それだけで……
無事にゼルの遺品を回収したシュウ達は、モリスが用意した車に乗っていた。
「師匠、車の上に乗せたウォーリアーシャークをどうにかしてくださいよ」
「車が重みに耐えきれず、沈んでいます」
バカップルの言うとおり、車体の上にはティラが力づくで運んできたウォーリアーシャークが乗っていた。文句を言うバカップルに対し、ティラは大声で怒鳴った。
「何を言うか‼ こいつは鮫だが、一応魚だ‼ 身は食えるし、骨も上手く加工すれば武器や防具にもなる‼」
「本音は?」
「フカヒレ酒が飲みたァァァァァァァァァァァァい‼」
「じゃ、これは近くのスーパーに売ってきますねー」
クリムがこう言うと、外に出ようとしていた。ティラはクリムを止めるため、力強くクリムの尻を掴んだ。
「あだあああああああああああああああああ‼ お尻を掴まないで下さァァァァァァァァァァァァァァい‼」
「私の酒の楽しみを奪う奴はこうだァァァァァァァァァァ‼」
「師匠、クリムの尻を離してください‼」
と、騒ぎ始める三人を見て、ラックはため息を吐いた。
その後、車は無事にモリスの家に到着した。クリムはゼルの遺品を持って、屋敷の中に入って行った。
「モリスさん、ゼルさんの遺品を入手しました」
「おお‼ ありがたい……ありがたい……」
モリスはクリムからゼルのペンダントを受け取ると、膝をついて涙を流し始めた。
「そうだ……そうだ……あいつはいつもこのペンダントを付けていた……いつも言ってたな、このペンダントの中には愛する人の写真があると……」
「ゼルの遺品……」
突如、上から女性の声が聞こえた。
「リンス? 立ち上がって大丈夫なのか?」
「はい」
リンスは返事をすると、階段を下りてシュウ達の元へやって来た。
「今、モリスさんが手にしているのがゼルさんのペンダントです」
「そして、これが腕時計です」
ラックから腕時計を受け取ると、リンスはじっくりと見てこう言った。
「そうだわ……間違いない。これはあの人がいつもつけてた時計……」
「リンス……ペンダントを見てくれ」
と、モリスは言うと、ペンダントを開いて中を見せた。それを見て、リンスは茫然とした。
「……私の写真……あの人が撮ってくれたものだわ……」
リンスはこう呟き、涙を流し始めた。しかし、その表情は変わらなかった。モリスは少し動揺しながら、リンスにこう言った。
「あの……どう……だ? やっとゼルの遺品が見つかったんだ。リンス……」
おどおどとしているモリスを見て、リンスは少し笑ってこう言った。
「何を言っていますか。確かにあの人が亡くなってから、私は絶望の淵に立たされていました。しかし、あなたはゼルの代わりに私を幸せにしてくれた。望まない結婚だと分かってても、私とあの人の関係を分かってても、あなたはいつも一生懸命だった」
「リンス……」
「あなた、こんなことをしなくても私は幸せです。あの人も……ゼルもあなたを見てこう思うでしょう。リンスがモリスと結ばれてよかったと」
この言葉を聞き、モリスは大声で泣き始めた。
翌日、シュウ達の案内でゼルやそのほかの船員の遺骨や遺品が回収され、ララバイソングの沈没によって命を落とした人々の慰霊塔を立てた。
「これでやっと……ゼルも報われただろう……」
出来上がって慰霊塔を見て、モリスは呟いた。クリムは慰霊塔の前に花を供え、拝み始めた。その後、シュウとラックもクリムと同じように行動した。
「……あれ? ティラさんは?」
拝み終えたラックは、周囲を見回してこう聞いた。バカップルは少し呆れながら、後ろの方を指さした。そこには、巨大なタルを担いだティラの姿が見えた。
「な……何持ってきてるんですか!?」
「見ればわかるだろ、酒だよ酒。これであの世でワイワイやってくれって意味で持って来たんだよ」
そう言うと、ティラはその酒を供え物の所に置いた。
「あーあ……こんなことをしていいのかな?」
「大丈夫だと思います。ゼルは結構酒好きでしたので」
と、リンスは答えた。
ティラは拝み終えた後、シュウ達を見回してこう言った。
「さて、それじゃあそろそろ村に帰るか」
「そうですね。依頼は終わりましたし」
「はい」
シュウ達の会話を聞き、モリスとリンスが前に立って頭を下げた。
「この度は私の依頼を受けてくださり、本当にありがとうございます」
「気にすんなって、仕事だから」
「報酬の方はこちらになります」
「あなた達のご健闘とご武運をお祈りします」
「機会があれば、また会いましょう」
「はい。もし、何か困ったことがあれば連絡をください」
「またお力になりますので」
と、バカップルはモリスとリンスにこう言った。
ハリアの村までの帰り道、ラックは眠っており、ティラはいびきをかいて寝ていた。そんな中、クリムはシュウにこう言った。
「モリスさん、よかったですね」
「ああ。この依頼がきっかけで、嫁さんの気持ちを知る事が出来たからな」
「私はいつも、自分の気持ちを先輩にさらけ出していますが……あの人の場合は……」
「少し心を閉じた所があったんだな」
「ですね……」
クリムはそう言うと、シュウの手を握った。
「今後、こういう人の力にもなって行きたいですね」
「うん。俺とクリムなら、きっとできるさ」
シュウはこう返事をし、クリムの手を握った。




