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第21話  吉浦電気・ブルンガ島工場 

       21、吉浦電気・ブルンガ島工場


 その吉浦電気・ブルンガ島工場は、これまた本当に人工の浮島の中にあるのかと思われるほど巨大で、一片が100mもある作業棟が2列で3ブロック、計6棟並んでいた。それぞれの建物がアクリル板で遮断されているのは塩害を防ぐ為だそうだ。

「工場内の案内は、工場長の脇田が行います」

 富永は小柄で真面目そうな脇田に山部たちを託した。

「どうぞ、こちらへ」

 脇田に付いて作業場に入ると、そこはまるで未来都市のようだった。

 空調設備が行き届いた内部は、暑くもなく寒くもなく、空気までが美味しく感じられる。しかも驚くほど静かで清潔な工場だった。ゆっくりと流れるラインの前では、ブルンガ人たちが慣れた手つきで、製品を組み立てており、まるで工場全体が一個の細胞のように機能的に思えた。

「これ程すごい工場とは思いませんでした」

 山部が感心すると、脇田はまんざらでもない様子で、

「規模から言えば、相模のマイクロLEDディスプレイ工場の方がずっと大きいんですが、生産効率はこちらの方が高いです。あちらは国内とアラブ向け16K高級テレビ。こちらでは、それ以外の地域に向けた輸出用廉価版の8Kテレビを生産しています。組立て作業員に日本人はいませんが、ラインは最新の物で生産速度は相模工場の倍近くあります」

 と、語った。

 この様子を見て山部は直接本題に入らず、波力発電所の高本との会話でも行ったように、脇田にも吉浦電気のスゴさについて少し語らせることにした。

「この分野ではひと頃、日本は苦境に陥っていて、国内を代表する電気メーカーが共同で創設した会社ですら、台湾企業などの傘下に入らないと経営が成り立たない時期があったかと記憶していますが、吉浦電気さんは単独でこれらの工場を可動されてるんですね」

「ええ、まあ10年もあれば様相も変わりますからね。ウチもまた原点に立ち戻ったということになりますかね。この分野では今でも大手が強いですが、そんな中でも吉浦電気が躍進している理由は従来の発想を転換したからです」

「なるほど。発想の転換ですか。具体的には?」

「90年代まで日本の家電業界は、ブランド力があり、多機能高性能を売りにしているので他の国が作る廉価版家電とは競争にならず、十分に住み分けができると考えていたのです」

「だが違った?」

「そうです。世界のニーズを見誤っていました。70年代からの僅かな期間で獲得した日本製というブランド力など、デザインがよくて安く、ある程度の性能を持った新興国の家電を相手に、まったく意味をなさなかったのです。吉浦電気もまた存続の危機がありましたが、遅まきながらもそれに気づき、今度は後方から追う立場で会社を建て直しました。『家電は家具だ!』という会長の有名な言葉が生まれたのは15年ほど前の事です。すなわち、吉浦電気はそれまでの考えを改め、高素材、高品質を保ちながら、機能を絞り込んだ低価格の製品を生産し始めたのです。スイスの高級時計メーカーが、頑なに時計としての機能だけに徹する製品を作るように、単純かつ高品質、要するにマニュアルのいらない専門家電です」

 ここで檜坂も会話に割って入った。

「そう言えば、私たちはテレビのセッティングすら、配送員にやってもらわないといけない状態になっていました。沢山の機能が付いていても、最後まで使わないということが多かったと思います」

「そうでしょう。ですからウチのテレビでは地上波デジタルと最近のテレビでは必須のWiFi接続のみ。他にはUSB端子と音声出力がついているだけです。BSやCSのチューナーは、ユーザの方がレコーダーを購入されると付随してきますので省いています。一方で外観の素材やデザインにはこだわり、チークやマホガニーを使用した高級感あるものにしています。細かいところではクリック間のあるタクト・スィッチなどを採用しています」

