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1-2 ただの女子トーク

「大丈夫だって。すぐに良くなるよ」

立ちすくむオレに対し、ユカが先を促した。

「……さっき何言ったんだ? それと関係あるの?」

「いやいや、そんなことないって。あんまりイチャイチャがすぎると、友達なくすよって言っただけ。ただの女子トークだから」

最後にボソッと彼女は追加した。

「……ちょっと効果が抜群すぎたけど」


女子トーク、などと言われたら口をはさめないし、そもそもイチャイチャはオレにも負い目があった。

だからこの件には触れないことにした。

……というか、実はちょっとだけ心のどこかでプリュイの不在に安心してたりして。


それというのも今日スカルホーンのもとを訪れる理由、それがズバリ、オレの妄想に関することだからだ。

プリュイが人間に変身した状態なら、オレたちは子供を授かれるんじゃね?

それはオレにとってはとても真面目で大事な疑問だ。

でも本人には言いにくい、っていうか誰相手でも口に出しにくい。

オレは一年後、学園を卒業してプリュイと結婚してから、この問題に取り組むつもりだった。

でも最近気になって気になってしょうがなくて、そんな時スカルホーンから呼び出され、オレは腹をくくった。

そこでオレは、とてもシリアスな話としてこの疑問を口にするつもりだった。


呼び出しの伝令はいつも通りニムロデで、首輪に挟まれた手紙には『プリュイも連れてこい』と書いてあった。

どこにでもいる茶トラ雑種ネコに見えて、ニムロデはどこか高貴な印象を与える。

昔そのことをユカに言ってみたら、『ネコは大抵そんなもん』とか返されてしまった。

しかしそうじゃないんだ。

スカルホーンが使い魔にと目をつけ、オレの最初の憑依対象であり、プリュイにうらやましいほど可愛がられているニムロデは、何でもお見通しみたいな雰囲気がある。

『だからネコってそういうもんなんだってば』とユカに言われたが、きっと違う。

今回もまた、オレを良い方向に導いてくれる予感があった、……多分。


どこからかフローズとユカにも話が漏れて、計四人でスカルホーンのところへ出かけることになったが、それでもオレの気は変わらなかった。

むしろ大人数で、いつものメンバーだったら気まずくなりにくい。

気まずくなってもフォローしやすい。そう思っていた。

でもやっぱりプリュイ本人には言いづらい。

そんなデモデモダッテなオレの背中を押すように、今プリュイがメンバーから抜けた。

これはオレにとっては願ってもない状況かもしれない。


「そういえばさっきのアレ、どうやったの? 魔法は使ってなかったよね」

オレ同様、何か考えごとをしていた様子だったユカが、突然質問してきた。

さっきのアレ、とは組手のことだろう。

魔法も使わず、目をつぶった状態で、どこから飛んでくるかわからないプリュイの攻撃を抑え込んだアレだ。


「ああ、アレか。実はオレもよくわからないんだ。オレの周りをプリュイがくるくる回っている気がして、それで突然とびかかってきた方向に腕を伸ばした。それだけだ」

「……へぇー」

「そんなに睨むなって。のろけ話じゃない。大体自分から話を振ったんじゃないか」

生暖かい目を向けてくるユカに弁解した。

「そういえば、昔もそんなことを言ってたわね。夏合宿の時だっけ?」

「……言われればそうだな」

「あの頃ってアンタたち今ほど親しくなかったよね。なのにそんなことができたの? 不思議な話ね」

言われてオレは返答に困ってしまった。


上手く説明できないが、たしかにプリュイはオレにとって特別な存在だ。

自分で言うのなんだが、オレはなかなか刺激的で楽しい毎日を送っている。

それはすべてプリュイのおかげ、プリュイと出会ってオレは変わった。

もともとオレとフローズはクラスでも目立たない存在の陰キャ、それぞれ孤高ぶったボッチで、ボッチ同士たまにつるむ、みたいな関係だった。

しかしプリュイが転校してきたあの日から、全てが変わった。

黒板の前に立つ彼女の美しさが全てを変えてしまった。

今のオレは、クラスはおろか街中でも結構な有名人だったりする。

憑依魔法も、被憑依魔法も、変身も、融合も、全部プリュイと出会ったことがきっかけで使えるようになった。

ユカや、スカルホーンをはじめとする面白い奴らとも知り合えた。

言ってみればオレが踏み入れたことがない、新しい世界への扉を開いてくれた女神、それがプリュイだ。


その出会いは偶然なんて言葉じゃとても片付けられない。

ユカに不思議がられるまでもなく、オレたちの間にはなにかあるんじゃないか。

それは常にオレについて回る、漠然とした大きなクエスチョンマークだった。


「遅い! こっちだ」

気付けば魔法研究院の正門についていた。

その伝統ある門柱に寄りかかった、ガラの悪いオオカミが大きく吠えた。

獣面人型のウェアウルフはガタイも大きい。

大抵の戸口は屈んでくぐらなきゃならないほどの大男がバカでかい声を出すもんだから、道行く人々はヤツを大回りに避けて歩いていた。

立ち上がったケモノのような毛むくじゃらの体はガチムチマッチョだし、それを見せびらかすような薄着を好むし、知り合ったばかりのころは正直ちょっとビビってた。


「悪い、フローズ。さっきはごめんな。ちょっと調子に乗ってちゃってさ」

