全てはリナサの為に
テロップを見たリナサは、急いで携帯を手に取って連絡を始めた。
「やっぱり通じない……」
「父さんの所に連絡したんだな」
シュウがこう聞くと、リナサはうんと言って返事をした。クリムも同じように連絡を取り、誰かと連絡をしていた。
「あ、つながった。もしもしキャニーさん?」
クリムはキャニーと連絡を取っていた。キャニーの返事が届いたのか、クリムはこう言った。
「キャニーさん、今そちらの状況はどうなってますか?」
『タルトさんが車を追っています。今私とナギちゃんが現場で情報を集めています』
「今、タルトさん一人で追いかけてるってわけですね」
『はい。一応、何かあったら連絡するとメールを受け取りましたが、今のところ連絡はありません』
「分かりました。フォローの方は大丈夫ですか?」
『ええ。私達だけで解決できる事件だと思います。手を借りたいときに連絡をします』
「はい。了解です」
会話が終わった後、リナサはシュウの裾を引っ張って何かを訴えていた。
「どうしたリナサ?」
「私……どうしたらいいの? 教えて……」
「どうしたらか……うーむ……」
答えに困ったシュウが唸っていると、クリムが近付いて代わりにこう答えた。
「お義父さんを信じて待ちましょう」
同時刻、プリンを奪った強盗団はハリアの村とは別の方向の山に逃げていた。
「はははのはー‼ このプリンを転売すれば俺達大儲けだぜー‼」
「たかがプリンを奪っただけで、流石に警察は動かないよなー‼」
「前代未聞だもんな、プリンの強盗だなんて」
ドライバーは笑いながら、車の運転をしていた。仲間と一緒に高笑いをしていると、バックミラーに何かが映った。
「何だありゃ?」
「おいおい、人でも追いかけて来てるのか? 凄腕の魔法使いでもない限り、車に追いつくわけねーだろ」
「いや、あれは確実に人だったよ。確認してくれ」
「ったく、めんどくせーな」
仲間の一人が後ろから外を見ると、そこには魔力を開放して追いかけて来ているタルトの姿があった。
「おい、エイトガーディアンのタルトが追いかけて来てるぞ……」
「エイトガーディアンだと!? 何であんな大物が俺達を追いかけて来てるんだよ!?」
「知らねーよ! どうするんだよ? あいつ、猛スピードでも飛んでくる銃弾も剣で叩き斬る程の腕だって噂だぜ‼」
「所詮は噂だろ! おい、銃か魔法で応戦してくれ‼」
その後、後ろに座る仲間が銃や魔力を開放してタルトに攻撃を始めた。しかし、タルトは手にしている剣を振って飛んでくる弾丸や魔法を弾いてしまった。
「んなああああああああああああああ!?」
「噂はマジだったのかよ……」
「おい……あいつのスピード上がってるぞ‼」
仲間の一人が言うとおり、タルトはさらに魔力を使って飛行スピードを上げている。徐々に車に追いつくほどの速さだ。タルトの速さを見て、運転手は慌ててアクセルを踏み込んだ。
「全力で飛ばすぞ、シートベルトはちゃんとつけておけよ‼」
「あいよ‼」
後ろの仲間は言われた通り、ちゃんとシートベルトを見に付けた。しばらくタルトと追いかけっこをしていたが、運転手はある事に気が付いた。
「まずい……ガソリンが無くなって来てる……」
「あとどの位だ?」
「四分の一以下だ。まいったな……この辺りにガス屋はねーか?」
「こんな山奥にガソリンスタンドなんてねーだろ‼ だから言っただろ、魔力で動く車にしようぜって‼」
「だって高かっただろうが‼ あんな金があったら強盗なんてしないわ‼」
「おいおい、仲間割れか?」
突如、彼らの耳に聞き覚えの無い声が聞こえた。恐る恐る窓を見ると、そこにはタルトがへばりついていた。
「へぎゃああああああああああああああああああああああああああ‼」
「さぁ、プリンを返してもらおうか」
「いやあああああああああああああああああああああああああああ‼」
タルトを見て驚いた運転手は、急にハンドルを切った。そのせいで、地面に埋まっていた大きな岩にタイヤがぶつかってしまった。そのせいで、車は少し弾んだ。
「おわっ‼ 急にハンドルを切るなよ‼」
「酔うじゃねーか‼」
「あんなの見たら誰だって驚くわ‼ お。見ろよ、タルトの奴が落ちたようだぜ」
窓を見ると、先ほどへばりついていたタルトの姿はなかった。それを見て、強盗団はホッとしていた。しかし、突如後ろから剣の刃が現れた。
「なあああああああああああああああああああああああ‼」
「あの程度で私から振り切ったと思ったか?」
その後、タルトは後ろの窓を斬り、車内に侵入した。
「さぁ、プリンを返してもらおうか? 力づくでも返してもらおう」
「い……い……いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
それから、強盗団の情けない悲鳴が空高く響いた。
数時間後、強盗団をとっちめた現場にシュウ達が来ていた。シュウ達は丁度、近くで薬草の採集任務を行っていたのだ。
「しかし、こんな山の中に逃げてきたなんてねー」
「どっちにしろ運がない強盗団でしたね。もしかしたら私達が相手になってたかもしれませんし」
「だなー」
と、バカップルは手をつないでこう言っていた。それを見ていたナギは、羨ましそうに見ていた。
「いろんな人がいる前でいちゃついて……う~ら~や~ま~し~い~」
「私はあんな真似できないわよ……」
キャニーが呆れてこう言う中、息を切らせながらタルトが何かを持ってやってきた。
「タルトさん、それは?」
「プリンだ。お店のご厚意で一つだけもらえたんだ」
「タルトさん……」
その時、バカップルと一緒にいたリナサがタルトに近付いた。タルトは申し訳なさそうに、プリンをリナサに渡した。
「あの時は悪かった。まだ一個しかないが……」
「いい。これで勘弁してあげる」
この言葉を聞き、タルトはホッとした顔をした。その後、リナサはシュウに近付いてこう言った。
「急に来てごめんなさい。でも、お兄ちゃんとクリムお姉ちゃんと一緒にいれて楽しかったよ」
そう言って、シュウのほっぺにキスをした。それを見たクリムは、奇声を上げた。奇声を上げるクリムを無視し、リナサは手を振ってこう言った。
「また会おうね、お兄ちゃん‼ クリムお姉ちゃん‼」




