シャワールームでの会話
その日の夜。依頼を終え、報酬を受け取り、夕食を済ませたシュウ達は部屋に戻る事にした。
「ふぁあ……」
シュウは大きな欠伸をしながら机の上の銃を引き出しにしまい、クリムは背伸びをした後部屋着に着替えていた。そんな中、リナサはベッドの上で体を伸ばしていた。
「さて……しばらくしたらシャワーを浴びるか」
「はい‼」
「うん」
と、クリムとリナサが元気よく返事をした。だが、クリムの動きが止まってしまった。
「あの、まさかだとは思いますが……私と先輩と一緒にシャワーを浴びるつもりじゃないでしょうね?」
「うん」
リナサの返事を聞き、二人の動きは固まった。
シュウの方はこう考えている。いくらお兄ちゃんと慕われていても、年下の少女(クリムは彼女だから問題なしとシュウ自身は思っている)とシャワーを浴びる。それはとんでもない事だと思っている。リナサは優秀なギルドの戦士なのだが、まだ年齢的に子供である。自分の全裸を見せてもいい歳ではないし、子供と一緒にシャワーを浴びるなんてことをしたら、今後自分は確実にロリコンと罵倒されるだろうと考えていた。
クリムの方はこう考えている。先輩とシャワーを浴びるのは私だけで十分。いくらタルトさんの教え子であろうとも、それは絶対に譲れない。そもそも先輩のナイススタイルを拝むのは私だけで十分‼他の連中は中年男性の二段腹でも眺めてな‼ と考えていた。
「ねぇ、入らないの?」
リナサはこう聞いてきたが、もうシャワーを浴びる準備は出来ている。それを見たシュウは慌ててこう言った。
「なぁ、女湯の方にはいかないのか? このギルド、大浴場もあってちゃんと風呂に入れるぞ」
「私、お兄ちゃんとクリムお姉ちゃんとシャワーを浴びたい」
この返事を聞き、リナサの意思は変わらないと二人は悟った。
「うーむ……仕方ありませんね」
クリムはそう言って、引き出しから水着を取り出した。
「今年の夏のために買っておいたものですが、仕方ないです。先輩の分も持ってきました」
「ああ。ありがとう」
その後、三人は水着に着替えてシャワーを浴びることになった。
シャワールーム。シュウは壁際で立っていた。先にクリムとリナサにシャワーを浴びるように言ったからだ。自分が邪魔になるだろうと思い、壁際にいるのだ。
「お兄ちゃんは後でいいの?」
「ああ。俺は後でもいいよ」
リナサは壁際に立っているシュウをずっと見つめていた。それに気付いたクリムが慌ててリナサにこう言った。
「さぁさぁ、シャワーを浴びましょうね」
「お兄ちゃんの右腕……なんか痛そう……」
「あ……これか」
シュウは古傷がある右腕を見て呟いた。この傷についてはタルトにも話したのだが、タルトから他のエイトガーディアンに話が伝わっているかどうか、シュウ自身は知らない。
「この傷、どうしたの?」
「子供の頃、クリムを庇ってできた傷だよ」
「あの時は本当に大変でしたね……」
その後、クリムはリナサに過去の事を簡単に伝えた。話を聞き、リナサは二人にこう言った。
「二人とも、昔から両想いだったんだね」
「ああ」
「せんぱ~い、あまり言わないでくださいよ。はずかし~い」
と、クリムは照れながらシュウに抱き着いた。そんな二人を見て、リナサは少し笑っていた。
翌朝。シェラールのプリン店の行列に並んでいたフィアットとキャニーはずっと店が開くのを待っていた。すでに、後ろにはざっと見で1000人以上が並んでいる。
「ひ……人多くない?」
「それ程おいしいプリンなんですよ……というか、あの行列の中でよくリナサちゃんはプリンを買う事が出来たわね……」
二人が会話をする中、行列が動き出した。
「動いた」
「買えるといいんですが」
テンポよく行列が進んだため、二人の中に余裕が生まれていた。この調子で進むのであれば、プリンが買えると思っていた。
そして、ついに二人の番が近付こうとしていた。
「財布財布」
「はぁ、やっと戻れる……」
二人が安堵したその時だった。
「すみませーん。今日の分のプリンはもう完売しました。また明日来てください」
店員の言葉が聞こえた。その言葉を聞き、二人の頭の中が真っ白になった。
病院にて。ボーノがタルトとスネックの見舞いをしていた。
「明日には退院できそうだ」
「ま、リナサも死なない程度には調整したんだろ。しかし、まだ戻って来てないから、許したと考えにくいがな」
「めんどくせー奴だな……」
「スネック、お前が言える立場か?」
その時、ボーノの携帯が鳴り響いた。ボーノは慌てて携帯使用エリアへ行き、キャニーからの電話をつないだ。
「もしもし? どうかしたか?」
『プリン……買えなかった……』
「そうか。じゃあまた並んでくれ」
『そう簡単に言わないでください‼ また一日潰して行列に並べというのですか!?』
キャニーの怒号を聞いた周りの人が、不審な目でボーノを見つめた。周りの目に気付いたボーノは愛想笑いで謝礼の言葉を言った後、キャニーに言葉を返した。
「そう簡単って……プリンを買うくらい楽なもんじゃないか」
『楽じゃないですよ……だったら、今すぐ来てください』
キャニーはそう言うと、通話を切った。ボーノは仕方ないと思いつつ、タルト達にキャニーの元へと行くと告げて去って行った。




