百鬼 玉斗を右手に
「マスタぁ…会社の上司が怖いよぉ…」
それはいつも代わり映えしないやりとりの中に
割り込んできた
「あなたいつも愚痴を言いにくるけど
そろそろ彼女でも作れば?」
いつもみたいに会社帰りに行くバーでの出来事
「会社で出会えるはずもないでしょう?
おじさんおばさんだらけなんだからぁ…」
いつもみたいに愚痴をしていた時
「そんな失礼な事を言ったらダメだよ?」
それは突然に割り込んできた
カウンター右隣から声が聞こえた
僕はそんなに話すのが慣れていないから
その声にどぎまぎしながらも視界をそちらに向けた
そこにいたのは
形容し難く
名状し難い
マスターとは違った意味で性別がわからない
身の丈180cm以上はあるにもかかわらず
圧迫感を感じない
優しい顔を向けられ
長く靡く黄金に輝く髪は毛の一つ一つが優雅だった
瞳の奥には数千の銀河があるように思えた
「どうしたのかい?
そんなまじまじと顔を見られると
いささか恐縮してしまうのよ」
薄く微笑みながらそう彼は告げた
これは僕と玉兎の悲恋の話