人身販売を止めろ‼
翌日、バカップルとキャニーはタルトから話を聞いていた。
「そうですか……人身販売の為にそんなことを……」
話を聞いたクリムは、怒りで拳を強く握りしめていた。キャニーも眉間にしわを寄せていて怒りをあらわにしていたのだが、シュウだけは怒りを表情にしていなかった。
「で、いつ奴らは人身販売をやるの?」
「昨日の時点で一週間後と言っていた。時が流れたから、あと六日だろう」
「六日……か」
タルトから話を聞いたシュウは、何かを考えているのか顔を下に向けた。フィアットはリセットワールドの悪口をブツブツ言っており、キャニーはさらに眉間にしわを寄せている。そんな悪い空気の中、クリムはタルトにこう聞いた。
「奴らのアジトは?」
「そこまでは口を割ろうとはしなかった。今、奴らの尋問はスネック達に任せてある。何か分かり次第連絡をするそうだ」
「分かりました……お義父様。今日の仕事はちょっと変えてもよろしいでしょうか?」
「ん? どうかしたのかい?」
その後、クリムの話を聞き、今日の仕事の内訳が決まった。校舎の見回りはタルト、キャニー、フィアット。そして、尋問の手伝いはシュウとクリムのバカップルが行う事になった。
「今回の事件、絶対に解決しないと後悔します。家族に会えないという悲しみがずっと続くというのは、苦しい物だと思いますから」
クリムのこの言葉を聞き、タルトは思った。自分も17年もの間、シュウと会えなかった。というか、シュウが死んだと思っていた。ずっと会えない、二度と会えないかもしれないという気持ちは十分理解しているのだ。
「ああ。クリムちゃんの言うとおりだ。キャニー、フィアット、これ以上被害者を出さないように協力してくれ」
「はい。もちろんです‼」
「これ以上被害者を出させてたまるかってんだい‼」
会話を終え、シュウ達は各々の仕事にとりかかった。
シェラールギルドの取調室。武器を持ったスネックが、リセットワールドの団員の取り調べをしていた。
「いいから吐けよ。テメーのアジトはどこだよ?」
「死んでも言うか……」
「生意気言いがやって……」
スネックは口を割らない団員の態度に腹が立ち、机を思いっきり叩いた。そんな中、取り調べを見ていたリナサの表情が明るくなった。
「お兄ちゃんとクリムお姉ちゃんが来てる‼」
「え? 何でタルトの子供とその彼女が?」
バカップルは取調室に入り、スネックとリナサに事情を話した。話を聞き、スネックはなるほどと言いながら頷いた。
「そうか、あいつらからアジトの場所を聞き出せないとこっちが動けないか……」
「人身販売の所へ行って大暴れするってことも考えたんですけど、リセットワールド以外の連中がいるとみて止めました」
「広い会場だと、確実に人身販売に関わっている連中を倒せるわけではないので」
「広いと隙を見て逃げ出す奴もいるからね」
「リナサの言うとおりだな。で、奴らのアジトで暴れるってわけか」
「はい。少し奴に尋問をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。頼むぜ」
スネックと尋問を代わり、クリムが団員の前に立った。
「ヘッ……相手が誰であろうと俺は口を割らないぜ」
「これでもですか?」
クリムは片手を上げ、巨大な闇の塊を発した。それを見て、リナサは驚いた。
「少量の魔力であの大きさの闇を発するなんて……流石クリムお姉ちゃん」
「呑気な事言ってる場合か‼あれが落ちたらこのギルドがぶっ飛ぶぞ!」
「加減はしてあるみたい」
「分かるのかよ。ていうか、あれで加減してあるのか!?」
スネックは少々不安になったのだが、シュウの尋問を見てさらに不安になった。
「おい、さっさとアジトの場所を言え。でないとお前の後頭部に穴が開くぞ」
「ひぎゃああああああああああああああああ‼」
別の団員は自分の後頭部に銃口が当てられていることを察し、悲鳴を上げていた。
「早く言え、三秒以内に返事をしろ」
「おいちょっと待て‼ こんなことしたら問題になるだろうが‼」
スネックは慌ててシュウを止めたのだが、シュウは少し苛立ちながらこう答えた。
「こんな連中に拷問して問題になるんですか?」
「俺だって拷問したいけど、シェラールには拷問禁止しろとかいううるさい連中がいるんだよ」
「馬鹿な連中もいるんですね。犯罪者ごときに情けをかけるなんて」
「いや、もう少し情けをかけてもいいだろうが……」
シュウの行動を見て呆れるスネックだったが、別の団員の悲鳴を聞いてまさかと思った。
「ほーらほらほら、早く言わないと闇に飲まれますよー。魔力の量は少ないですけど、皮膚に触れたら溶けちゃいますよー」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼ お助けェェェェェェェェ‼」
「お前も何やってんだァァァァァァァ‼」
とんでもない方法で口を割ろうとしているクリムを見て、スネックは慌ててクリムを止めたのだが、シュウが銃口をスネックに向けていた。
「俺のクリムに手を出すな‼」
「うるせーよ‼ ったく、誰かこのバカップルを止めてくれ‼」
取調室の中央で、スネックは助けを叫んだ。まぁ、そんな事があってか、観念した団員はあっさりとアジトの居場所を白状したのであった。




