天使からのお誘い
あの雨の日の次の日、木曜日である。
芽衣と壮太は、その後の進展はなく、普通の学校生活を過ごしていた。
そして、四限目、調理実習、実は明星高校は教師が変わって一年に五度、調理実習があるのだ。
重要なのはなんでも班決めだ!っていう人がいるがこの高校では、男女別名前順で男子三人、女子三人の計六人のグループが作られる。
なぜ六人かというと、この明星高校二年一組なのだがクラスの人数は四十二人なのでちょうどいいのだという。
そして、壮太は名前順で五番、二班になった。
芽衣はというと、さ行なのだが、この学校は全体的にあ行とか行は少ないのである。
そのおかげで六番、芽衣と壮太は近いのだ。
だから同じ二班、それだけなら問題ない、それだけなら…
「クラスの出席を取りまーす。おっと、休み多いねー、四番、五番、男子、四番、六番、それから、十二番、三十番、三十五番、四十番が休みねー。ん?篠原さんと如月君はもうペアね、仲良くやってちょうだいよ。それじゃあ授業を始めましょう」
え?待て待て待て、二人?
グサッグサッグサッ、周りの視線が痛い。
「クラスで優秀の篠原さんがいれば大丈夫でしょう」
しかし、芽衣は顔が青ざめていた。
体調でも悪いのだろうか?あ…俺がいるからだ…
「篠原さん、顔色悪いよ、大丈夫か?」
「わっわっ、何でもないの」
めっちゃ頭振って否定している。たぶん大丈夫なんだろう、それにしても、仕草が可愛いな。
俺は自分で言うのもあれだが、ほかの男子よりは料理をするのに自信がある。
篠原さんもいるし、多分二人で十分完成するだろう。俺が篠原さん迷惑をかけるまである。
「はい。では、エプロンを着てー、手を洗ったら作業開始です。作り方や必要な分量は前のホワイトボードに乗ってます。」
さて、始めるか。篠原さんのエプロン姿やべえ…
「えーと…まずは、人参と玉ねぎ、それからジャガイモを切るんだな。人参は一口大の好きな形に、ジャガイモも一緒か、玉ねぎは…千切りだな」
「あっあの…」
少し緊張したような声で聞かれた。
「何をしたらよろしのでしょうか」
「んー…まずは人参二本、玉ねぎ二個、ジャガイモ三個を切るみたいなので自分玉ねぎ切るので、人参とかお願いします。」
「あっ…はい!分かりました」
周りから篠原芽衣様に指示するな圧力がかかっていて怖い。それよりも、今日は余裕がない感じだな、どうしたんだろう。
そう思って芽衣のほうを見てみると
ガタガタガタガタ
「(小声で)は?アニメでしか見たことないんだが…」
実は芽衣は料理だけはできないのである。
芽衣は包丁を持って人参を抑えてガタガタ震えている。
「(小声で)大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫…」
やばそうだな…
「篠原さん、ほんとに大丈夫?」
「すいません食材切れないです…」
おいおいまじか、俺は学園の天使様が食材切ることをお茶の子さいさいだって知って…え?
「まじか…わかった。俺が切るよ、だったら、ほかの材料を取ってきてもらえると助かる。」
「はっはい!」
周りの人たちは壮太に「料理とかできないだろ」「篠原さんかわいそう。後で料理持ってってあげよ」「マジかよ」「これってさ、俺が作ったって持っていけば口説けるんじゃね?」なんて言葉が聞こえたが、俺には関係ない。
トントントントントン
「「「えっ?」」」
この調理室にいる人、先生までもが二度見した。
「きっ如月君は料理するのがうまいのね…加点しといてあげるわ」
よし!加点だ!家庭科の通知表は十段階中二だ。加点…いつも寝ているからこれはでかい。
まあ、二ってかなりやばいんだけれども…
そして、具材をすべて切り終わったところで、
「如月君、ちょうみりょうをもってきました。ここに置いておきますね」
「おう、ありがとう」
そしてついに、
「おおお!如月君すごすぎです!」
肉じゃがに人参のグラッセ、みそ汁を作るよう書いていたのでとりあえず完成した。
芽衣はものすごく興奮している。
しかし、食べ始めたのもつかの間、とりあえず六人分の量を天使様と普通の食欲の男子高校生にはすべて食べきるのは無理だった。
だから、周りに人が集まってきた。
「壮太、食べていいか?」
「いいよ」
そう言って食べた彼は、
「うっうま…なんか俺らのと一味違うくね?」
「…」
「え?まじ?私ももらうねー」
もうそれは、沢山の人で賑わった調理実習となったのだった。
「「「ごちそうさまでした」」」
「これはな、篠原さん手作りじゃないってのが意外だわ」
「だな、壮太…見直したわ」
「そうか…それはよかった。」
そして、そのあとの五限目、六限目は無事に終わりSHRが終わった。
すると、
「如月君…ちょっといいかな…」
芽衣から声をかけてきた。
「ん?」
「今週の土曜日、お昼ごろから時間ないかな?」
「あるよ?」
壮太のバイトは土日をオフにしているのである。
「じゃ、じゃあその、家に来てくれませんか?」
まっまさかのお誘い…なんかありそうだけど、断る必要はない。
しかも家とは…ここで言われたらさすがに断らなければ…
「いっいや、確かやっぱりバイトが…」
「えっ…」
芽衣は今にも泣きそうだった
そして、俺の制服の裾をつかんでうるんだ目で上目遣いをしてねだってきましたよー。
「土曜日の12時、空いてますか?」
「了解…」
篠原芽衣よ…めっちゃうれしいんだが、男女の視線が痛いんだが。この願い、届け!ってな…
「あの…一緒に帰りましょう」
「はい…」
断れないから仕方ないんだよ、男子諸君!
そして一緒に、しゃべっているところ、帰っているところを見られて、次の日、学校で冷やかされ、尋問を受けたのは言うまでもない。
それから、案外家が近かった。