 脇田は保管庫から部品の一つを取り出して山部たちに見せ、話を続けた。

「日本では家電リサイクル法があって捨てる際にもお金がかかります。つまり家電は捨てにくい。だからユーザーは家電の買い替えを望まず、長く付き合いたいと考えていたのに、メーカー側はそれを無視して相変わらずの価格競争を繰り広げ、壊れやすいのに短期間しか修理部品を保持しない不安な製品を作り続けてユーザーを困らせていたのです。これについてはパーツのブロック分けを工夫し、半永久的に修理を請け負う仕組みを作りました。依頼があればたとえ50年前に出した製品でも工夫して修理します。それがメーカーに対する信頼につながります」

「だから吉浦電気ではチープに見えるものは避けつつ、複雑な機能は省いたわけですね」

「ええ。でも先ほども言ったように音声出力端子とかは付けてますよ。なにせデジタルでは40型以上の大画面で映像が音声より遅れますのでね。0.0何秒という、僅かな時間ですが、会話の音と口の動きが会わなくなります。そこでテレビの機種ごとに音声を遅らせているんです。ですからレコーダ側から音を拾ってアンプに流すとタイムラグが出ますので」

「そういえば大型のテレビと小型のテレビが同時にかかっていると、同じ局の放送なのに音がずれるなと思っていました」

「そのとおりです。ただし、こうした家具調家電は、あくまで吉浦電機ブランドとして出す場合だけです。この工場でも低所得者の多い国向けには『ブルンガ電気』ブランドで、低価格・多機能商品を作っています。将来はそれぞれの国にその国独自のブランドを作り、あらゆる電化製品を、その国の国名付きブランドで販売しようと考えています。その場合、工場は当該国政府に任せて、ウチとしては生産指導と部品供給のみに徹します」

「はあ、つまり裏方に徹するということですかね」

「そういうことですね。こうした電気業界は世界的巨大メーカーが強く、その国独自のメーカーが製品を作っても採算ベースで軌道に乗せるのが難しいですが、勝算はあるんですよ。というのも最近になってスマホにしてもテレビにしても、そこから得られるビッグデーターがどれほど価値のあるものか、ようやくみんな気づき始めたでしょ。そのビッグデーターを超大国に握られるより、どの国の政府だって自国で管理分析したいはずですからね。そこを売りにするんです」

「つまりこの工場の成功が、次の夢につながったということですね」

 檜坂と脇田が打ち解けた頃を見計らって、山部が本題に戻した。

「吉浦電気さんが、ここに工場を作ろうと計画されたのは、浮島の貸出国がブルンガと決まる前でしたか? 後でしたか?」

「決まってからですが、その経緯については私は何も知りません。でもまあ、結果的に言えば工場は大成功でした」

 間宮の話では、浮島の表層に工場を作ると計画された後、すぐに吉浦電気に打診があったはずだ。それなのに脇田は対象国が決まってから工場の計画を決めたという。しかも計画の実行に資金面から躊躇したというような感もない。おそらく脇田は派閥的には会長と繋がる人間なのだろう。山部はそう推測した。

 ともあれ、ブルンガ島の吉浦電気工場がうまくいったのは事実のようだ。

「ブルンガの人々は勤勉なんですね」

 檜坂が作業風景を観ながら言った。 

「そうですね。クマの人達はこうした作業にむいています」

「ハミの人はどうですか?」

 山部は昨日海際のデッキにあるビアホールで昼間から酔いつぶれている人を思い浮かべながら尋ねた。当時はその人達がどちらの民族かは分からなかったが、その後、ルカから見分け方を教えてもらった。服装からいって、飲んでいた人達はハミの人のはずだった。

「ハミの人ですか。そうですねえ……、女性は頑張ってくれています」

 脇田は言いにくそうだったが、その様子からもこうした労働は、ハミの男性には向いていないのだろうということが伺い知れる。

 これまでの調査で分かったことだが、人生観というべきか仕事に対する考え方が、二つの民族間で大きく違うのだ。

「となると、工場で働く人はクマの人の方が多いんですか?」

「80%位でしょうか。ブルンガ本国で仕事内容を説明をしてから雇うんですが、応募された方にトウキョウ島での、あ、トウキョウ島と言うのは彼らが言うこの島の名称です。規律や契約事項を話すとハミの男性は大変そうだと辞退される方が多いんですよ」

