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プロローグ

異世界物の練習作です。


 結婚して20年、思い出すのは夫との結婚生活よりも姑とのバトルばかりだ。


 姑は世間によくいる嫁いびりが大好きな根性がひん曲がっている人間で、若い頃から私の物を勝手に捨てたり階段から突き落とそうとしたり、色々とされたものだ。


 娘が生まれてからは、子供の育児を取り上げられそうになった事もある。子供に嘘八百を吹き込んで私を嫌わせようとした事もあった、嫁いびりに子供を利用するなんて本当に性根の腐った人間だ。


 そんな事をしていた罰が当たったのか、姑は若年性アルツハイマーになって何もかもをさっぱりと忘れてしまった。私としてもわだかまりがあったし介護なんて絶対にしないと思っていたのだが、夫に土下座して頼まれて致し方なく心を無にして姑を介護した。


 介護を始めて10年、地獄のような日々に突然終わりが来たのだ。風呂に入っていた姑が、急性心不全で入浴中に亡くなったのだ。葬式の時はやっと終わったのだという達成感から涙を流してしまったが、事態はこれでは終わらなかった。


 なんと私に介護を押し付けていた夫が、若い女の子と浮気していたのだ。これにはもう私も娘もぶちキレて両方に慰謝料請求をし、離婚する為に戦った。てっきり夫は簡単に離婚届に判をつくかと思ったが、何を血迷ったか私に再構築を申し入れてきた。私は姑にどんな嫁イビリをされ、それに対して夫が全く助けてくれなかった事を当初から日記のように書き留めていた。『悪気はない』『本当の娘だと思って気軽に接しているんだよ』などのらりくらりとかわされてきたのだ。


 おそらく浮気の慰謝料と姑の介護の実績、そしてまったく私を助けてこなかった事を累積してかなりの慰謝料を取られると腰が引けたのだろう。どこまでも自分の保身しか頭にない男である、なんでこんなクソみたいなヤツと結婚しちゃったんだろうなぁ。


 浮気相手の女の子はすぐに白旗を上げて、両親と一緒に三人で弁護士事務所にて土下座をされた。そんな事をされても私には何の得もないので、お願いしている弁護士さんに粛々と慰謝料請求をしてもらい、150万円という苦労に見合わないお金をもらって手打ちにした。


 女の子に逃げられた夫は捨てられまいとこちらにしがみついてきたが、調停から裁判へと舞台を移そうかという頃にようやく折れて離婚届に判を押した。相場よりも高い慰謝料と財産分与が私の口座に振り込まれて、役場に離婚届を提出して晴れて他人になれたのが昨日。


 娘と一緒に祝杯をあげて、気持ちよく布団に入って……これから新しい第二の人生を歩き出そうとそう思っていたのに、何故こんな事になったのだろう。






 目が覚めたら真っ白な世界にいた。壁もなければ家具もない、これでベッドでもあれば病院かと思うのだけど、本当にただ白いだけで何もない空間だった。


「ようこそ……というのはおかしいですね、おかえりなさいが正しいのでしょうか」


 声が聞こえて振り向くと、そこには輪郭が曖昧だけど人の形をした何かが立っていた。男なのか女なのか、大人なのか子供なのかそれすらも判別できないくらい薄ボンヤリとしている。


 ここがどこだと問えば、死後の世界の入り口だという。何故私がこんなところにいるのかと問いただせば、眠っている間に心筋梗塞を起こして死んだからだと言われて呆然としてしまった。


 『張り詰めていた気持ちが一気に緩んだからですかねぇ』なんて言われて一瞬ムッとしたけれど、でも確かにそれが原因なのかもなーと思う自分がいた。離婚が成立しているから私の遺産は娘に全額渡る事になるだろうし、もうこれでいいのかなという諦めもある。せっかく自由になったし新しい事や楽しい事もしてみたかったけど、死んじゃったなら仕方ないよね。


 薄ボンヤリさんが言うには、ここは生を終えた魂が洗浄されて次の生へと送り込まれる場所の少し手前なのだそうだ。名乗ってはいないけど神様みたいな感じなのかな、この人。


 彼なのか彼女なのかわからないけど、この人の説明を噛み砕くと私は死者の中でも高い善性を持った存在なんだって。姑に嫌がらせをされても復讐せず、嫌っているはずの姑の介護を彼女が死ぬまでやり遂げた事が大きなプラスポイントになっているらしい。夫との離婚の際のあれこれは人間としてルールに則った正当な対応なので、プラスにもマイナスにもなってないんだとか。


 なんだかよくわからないけど、この人達にもルールがあってそれに沿って戻ってきた魂の位階を決めている感じなのかな?


 それはさておき、善性を持っていて生に未練が残っていそうな魂という事でピックアップされた私は、薄ボンヤリさんにお願いをされた。この人が管理している世界があるのだけど、実際のところ細かい所までは目が行き届いていなくて、洋服のほつれみたいに世界がダメージを負っているらしい。彼らは直接世界に干渉ができないので、私に代わりに行ってもらいたいそうだ。


「難しい事はありませんよ、あちらには特別製の体を用意しますから。あなたはただ、私の世界で新しい人生を生きてもらえればそれでいいのです」


 私の見ている光景を彼らも見れるそうで、私の体を通して魔力を送り込みほつれを修正するみたい。しかも私に気づかれずに作業ができるらしく、私は一切彼らの事を気にせずに新しい人生を歩み始めればいいらしい。


 あまりにも私に都合がいい話だったので、詐欺なのではと疑って色々と質問責めにしてしまった。言葉やあちらの世界の常識は用意する体の方に染み込ませてくれるし、お金も結構な額を持たせてくれるようだ。あちらの世界は魔法があったり魔物が跋扈している世界らしく、身を守る手段も用意してくれるとか。


 ただデメリットとしては4歳児ぐらいの子供の体に魂を入れる事になるのと、このような強引な手段はなかなかできないらしく、長く彼らの目でいられるように長寿な人種に生まれ変わるらしい。普通の人間だとあちらの世界では、せいぜい50~60代ぐらいまでしか生きられないらしい。たまに70代まで生きる人もいるらしいが、すごく稀な事なんだって。


 らしいらしいばっかり言ってるけど、仕方ないよね。だって私にはその情報が正しいのか間違ってるのかわからないし、判断もできないんだから。


「わかりました、謹んでお受けします」


 せっかくの申し出だ、これまで生きてきた世界とは違えど人生をやり直させてくれるというのならありがたい。しかも私としての人格や日本で生きた記憶まで保持して生まれ変われるなんて、薄ボンヤリさんは出血大サービスし過ぎではないだろうか。


 あまりそういうファンタジーには明るくないけれど、頼まれたからにはしっかりやろう。そう決意表明すると、薄ボンヤリさんの顔は見えないけれど少し微笑んだような気配がした。


「それでは、あなたの新しい人生に幸多からん事を」


 少しオマケしておきますね、と小さく呟いた後にそう言われて、私の意識は真っ白な光に覆われてフッと途切れた。


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