デカくて強い男
クリムは小さな声で驚きながら、大男を見ていた。
「珍しいか? 俺みたいにデカい奴が?」
「ええ、まぁ」
クリムが答えた瞬間、大男は大きな腕でクリムを掴み、廊下の壁に叩きつけた。
「グハァ‼」
「テメーみたいな小娘の相手をしてる場合じゃないんでな。あのロリコンの政治家を始末しろと言われてるんでね」
「そうは……させませんよ、これでも守ってくれって言われてるんです」
全身に走る激痛を回復魔法で和らげながら、クリムは立ち上がった。その様子を見て、大男は一瞬驚いたが、すぐに笑みを見せた。
「珍しい小娘だな。痛い目にあっても俺に立ち向かうとは」
「あなたの動きは大体把握しました。今すぐに負けを認めて逃げることをお勧めしますよ」
「強がりを言うんじゃねぇ‼」
大男はもう一度クリムを壁に叩きつけてやろうと考えながら、クリムを掴もうとした。だが、クリムに触れようとした瞬間、大きな静電気の音が聞こえた。
「ガア!?」
突如響いた静電気の音、そして一瞬だけ走った大きな痛み。大男は怯みながら後ろに下がった。
「魔法使いか……厄介な相手だな」
「あなた、テレビは見てないんですか? こう見えても、私はただの魔法使いではありませんよ」
クリムは魔力を開放し、風と光の魔法を駆使して攻撃を始めた。大男は攻撃をかわしつつ、クリムに近付こうとしていた。
「体に見合わず華麗な動きをしますね」
「褒めてるつもりか小娘? このダバンバ様を?」
大男、ダバンバはクリムに近付き、蹴りをくらわそうとした。だがその瞬間、突如ダバンバの周りに霧が発生した。この霧が魔法で作られたものだと察すると、ダバンバは両手を振り回しながら霧を払った。
「くっ、逃げるつもりか!?」
「逃げませんよ。あなたをほっといたら、いずれ厄介な事になりますので」
クリムの声がエコーのように響く。居場所を悟られないように、クリムは魔法で加工していたのだ。
「ふざけた真似を‼」
憤りながらダバンバは腕をさらに早く振り回した。だが、手には何かが当たる感覚は全くしなかった。
数分後、疲れ果てたダバンバは片膝をつき、周りを見回していた。霧で何も見えないが、それでもクリムに近付こうと思い、歩き始めた。
「どこだ? どこにいる!?」
「ではお望み通り……」
「「「「「姿を見せましょう」」」」」
その後、ダバンバの前に無数のクリムの姿が現れた。
「分身……だと……」
「分かりますか?」
「どれかが本物ですよ」
「当ててみなさい」
クリムの挑発に乗り、ダバンバは目の前のクリムを殴った。だが、幻影だったのか、クリムの姿は消えてしまった。
「外れか……」
「残念ですね」
「次は当てられますかねぇ?」
「無理だと思いますけど」
クリムの声を聞き、ダバンバはさらに怒り出し、攻撃を始めた。だが、いくら攻撃してもクリムに攻撃を与えることは出来なかった。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおお‼ 一体どうすればいいんだァァァァァァァァァァァァァァァ‼」
ダバンバは両ひざを突き、その場で叫んだ。この直後、突如ダバンバの意識は途切れた。
「ふぅ。厄介な相手でした……」
クリムの目の前には、宙に浮いていて、白目をむいているダバンバの姿があった。先ほど光と風の魔法で攻撃した際、クリムはその中に相手に幻影を見せる魔法を使っていたのだ。その幻影は、突如霧が発生し、戦っている相手が無数に現れるという内容の幻影。つまり、先ほど見ていたダバンバの光景は、すべて幻であったのだ。
気を失っているダバンバをそのまま宙に浮かした後、クリムは急いでシュウの元へ向かった。
しばらく走っていると、地下への階段を見つけた。
「見つけた……」
クリムは扉を蹴飛ばし、地下室へ入った。その音を聞いたのか、奥の扉からシュウがコンリを連れて姿を現した。
「クリム‼ 無事だったか‼」
「先輩も無事でよかったです‼」
互いの無事を確認したバカップルは、急いで近付いて抱き合った。
「おい、そんなことをしている暇があるなら、私を守れ‼」
自分を無視して二人だけの世界に突入しているバカップルを見て、コンリが叫んだのだが、バカップルの耳には入らなかった。しばらく馬鹿二人がイチャイチャしていると、階段から足音が聞こえた。
「見つけたぞ‼」
「はっ‼ 情けねー姿だなオイ‼」
敵がコンリを見つけ、発砲し始めたのだ。
「ヒィィィィィィィィィィィ‼」
コンリは銃弾から逃げるため、再び奥の部屋へ戻った。
「全く……人がイチャイチャしてるって言うのに……」
「状況を考えろよ、お前ら」
苛立ったバカップルは魔力を開放し、銃を構え、敵に向けて攻撃を仕掛けた。その攻撃によって、敵を一気に殲滅する事が出来た。
「さーて、敵は殲滅しましたし、上に戻りましょう」
「おい、ロリコンクソジジイ。さっさと出て来い」
シュウは扉を開け、中で悲鳴を上げているコンリを連れ出し、クリムと共にタルトとリナサの元へ向かった。
「おお、シュウ。無事だったか」
「こっちは片付いたよ」
タルトとリナサは周りを見て、敵を倒したことをバカップルに教えた。
「これでひと段落はしましたね」
クリムは安堵した顔でこう言った。だが、心の中ではこの騒動がまだ続くだろうと考えていた。