「でも、この島にはハミの男性も多数、住んでますね」

「警察官や役人は圧倒的にハミの人が多いようですね。それと、個人商店を開いている人もハミの人が多いです。商店を切り盛りしているのは主に女性ですが、女性だけで移住してくることはあまりないので、ハミの男性も付いてきます。要するに工場の従業員とか波力発電書で働いているのはクマの人、それ以外で島の経済や治安を支えているのはハミの人というところでしょうか」

「なるほど。そう言えば、先頃亡くなられた、作業主任のモカンゼさんもクマの人でしたね」

「よくご存知で。彼のことはよく知っていましたので、亡くなられたことは私個人にとってもショッキングでした」

 脇田は少し驚いた様子だったが、ダメ元で尋ねた山部の方も、数千人いる従業員の中で工場長が、(いかにギャングに殺されたという鮮烈な亡くなり方をしたといっても)ひとりの従業員のことをよく知っていたということに驚いた。

「彼はこの工場で、最も優秀な作業主任で、かつ中心的な人物でした」

 脇田は意味ありげなことを言った。

「それはたとえば、労働組合の委員長だったとか?」

「いいえ、作業場での人員配置などでアドバイスをしてくれたのです。彼は特にクマ族の方の間で一目置かれていたようで。そうだ、友久教授も彼とよく会ってましたよ」

「エッ、モカンゼさんと友久教授は知り合いだったんですか」

 山部が言おうとしたことを檜坂が先に言った。

「モカンゼさんと仲の良かった人とかいますかね。ブルンガの方で」

「それなら彼が……」

 脇田が休憩中の一人のブルンガ人を紹介しようとすると、コーラを飲みながらこちらをうかがっていたその人物が、強く首を振って拒否反応を示した。

 おそらく彼は事件に巻き込まれるのを恐れたのだろう。他の人たちも同様に山部たちに話すのを嫌がっているように見受けられた。

「すみません。どうも色々とあるようで」

「いや、いいんですよ」

 山部としては、モカンゼについて工場で働くブルンガ人の誰もが話したがらない雰囲気があるという事実こそが重要に思えた。

 脇田はその後も工場に付随する娯楽施設や、病院等の充実した設備を、丁寧に説明していたが、山部の頭の中ではモカンゼの殺害と友久教授の事故(おそらくは殺害)がどう繋がるのかを考えることでいっぱいだった。


 山部たちが工場を出た時、関連する事件の報告が河野によってもたらされた。

〈おやっさん、大変なことが分かりました!〉

〈何だ? 日浦さんが何かしゃべったのか?〉

〈いや、彼の意識は戻ってるんですが、記憶に混濁があって、まだはっきりしたことは聞き出せません。そうではなくて、千歳烏山で捕まったブルンガ人の方です。やつはやはり人を殺していました〉

〈そうか……〉

〈実は今朝方、近隣のアパートから異臭がするという通報を受け、所轄が調べたところ、押し入れから少し腐敗した死体を発見していたそうです。遺体の状況から死亡推定日は10月11日。別の事件として扱われていたようですが、その死体の身元というのが……〉

〈追っていた元夫だったんだな?〉

〈おやっさんの言う通りでした! 彼はすでに殺されていました〉

パズルが一つ繋がったと山部は思った。

〈で、その死体と勾留中のブルンガ人との関係も分かったのか?〉

〈そうです。発見された死体のDNAとやつの持っていたブルンガ・ナイフから採取した血液のDNAがSTR検査で一致しました〉

〈となると悦子さんに致命傷を与えた切り口と、やつのブルンガナイフを照合すれば、かなり容疑が深まるな〉

〈それは間もなく終わるはずですが、それとは別に彼女のアパートを見張れる位置から、日本ではあまり見かけない銘柄のタバコの吸い殻が見つかりました。こちらの吸い殻に残った唾液のDNAが、やつのものだと判明すれば、さらに厳しく追い詰められるだろうと思います〉

