ストーカーの影
大スター、マリネットがハリアの村のギルドにやって来た。その情報はあっという間に村中に伝わった。その為か、村人のほとんどがギルドの周りを取り囲んでいた。
「すみませーん、戦士の人達が戻りますのでどいてくださーい」
「気になるのは分かりますが、他の人の迷惑にならないようにしてください」
ラックとシュガーが村人に移動を促すよう伝えていたが、村人は大スターを一目でも見たい気持ちが強すぎて、二人の言葉は届いていなかった。
「あの、すいません。本当にどいてください」
「でないと……潰しまーす」
半分怒ったシュガーが、鬼のようなオーラを発し、村人にこう言った。シュガーからおぞましい殺気を感じたのか、村人は悲鳴を上げて逃げて行った。
「全く、人騒がせな人ですねぇ」
「シュガーさん……もう追い払うにしても、他の方法はなかったんですか?」
「うん。少しイラッとしたからこれしか考えてなかった」
と、笑顔でシュガーはこう答えた。ラックはこの笑顔を見て、少し恐怖を覚えていた。
そんな中、ギルドの中にいるシュウとクリムはマリネットと思われる部屋を見ていた。
「一体何のようなんだろうな」
「きっと、大きな依頼ですね」
そんな話をしていると、大きな欠伸をしながらティラが階段を下りてきた。
「何だ何だうるせーな。何があったんだよ?」
「マリネットさんが来てるんですよ師匠」
「マリネット? 色んな映画によく出てるねーちゃんか? 何でこんなド田舎に?」
「依頼に来たんだと思います。この近くに別荘地があるからそのついでにだと」
「ついでに依頼をしに来たとか……まー、仕事をくれるならいいか。エイトガーディアン絡みの仕事があって以来、大きな依頼はなかったし」
そう言うと、ギルドの役員がシュウとクリムを呼んだ。
「シュウさん、クリムさん、マリネットさんが呼んでいます。二人に依頼の話をしたいそうです」
大スターから直々に指名され、バカップルは少し緊張した。
数分後、マリネットは紅茶を一口飲み、固まっているバカップルにこう言った。
「そんなに緊張しなくていいわよ。大スターとか言われてるけど、私はただの人間よ」
「ひゃ……ひゃい。分かりました」
と言っているが、クリムはまだ少し緊張していた。シュウは何度も呼吸をし、冷静を取り戻した。
「実はあなた達に護衛を頼みたいの。期間は三日間」
「分かりました。何が何でも依頼を遂行します」
シュウはこう言うと、マリネットは微笑んで答えた。
「場所は私の別荘よ。さっきあなたとあった場所よ。それじゃあよろしくね」
会話を終えてマリネットと共に部屋から出ると、すぐに戦士達がバカップルとマリネットを取り囲んだ。
「いいなー、シュウ、クリム。俺と変わってくれよ‼」
「直々に指名されるなんてすごいわよ」
「何が何でもマリネットさんに傷を付けるなよ」
そんな声を掛けられながら、バカップルはマリネット共に車に乗り込んだ。移動中、クリムはマリネットに質問をした。
「あの、どうして別荘地に来たんですか? 確か、まだ撮影中のドラマや映画があったはずですが」
「その仕事は休んだ後する。実は、今しつこいストーカーに狙われてるのよ。いつもいつも仕事場にそのストーカーから変なプレゼントが送られたり、帰りに人の気配を感じたりするの。メディアに注目されると、世間から変なイメージを持たれるし……」
「だから、私達に護衛を頼んだんですね」
「三日間で大丈夫なんですか? 俺達に話してくれればストーカーぐらい倒しますのに」
「いいえ、逆にやられたストーカーが何かやらかすかもしれないから」
よく考えてるなと、クリムは思った。ストーカーを倒して捕まえても、数年後に釈放した時に復讐としてくる可能性があると考えたのだ。話していると、車はマリネットの別荘の前に到着した。
「じゃ、これからよろしくね」
マリネットはそう言って、バカップルに微笑んだ。
シュウ達が乗る車からずいぶん離れた所に、白い車が一台止まっていた。別荘地に合わない安物の車で、白い塗装のせいか放置されている傷や塗装剥がれが少し目立っている。
「見つけたよ……僕のエンジェル……」
中にいた小太りの男は、激しく呼吸をしながら遠くからマリネットの写真を撮っていた。この男が乗る車内には、無数のマリネットの写真が貼られていた。
「別荘の場所は分かった……あとはこの僕の恋文を届ければ……」
そう言って、男は手袋を装着し、手紙が付いたボウガンを構えた。
「受け取ってくれ、僕の想い」
男がボウガンの引き金を引いた瞬間、付けられていた矢は勢いよく発射された。だが、シュウが銃を構えてボウガンを打ち落とし、クリムが魔力を開放して男が乗る車に攻撃をした。しかし、矢が落とされた場面を見た男は急いで車を動かし、この場から逃げていた。
「あの車は……」
マリネットは驚きながら逃げる車を見ていたが、バカップルは冷静に会話をしていた。
「怪しいと思っていましたが、あいつがストーカーのようですね」
「車の種類は分かった。後はギルドの方で追ってもらおう」
「大丈夫だと思います。いずれ、相手の方から来ると思われます」
「うーむ……そうだな。またこんなふざけたことをしたら今度は一発打ち抜いてやるよ」
話し合う二人を見て、マリネットは察した。この二人に護衛を頼んで正解だったと。




