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07――森の中でうさぎさんに出会った


 家がのっしのっしと森の中を歩いて、時折進行の邪魔になる木や魔物を倒しつつ移動して3日経つ。その間私は家の中でまったりしてた訳ではなく、この世界で必要なものとそうでないものを分けたり片付けたり、ある意味主婦らしい生活をしていた。


 あのタブレットの便利さにはこの短い間に何度かびっくりさせられてきたけど、なんと不要品をタブレットの上に載せるとこちらの世界のお金で買い取ってくれるという、驚きの新機能がある事をシーナが教えてくれた。現地の人に化学繊維とかそういうオーパーツを広めないようにという神様の配慮なのか、それとも別の意図があるのかわからないけど私にとっては非常にありがたい。


《リノ、このペースで換金すると家の中の衣類が無くなりそうですが》


「いいのいいの、どうせ今の私じゃ着れない服ばっかりだからね。娘の服も同じ状態だし、置いていてもタンスとクローゼットの肥やしだよ」


 笑いながらタブレットに一枚ずつ服を載せると、画面にそれぞれ『銀貨3枚ですがよろしいですか?』とか『金貨1枚ですがよろしいですか?』と確認のメッセージが出る。OKのボタンをタップすると、チャリーンという音と共に右上にある所持金の数字が増えた。


「そう言えばさ、このメッセージも数字も、本当はこっちの世界の数字や文字が書かれてるんだよね? だったら早めにこちらの文字も覚えないとだね」


《……私が変換して日本語で表示しますよ?》


「それはありがたいけど、本当の意味でこちらの世界の人間になるためには必要な事なんだよ。だってもしも誰かに勉強を教えてって言われた時に、シーナ挟んでやりとりをすると不自然な間が出来たりして変に思われるかもしれないじゃない?」


 私がそう言うと、シーナが頭の中で『そのようなヘマはしません』と少し怒っている様に返事を返してきた。いつもは澄ました感じで言葉を伝えてくるくせに、妙に人間くさくて笑ってしまう。


 まぁヘソを曲げたシーナに『通訳やーめた』ってされてしまうと、私の生活が立ち行かなくなってしまうだろうから、ボチボチやっていこうと思ってる。いまだに第一異世界人に会えてないけどね、いつになったら他の人に出会えるのだろうか。


 一応家には『近くにあるそれなりに大きな街へ向かって欲しい』と指示を出している。ただ、誰かに見つかって魔物と間違えられて攻撃されちゃったら大変な事になってしまう。できるだけ人目につかない場所で、街まで往復で1日ぐらいの距離のところに辿り着ければいいと思ってるけど、もしかしたら難しいかもしれない。だってそれって日本で例えたら、多分駅近徒歩10分みたいなところになるじゃないかな? 人通りとか多そうだよね、どれくらいの人が行き来してるのか知らないけど。


 そんな事を考えたりシーナと雑談しながら、不要品をタブレットで換金していると、突然けたたましいサイレンが頭の中に大きな音で響き渡った。頭痛がしそうな程の音量に、思わずこめかみを手で抑えてしまう。


「何これ、避難訓練!?」


《違います、リノ。どうやら家からの緊急連絡の様ですね、前方に魔物に襲われている子供がいるらしく、救出するかどうかの指示を求めています》


「そりゃ助けるしかないでしょ、何のんびりしてんの!? 急いで、ハリー!!」


 とんでもない報告を落ち着いた声でするシーナを、私はとりあえず声の大きさと強さで急かす。その光景が私にも見られたら、細かく指示を出す事もできるんだけどね。残念ながら窓が家の進行方向にはないのである。そう思った瞬間、目の前に半透明な枠が出てきてじんわりと映像が浮かび上がってきた。


《リノの希望により、現場の状況を映し出しています。ただし、これはリノにしか見えませんのでご注意ください》


 ちょっと、うちのシーナ有能すぎない? 多分冷静に考えたら私の思考を読めたり、視界に割り込んで映像を映せるとかそういうところに少しは恐怖を覚えるべきなんだろうけど、なんとなくシーナは私に悪影響を与える様な事はしないってわかるんだよね。だから今は私がすべき事をやる、余計なことは考えない。


 映像には木の上に今の私よりもいくつか年上に見える女の子がいて、木の周りには狼っぽい魔物が5匹……ぐるぐると木の周りを回っている。きっとあの女の子が落ちてくる様にプレッシャーを掛けているのだろう、女の子も落ちまいと木の幹にしがみついてるけど、落ちるのは時間の問題に見えた。


「シーナ、あの狼達を倒す事はできる? 最速で、大急ぎで!」


《リノ、少し落ち着いてください。あの木の周りは木の間隔が狭いので、このままでは家が分け入っていけません。ですので、石か何かを投げてこちらに注意を引き、近づいてきた魔物を倒すのが一番早いのではないかと思います》


 私がその案にGOサインを出すと、早速家は相変わらず幼稚園児が適当に描いたような手を動かして、地面にある大きめな石を拾った。振りかぶって投げたかと思ったら、まるで石がレーザービームの様なスピードで狼に向かって飛んでいき、木の根本をガリガリと引っ掻いていた個体に見事命中した。ううん、それどころか石が貫通して、ドサリとその一匹が地面に倒れる。


 仲間がやられたのを素早く察知した残りの狼達は、石が飛んできた方向に顔を向けてすさまじいスピードで家へと向かってくる。そこからはあっという間だった、向かってくる狼達を家は殴って蹴って絶命させると、のっしのっしと歩みを進める。


 前に進むのに邪魔な木々を必要最低限引っこ抜いて、家は先程より気持ちだけスピードを上げて少女がしがみついている木に向かう。家が木の前まで辿り着く前に緊張の糸が切れたのか、少女の体がふらりと揺れるとそのまま地面に向かって落下し始めた。


 なんとか家が手を伸ばしてキャッチできたからよかったけれど、あのまま落ちてしまっていたら大怪我では済まなかったかもしれない。ホッと胸を撫で下ろして家の手のひらに載せられた少女を改めて見ると、頭の上に私にはない長いうさぎの様な耳が生えていた。


「この子が前にシーナが言ってた獣人って種族なの?」


《はい、彼女は人寄りの獣人の様ですね。外見の一部に獣人の特徴が出ますが、その他の部分の見た目は人族と殆ど変わりがありません》


 他には獣寄り、中間種という種類があるらしい。そんな雑学を聞きながら、家に指示を出してうさ耳少女を家の中へと運び入れた。服もボロボロだし、転んだのかあちこち傷だらけだし。まずは治療からはじめないと、そう決めて私は彼女を起こさない様に慎重になりながら、服をゆっくりと脱がすのだった。


練習作なので、内容が面白い・面白くないに関係なく10万文字を目指します!

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