〈でかした。これでやつを自白に導けるかもしれんな〉

〈そんなに難しくは無さそうですよ。おやっさんが推測された通りやつは組織内の暴力沙汰ならば不良外国人として本国に送還されるものと甘く考えていたようです。日本国内で犯した犯罪は日本で裁かれ、しかも麻薬の密売人同士のケンカではなく、友久教授の内縁の妻、三浦悦子とその元夫、二人を殺したとなると死刑の可能性が高いと話すと激しく動揺していました〉

〈よし。ここからが大事だぞ。やつが無理やり犯罪行為をさせられた被害者のように同情して、黒幕を吐かせろ〉

〈そいつは任せて下さい。良い刑事役になってがんばりますんで。それと聞き込み班の活躍で三浦元夫婦の関係も分かってきました。それによると、悦子さんと元夫は離婚してからも度々合う仲だったようです。友久教授以前にも高齢の独身男性が悦子さんの家に出入りしていたらしいんですが、しばらくすると元夫が戻って来て、手切れ金を何度も要求し、最後は脅して別れさすようなことを繰り返していたみたいです〉

〈要するに美人局か。友久教授はそれで300万を引き出していたんだな〉

〈そのようです。おそらく教授も三浦元夫婦のカモにされていたんでしょうね〉

〈なんてことだ。すると、三浦元夫婦は教授を金づるにしようと近づいたおかげで、とんでもない厄災に巻き込まれたことになるな〉

〈三浦元夫婦にとっては、とんだ災難でしたね〉

〈それからな、こっちの方でも一つ分かったことがある。友久教授の亡くなる前にモカンゼという男が殺されているんだが、その男も友久教授と親交があったようなんだ〉

〈ヒェ~、二国間をまたぐ連続殺人じゃないですか。いったい何が原因なんでしょうね〉

〈それはまだ分からないけど、勾留中のブルンガ人には、知ってることを全部吐いてもらわんとな〉

〈藤田さんと協力して締め上げます〉

〈頼んだよ。あ、ただしトリカン(取り調べ監督官)にどやされない程度にな〉

 山部はそう言い残すと通話を止めた。

「なんだか大変な連続殺人事件に発展しましたね」

 電話を聞いていた檜坂が言った。

「ああ、そうだね。順番からいえばモカンゼが殺され、友久教授が亡くなり(おそらく殺害)内縁の妻が殺された。これが10月6日。さらにその元夫が10月11日に殺された。しかし島内だけでなく、日本にやって来て関係者の周辺まで殺して回る程の理由があったのか? これは少し整理してみないといけないね」

 山部は上を向き、疲労が溜まっている首筋をさすった。


 学校の方向から教会の鐘の音が聞こえてきた。

 時刻は夕方の5時。毎日この時間に、教会の鐘がなるようだが、昨日聞いた鐘とは違うようだ。少し重厚で日本のお寺の鐘に近い。ブルンガ島には2つの教会があるが、もしかすると交互に鳴らされるのかもしれない。

 ホテルに戻ろうと歩いていると、檜坂が「実は私からも山部さんに少し報告しておかなければならないことがあります」と言い出した。

「報告?」

「あの後、私はもう一度アミラさんに会いに行ったんです」

「バカッ、一人で行動したら危ないじゃないか!」

「すみません、女同士なら何か話してくれるかと思いまして」

檜坂はどうしてこんなに頑張るんだろう? まだ若いのに、まるで引退を惜しむ老刑事のように突っ走る。 

「それで彼女は何か言ってたの?」 

「いえ、やはり誰が襲撃したのかは分からないと、言葉を濁すだけでした。それで私はダメ元でアミューズメント・パークを案内してくれませんかと言ってみましたら、彼女は頷いて、『Je vais vous guider au parc d'attractions』つまり『案内してあげる』と言ってくれたんです」

