荒れる金曜日
金曜日である。非日常な一日がそこにあった。
「なぁなぁ、なんで篠原さんと仲良く帰ってんの?どうやって口説いたんだよ」
そうだ…休み時間こういう噂を聞いて他クラスの知らない人が俺のクラス一組にも来ている。
それだけならいい、それだけなら…
これ以上に面倒ごとが起きるのは辛い。
そして、四限目終了後、
「おいお前、篠原さんとどういう関係なんだ?ああ?どう考えても釣り合うのは俺なんだけど、ふざ
けんのも大概にしろ!」
こんなことがある。
優しいと思っていたサッカー部エースは今、芽衣がジュースを買いに行っているときに俺のところに来ているのだ。迷惑だ…
ちなみに芽衣と俺の席はあの男女別の出席番号なので窓際の一番後ろから一席前が俺で、その横の女子列の一番後ろが芽衣なのだ。近すぎるから、不在の時を狙ったんだろう。
「すまん…」
とりあえず謝っとこう、言い訳とかも思いつかなかった。
すると、
「すまんで済んだら警察なんかいらないんだよねー、はよ質問に答えろや!」
あぁー…なんて答えればいいんだろうか…全然思いつかない
あの調理実習がダメなのかな?関わったことが俺には初めてのことばっかだったから何が悪いのかわからなかった。
「答えられないくらいやましい関係なんだな。死んだ顔しやがって目まで死んでんぞ!ようそれでおてんとさんの日なんか浴びれるな。せっかく俺の女にしようと思ってたのに、邪魔しやがって、てめえの…」
「あんた!如月君にそんなこと言うのなら私は許しません!あなたがそうやって人を馬鹿にしているとは、外見で判断して人を決めるの良くないですね。ということで、あなたは私のタイプではありませんので嫌いです。早く教室から出て行ってください」
「なっ」
芽衣はいつから見ていたのだろうか…しかし、サッカー部どんまい。助かりました天使様。
それにしても、あのサッカー部を論破するのはさすがだな…
「如月君、私のせいでご迷惑をおかけしました。もし許してくださるのなら…(小声で)嫌いにならないで…」
優しい笑顔で言うとか反則だよ。普段あんな笑顔見せないのに珍しい。
「いやいや、いいよ。まああいつが言ってるのも間違ってないし、俺じゃ学校の天使様じゃ釣り合わんだろう、一緒にいること自体さ…それにお」
「天使と呼ぶのはやめてください」
「は、はい…すいません」
なんかさっきまでの笑顔が消えた。やらかした。
「私は天使でも何でもありませんし、嫌なものは嫌ですし、そもそも他人にどうこう言われる筋合いなんかありません。釣り合う釣り合わないなんかは他人が決める事じゃないですし、あ、なんか…ごめんなさい」
少し沈黙が…クラス内も静かだ。
「あのさ、俺も申し訳ない、悪いのは俺だ」
「…あっあの、もしよかったら一緒にお昼食べませんか?」
天使様ーいや篠原様、マジやばいです。今ここで言うと、周りの視線が刺さって痛いんだけど…
しかし、相手が芽衣だから断れない。
「おっおう…」
「外、行きましょうか。あの桜の木の下!あそこで食べてみたいです」
「待って待って待って、あそこはリア充の巣窟だ、俺はいけねぇ…」
如月壮太、キャラ種族…陰キャ、ステータスは料理技能及び手先が器用以外は最低値である。
そして、リア充耐性はマイナス十くらいありそうだ。あんなとこ行ったら、俺が干乾びちまう。
「でしたら…屋上はどうでしょうか?」
「まっまあいいか…」
多分芽衣は、気を利かして外で食べようと言ってくれたんだろう。屋上は屋上で人が多かったが、他クラスの芽衣に告白してきたやつもいて、少し居心地が悪かった。
しかし、周りの視線は気にしない芽衣だった。
そして、六限目終了後、芽衣に声をかけられた。
「如月君、一緒に帰りましょ」
「わかった」
俺らは学校と家が近いので、歩きでの登下校である。そして、その帰り道に事件が起きた。
「ねぇねぇ如月君♪ぜーったい明日お昼ご飯食べないでくださいね!作ってほしいです」
ものすごくニコニコして言うとか…絶対断れないやん。
「はいはい、何を作ればいいんだ?」
「そうですねー…」
考えてなかったんだなー。俺が言ってみるか。
「昼飯だから、サンドイッチとかでいいんじゃないんか?」
「わーい!でしたら、夜はどうしますか?」
「え?」
え?え?え?夜?は?
「夜も時間があるのなら一緒に食べたいです。できればそのー…きゃ」
話を聞いていたら芽衣が突然つまずいた。俺はとっさに手を伸ばした。しかし…あー、ものすごく柔らかい大きな何かと腕でがっちりホールドされてるんだけど、こけなくてよかったけど…俺は目のやり場に困るし、周りの視線が痛い。
あー、ほら、あそこにあのサッカー部が、めちゃくちゃ顔が真っ青になってる。
ってなんか長いな。興奮すんぞ、理性がっ…もしかして誘ってる?
「篠原さん、もういいかな…」
「これで帰りましょ、如月君が逃げないように」
「え?俺逃げないけどな…」
こうしてまた疑惑が生まれたのだった。