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・冤罪から始まる転落人生

 順風満帆だった俺の人生に、冷たい向かい風が吹き荒れ始めたのは、あの虚飾と浪費を塗り固めた天幕での一件が発端だった。


 外では将兵が秋風と止まない小雨に震えているというのに、将軍の天幕では魔術師のローブを脱ぎ捨てたくなるほどに(たきぎ)が焚かれていて、今にして思えば、それが祖国の暗い運命を予言していた。


「後退しろだと!? 宮廷魔術師の分際で、王族の俺に意見するか!!」

「立場は弁えているつもりです。ですがアリ王子、これは――」


「黙れ、貴様の意見など聞いていない! 俺が追撃と言ったら、追撃なのだ!」

「いえ、我々が追っている部隊はまず間違いなく囮です。加えてここは夜の森、状況があまりに悪すぎます。もしこれ以上深追いすれば我々は――」


「黙れと言っている! お前ら薄汚い魔術師どもは、コウモリみたいに偵察だけしていればいいのだ!」


 俺の名前はユリウス、宮廷お抱えのエリート魔術師だ。

 そして彼はアリ将軍。現国王の三男で、現在はツワイク王国第2軍を指揮する血の気の多いヒステリー野郎だった。


「お言葉ですが、勝てる戦を台無しにするおつもりですか?」

「黙れ、王族である俺に意見するな!」


「聞いて下さい。今の貴方が見ているものは、敵が作り出した見せかけの功績です。この森の奥にあるものは、手柄ではなく、王族である貴方を狙った罠です」

「ええいっ、黙れ黙れ黙れっ! お前がいるといたずらに士気が下がるではないか! これは罠ではない、チャンスだ!」


 彼の言葉に賛同して、取り巻きの佐官たちが『魔術師風情が……』と口々に陰口を漏らした。

 宮廷で俺たち魔術師が嫌われているのは知っている。


 だがこれは、俺たちがこの戦で生きるか死ぬかの瀬戸際だった。

 後になって考えればアリ王子に進言したのは大失敗だったとも思うが、かと言って、他に選択肢はなかったとも思っている。


「すみません、私は犬死にしたくないから言っているだけで、決して貴方の人格を否定するつもりは――」


 よっぽど気に入らなかったのか、アリ王子は怒り任せに黒檀のテーブルに拳を叩き付けた。

 それでも怒りが収まらないのか、駒と地図まで弾き飛ばして、まるで蛮族のように歯茎をむき出しにする。


「もう辛抱ならんっ、宮廷魔術師ユリウス、貴様に帰国命令を下すっ! さっさとこの戦場から消えろっ、うさん臭いコウモリ野郎がっ!」


 その言葉に心より失望した。どうやら俺は王族をまだ買いかぶっていたらしい。

 こちらが冷たい目で見つめ返すと、ヤツの剣が冷たい音を立てて引き抜かれた。……戦場で味方に刃を向けるなんて、愚かにも限度がある。


「わかりました、そこまで言うなら仕方がありません。しかし、この後どうなっても知りませんよ……? 敵は戦後の交渉のために、貴方の身柄を狙っていることを、どうかお忘れなく」


 古くよりこの国では、魔術師が偏見の目で見られている。

 それでも俺たちがいなければ立ち行かない局面があるからこそ、宮廷魔術師という崇高な役職がある。


 偵察、伝令、破壊工作。今日まで俺がこの軍団の尻を拭ってきた。

 それを追い出すだなんて自殺行為だ。


「さっさと消えろ……。国に帰ったら、貴様を軍法会議にかけてやる! せいぜい首を洗って待っていろっ、クソ野郎ッ!」

「さて、その法廷ではどちらが被告側に立つのでしょうね」


「思い上がるなよユリウスッ、王族であるこの俺に! 二度と意見をするな!」

「だからこそです。貴方が本当に王族であると言うならば、敵に捕縛される前に、必ず自害なさって下さい」


「貴様ァァッッ!! ここで死ぬのはっ、貴様の方だっ!!」

「失礼、もう貴方には付き合い切れません」


 あの天幕にあれ以上残れば、先にこっちの気がおかしくなっていただろう。

 戦争が始まってより、付きっきりで軍を支えていた宮廷魔術師は、天幕を飛び出すと星すら届かない寒空を見上げて、王都行きの亜空間を開いた。


 これで汚れ仕事とはオサラバだ。

 一緒に戦った将兵たちが心配にもなったが、そのときはまだ解放感の方が勝っていた。



 ・



 その数刻後、ツワイク王国第2軍は、無謀な追撃のツケを支払わされることになった。

 敵が使ったのは、数に劣る側がよくやる古典的戦術だ。


 敗走をする味方を使って敵を深追いさせ、孤立したところを仕込んでおいた伏兵で包囲して叩く。

 俺の忠告を聞いておけばよかったというのに、彼らはつまらないプライドと慎重さを(はかり)にかけた。


「あの壊滅は俺のせいだけではない! あのコウモリ野郎が、宮廷魔術師ユリウスが敵前逃亡したせいだ! 偵察役を失ったせいで、俺たちは敵の伏兵に気づけなかったんだ! アイツが全部悪いんだ! アイツのせいで俺は捕まったんだ!」

「嘘吐けよ……」


 しかし、勝手に自滅してくれるだけならまだよかったが、よりにもよってアリ第三王子は戦後の軍法会議にて、責任を俺におっかぶせた。


 証拠不足で有罪にはされなかったが、俺は出世の花道である正規軍付から解任されてしまった。


 そして左遷先というのが、このポーション工場だ……。

 俺はあの戦争から3年間、宮廷付のエリート魔術師様だったというのに、今は錬金術師たちのために仕込みを手伝わされていた……。


――――――――――――――

【名前】ユリウス・カサエル

【職業】宮廷魔術師(左遷)

【スキル】

・魔法  LV57/99

・転移術 LV 9/10

・錬金術 LV80/99

     調合効果100倍

・処世術 ない

――――――――――――――



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[良い点] お邪魔します〜(*´ω`*) 出だし、とても良かった〜! 文章も上手いし読み応えがありそうな感じですね! とりあえず1話読もうかなと思ったけど、また読みに来ます。 ♡\(*ˊᗜˋ*)/♡
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