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連鎖する災難

 ハリアの村近くの森の前に着いたシュウ達は、到着と同時に聞き覚えの無い男の悲鳴を聞いた。


「聞いたことのない声だな」


「まさか逃走者かも」


「行くぞ‼」


 その時、後ろからミゼリーが走ってやって来た。息を切らせて走ってきたのを見て、シュウは急いで来たのだと思った。


「ミゼリー先輩、あの声を聞いたんですね」


「ええ。私も行くわ。もしかしたら、モンスターと遭遇したかもしれないし」


「だとしたら早く行かないと餌になりますね。行きましょう‼」


 ミゼリーを加えたシュウ達は、急いで森の中へ入って行った。森の中からはズシンズシンと地響きのような音と、男の情けない悲鳴が聞こえる。


「すでに襲われてるようですね」


「悲鳴が聞こえるから、まだ生きてると思うが」


「噂をすれば何とやら、あれじゃないかしら?」


 ミゼリーが指を指す方向には、巨大なテーピとそれに追いかけられている男がいた。


「あれですね」


 クリムは魔力を開放し、テーピに狙いを定めた。しかし、巨大なテーピの上にちっちゃいテーピが乗ってるのを見て、魔力を止めた。


「どうしたクリム?」


「あのテーピ、親子ですね。見てください、上にちっちゃいのが乗ってます」


 クリムに言われ、ミゼリーは望遠鏡で確認した。


「あらホント。あのテーピ、親子みたいだわ」


「子供が襲われたから親が助けた……まぁ、その答えにたどり着くのが普通か」


 ため息を吐きながら、ジャックが呟いた。その後、シュウ達はこの状況をどう打破するか話し合いを始めた。親子のテーピと逃走者、どっちの命も奪わないで解決する方法を考えていると、クリムが何かを思いついた。


「いい案が浮かびました」


 と言って、シュウ達に話しかけた。それを聞き、ジャックはしかめっ面になった。


「本気でやるつもりか?」


「少々荒っぽいですが、これしか方法はありません」


 クリムはマジな顔で、ジャックにこう答えた。ジャックは他に何かないか考えたが、結局何も浮かばず、クリムの案に乗ることにした。




「た……助けてくれェェェェェェェェ‼」


 逃走車は情けない悲鳴を上げながら、親テーピから逃げていた。巨体では通れない木々の間をくぐって逃げていたのだが、親テーピは木を粉砕しながら逃走車を追っていたのだ。


「こんな事になるんだったら、こんな所に逃げなければよかった‼」


 己の不幸を嘆く中、目の前にジャックが現れた。


「人!? 助かった‼」


 逃走者は天の助けだと思い、ジャックに近付いた。だが、ジャックは魔力で紐を作り、逃走車の体を縛った。


「はへ?」


「おいデカウサギ‼ こいつが欲しいんだろ?」


 ジャックは身動きが取れなくなった逃走者を腕で持ち上げながらこう言った。ジャックが左右に行くたびに、親テーピはそちらに目移りをしている。


「おいちょっと待て‼ 何をするつもりだあんた!?」


「黙ってろ‼」


 ジャックがこう叫んだ時、親テーピが叫び声をあげて突進してきた。


「うわああああああああああああああ‼」


「こっちだ‼」


 ジャックは高く飛び上がり、親テーピの突進をかわした。それから、ジャックは親テーピを挑発しなが

ら走って行った。


「あいつから逃がしてくれるのか!?」


「そのあとの事はお楽しみだ」


 上で縛られている逃走者にこう言った後、ジャックはクリム達が隠れている場所に近付き、その場に立ち止まった。


「何で立ち止まってるんだ!? ほら見ろ、あいつが来てるじゃねーか‼」


「いいから黙ってろ」


 親テーピが二人の目の前に現れた。巨大な牙を出し、二人に攻撃をしようとしていた。逃走車は悲鳴を上げていたのだが、ジャックは何もしなかった。


「うわあああああああああああああああああああ‼ まだ死にたくねェェェェェェェェ‼」


 逃走者の悲鳴が辺り一面に広がった。だが、巨大な牙は上で持ち上げられている逃走者の首の近くで動きを止めると、そのまま下がってしまった。


「あ……あれ?」


「作戦成功だな」


 ジャックは後ろにいたクリム達を見て呟いた。クリムとリナサ、ミゼリーは沈静化する魔法を発動し、シュウが持つ銃にその魔力を込めていた。シュウはサイレンサーを付け、沈静化する魔法を弾丸にしてテーピに打ち込んだのだ。ちなみに、その弾丸には殺傷能力が無いように細工されている。


「た……助かった……」


 逃走者は安堵し、大きく息を吸った。


「おい、そろそろ放してくれよ。俺には用があるんだ」


「用? 俺達はあんたに用があってこんなことをしたんだぜ」


 ジャックの言葉を聞き、逃走者は何のことか分からない表情をした。その顔を見て、ジャックは少し微笑みながらこう言った。


「俺達は近くの村のギルドの戦士だ」


 その言葉を聞き、逃走者の情けない悲鳴が再び森の中でこだました。




 あのプリン屋の前。何とかプリンを購入する事が出来たボーノは、よろよろ歩きながら店から出て行った。


「プリン一個買うのにこんな苦労……一体どんなプリンだよもう……」


 ブツブツ言っていると、近くで泣いている女の事あやしている母親らしき女性がいた。


「うわああああああああああああ‼ プリンが食べたかった‼ あのプリンが食べたかった‼」


「諦めなさいヨーコちゃん。もう売り切れだからないのよ」


「やだああああああああ‼」


「あれだけの行列を並んだのに、買えなかったのはつらいけど……」


 その時、親子はボーノが持っている袋を見ていた。だが、その母親は何も言わずその場から立ち去ろうとした。しかし、女の子は泣き止まなかった。


 数分後、その女の子は笑顔でプリンを食べていた。母親は何度も何度もボーノに頭を下げて礼と謝罪をしていた。ボーノは大丈夫と言って、その場から去って行った。


「……振出しに戻っちゃった……」


 ボーノはそう呟くと、疲れのあまり倒れてしまった。

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