「えっ、遊園地に行ってきたの?」

「はい。彼女は確かラゴス大学に留学していたとルカさんが言ってましたので。私も同じナイジェリアのイロリン大に留学していたのよと言ったら、話が盛り上がって、それから一緒にソフトクリームを食べて、クレイジーマウスに乗って過ごしました。そうやって打ち解けたところで、おじいさんは、あなたに先生を辞めるように言ってたの? それはいつから? と聞いてみました」

「話してくれたの?」

「ええ。すると彼女は、さっきは何も言わなかったのに『モカンゼという人が殺されたり、日本人の教授が殺されたりしてから……』と言いだしました。つまり『この島の治安が悪くなったから』なのだと」 

「ちょっと待って! 彼女は日本人の教授が殺されたって言う表現をしたの?」

「はい。島に暮らすブルンガの人は、みんなそう噂しているそうです」

 これはどういうことだろう? 

 教授は少なくとも、ブルンガ島では事故で亡くなったと言われているはずだ。

 檀家周りをした人々は、富永も間宮も高本も脇田もアミラのような言い方をしなかった。

 ルカ・ベンはどう言っただろう? 確かここに渡る船の中で、教授にトラブルとかは無かったかと聞いた時、彼は少し考えて『(トラブルなんかは)無いんとちゃいますかね』と言わなかっただろうか。

 とすると、山部たちを案内している全員が外務省の(もしかするとブルンガ政府も含め)意向に従って話を合わせ、穏便に済まそうとしているということだろうか。

「で、誰が殺したと噂されてるとかは、話さなかった?」

「それは、聞いてみたんですが、アミラさんは急に黙ってしまいました」

「そうか収穫があったね。でも、もう単独で危ないことはしないでくれよ」

「すみません……」

 そう言って謝ったあとで、檜坂は少し考えているそぶりを見せた。

「実は、アミューズメント・パークでアミラさんの恋人かもしれない人と出会いました」

「なに、それは日浦襲撃事件の第一容疑者じゃないか!」

「彼はアミラさんと私の後をずっと付けていたようなんですが、私は尾行されていたことにまったく気づきませんでした」

 もしかしたら、その男は山部たちが長老の家に行った時からずっと付けていたかもしれない。そう考えると山部は少し背筋が寒くなった。 

「アミラさんと私がアミューズメントパークの中を、留学時代の話などをして歩いていると、昨日私のスカートを捲り上げた少年たちがいたんです。クスクス笑いながら近寄ってくるのが分かったので私が怖い顔をして睨むと、その子らは慌てて逃げ出しましたが、しばらくすると戻って来て、今度はアミラさんのスカートを捲くろうとしました」

「う~ん、アミラさんって彼らの学校の先生じゃなかったっけ?」

 そう言いつつも山部は自分がまだ小学生の頃のことを思い出していた。山部自身はおとなしい性格だったので、その子らのような積極的な行動には出なかったものの、若く美しい女性教師には淡い恋心を抱いていたものだ。

「確かにアミラさんは先生ですけど、やさしくておおらかな性格のようで、あまり強く叱らないタイプに見えました。でもその時、急に若い男が人影から出て来て子供のエリ首を掴み、どこかへ引きずって行きました。その男をアミラさんは前から知ってるようで『私の生徒に酷いことをしないで!』とか言ってました」

「君が観察したところ、初めて見る人という感じじゃなかったんだね」

「フランス語では、あなたという言葉には、vousとtuがあるんです。Vousは普通の人に使う表現でtuはごく親しい人に使います。アミラさんは、その男にtuを使いました。有名な歌に『Je t'aime moi non plus』というのがあるんですが、この時のtがtuの変形です。ただし男の方はアミラさんに対して、『おまかせ下さい』という意味の丁寧な表現をしていましたので、アミラさんを学校の先生ということで尊敬しているのかもしれません」

「なるほど。で、その男の顔を君は見たんだね」

「はい。日浦さんがヘリで運ばれて行く時にも現場にいた、ビアホールのギャルソンです!」


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キャラクター表は第一話前書き部分にあります。

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