「ふざけんなよ! だいたいオマエらいくら婚約したからって……、ってアレ? プリュイはどうしたんだ」

フローズはキョロキョロと辺りを見回した。

子分を心配する、みたいな親分肌なところが、コイツのいいところだったりする。

「それがさ。具合が悪いから今日はパス、だってさ。オマエによろしく、ゴメンナサイ、って言ってた」

「なんだそりゃ。さっきまで元気だったのにな」

と、ここでちょっとユカが顔をそむけたのは気のせいだろうか。


並木道を抜けて、オレたちはスカルホーンの研究室へと向かった。

道すがら、フローズにさっきのユカと同じことを聞かれ、同じことを答え、同じように呆れられた。

それに続く世間話は、やはり目前に迫った学園祭……、ではない。

今年はもっとでかいイベントがあるのだ。


それは夏に予定されている合同軍事演習だ。

人間の大国シンアル。すべてのエルフの故郷アルフヘイム。

この二つに開催地であるカディンギルが加わった三か国メインで、他いくつかの国が参加予定。

珍しいことに今年はウェアウルフたちのイアールンヴィズまで名乗りを上げている。

軍事演習自体が四年に一度の大イベントだが、アルフヘイムとイアールンヴィズの同時参加は百年以上ご無沙汰だったらしい。


「合同軍事演習、って言ったってアレだろ? お祭りみたいなもんらしいじゃないか」

学園祭の中止、イコール格闘大会の中止に憤っていたフローズだったが、詳細がわかるにつれ一番楽しみにするようになっていた。

「やっぱり格闘大会みたいなのやってほしいよな」

「いや、それやるとホントにシャレにならないんだ。昔やってたらしいけど、マジで戦争になったって」

フローズもユカも、魔法学園への入学を機にカディンギルにやってきた。

つまりこの中で合同軍事演習を一番詳しく知ってるのは、生まれも育ちもカディンギルであるオレ、ってわけだ。

この話題になるといきおいオレが質問に答える形になった。

「それでも楽しいぜ。何しろ二週間くらいずっとお祭り騒ぎでさ、準備も含めたら一か月くらいかな。街中の活気がハンパないんだ」


好戦的で血の気が多いが多いフローズはオレの言葉に落ち込む……、わけではない。

それどころかニヤニヤしている。

実はこの間あまりにフローズが落胆していたので、ついつい慰め半分で言ってしまったのだ。

合同軍事演習の最中は喧嘩が多い、特に夜の酒場とか危ない、と。

それを聞いた瞬間のフローズのパァッと輝いた目を見て、オレは後悔した。

コイツ絶対、夜遊びするつもりだ。

「オマエ、問題起こすなよ。先生も言ってただろ」

「大丈夫だって、オレたちにもイアールンヴィズから通知が来てんだ。絶対に、ゼッタイに問題起こすなって、これってもはや振りだろ?」

ウェアウルフのノリは知らないが、あながち間違いとは言えないのが恐ろしい。


「ホント、勘弁してよね。学園の生徒が発端になって国際問題、なんて恥ずかしすぎるわ」

ユカが盛大にため息をついた。

「最悪、私は卒業を待たずに帰還命令が出るから。去年の戦争だってかなり危なかった、っていうか本来なら完全にアウトだったんだから」

そう言いつつもユカは不敵に笑ってみせた。

「まあ、帰って来いって言われても無視するけどね」

どうもオレの周りには穏当派が少なくて困る。


「ニャーン」

研究等の前まで来るとオレの足元に毛玉がまとわりついてきた。

今では一応オレの飼い猫……、という設定だが、ニムロデは気まぐれで神出鬼没。

ひどいときには一週間くらい見かけない。

「よう、ニムロデ。お出迎えか?」

オレとニムロデは特別な関係だ。

去年の夏くらいまでオレはしょっちゅうニムロデに憑依して、街中を散歩していた。

プリュイがオレの家に下宿するようになってから、その回数は減っている。

しかし今でも猫の姿での散歩はオレのお気に入りだ。


ニムロデの先導でオレたちはスカルホーンのいる研究棟へと到着した。

案内役はお役御免でばかりに去ってしまった。

「相変わらず雰囲気あるわね」

薄暗い研究棟を前にユカが嬉しそうにつぶやいた。

そのセリフにフローズの盛大なクシャミがかぶった。

体がデカいだけに声もデカくてうるさい。

「わりぃ、昔のこと思い出しちまって」

「ああ、去年の今頃だっけか。あの時はさすがのお前も途中でギブアップしたんだよな」

オレは思わず笑ってしまった。


しかしフローズは笑わない。

よっぽどあの時の匂いがひどくて、思い出すのも忌々しい、といった風情だった。

さらにユカも笑わない。

嫌なことでも思い出したのだろうか。

そんな二人の様子を見てオレの頬も引き締まった。

スカルホーンに呼び出されたことから始まった、とんでもない冒険、それを思い出してしまったからだ。

もっと言えば嫌な予感、虫の報せ、というか。

オレはそれが気のせいであることを祈りつつ、薄暗い研究棟へと足を踏み入れた。


-----


ニムロデはどんなネコか?

さっぱりイメージがないことに気が付きました。

ということで色々なガラを調べた結果、茶トラに決定。

反対にイメージがあるくせに

これまで大して説明がなかったのがフローズです。

獣面人型、立ち上がったオオカミのような毛むくじゃら。

これまたゲーム的にはスタンダードな姿です。

(2021.1.3見直し)

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