか。俺はあっちで寝るよ」
「えー……つまんない……」
書斎を見れば、預けた黒ローブや私物がそこに置かれていた。
俺は自分の分の枕を拾い上げて、甘いハニートラップ満載のふかふかベッドから離れた。
「姉さんに、ムラムラしてたくせに……」
「えっ、そ、そうなの……っ?!」
「してねーよ……。したとしても、はいと答えるわけがねーだろ……」
これ以上はこっちが色ボケしてしまいそうなので、俺は階段を下りて暖炉の前にしゃがみ込んだ。
しばらく姉妹は上で何かやっていたみたいだが、話が付いたのかしばらくしてから下りて来た。
「晩餐の、お誘いです……。嫁になって、得したかも……」
「ま、まだ決めたわけじゃないでしょっ!」
都市長が夕飯をごちそうしてくれるそうだ。
なんだか雰囲気に飲まれて、ワクワクと胸が躍り、恋愛小説のようなこの状況に心までときめいた。
「でも、お姉ちゃん……。これ、やっぱり運命、かも……」
「またそんなこと……。でも、もしかしたら、そういう可能性も、あるのかしら……?」
姉妹はまたもや、キマイラが落とした3つの宝石を見つめていた。
ただのカスドロップのはずなのに、偶然手にした3つの宝石が、彼女たちを心変わりさせてゆくのを見た。
「明日から早速動こうと思う。もしお前らの予定が空いてたら手伝ってくれ」
これ以上、何か自己完結されてしまう前に話をごまかそう。
俺は暖炉の前から立ち上がり、砂で炎を消して、それから自発的に玄関へと歩き出した。
「貴方がシャンバラのために尽くしてくれるのだから……あたしたちは、貴方の行為に報いるべきよね……」
「うん……私は、そう思うよ……。恩を着せられっぱなしは、落ち着かない……。だったら……」
「そうよね。あたしたちがユリウスの人生を勝手に変えたんだから、責任を取らなきゃ……」
「思う……そう思う……。襲っちゃえ……」
「姉を焚き付けんなよっ!? ああもういい、置いてくからな、じゃあな!」
一方的に玄関を飛び出すと、明るい声を上げてエルフの姉妹が背中を追って来た。
状況に飲まれてしまっているのだろうけど、ツワイクで独身暮らしをしていたあの頃と比べると、なんだか幸せでいっぱいの気分になれた。
今夜もう一度更新します。
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