自然に触れるという事
タルトと会話を終えた後、シュウとクリムはリナサに今後どうするかを聞いていた。プリンを七個買ってくるまでは、ここにいるとリナサは言っていたが、それと同時にここでしばらく働くとも言っていた。
設定上、どちらかのギルドに属していれば、別の町のギルドへ行って依頼を受けることは可能である。もちろん、エイトガーディアンもそうだ。シェラールでは特別扱いされているものの、一応はギルドの戦士なので他の戦士と同じように依頼を受ける事が出来るのである。
シュウ達はギルドのカウンターへ向かい、依頼表を見ていた。リナサは依頼表を見ていて小さく呟いた。
「薬草取りとかモンスター退治が多いね」
「ええ。この辺りはその種類の依頼が多いの」
「シェラールだと、ストーカー退治とかマフィア殲滅、犯罪組織を倒せとかしかないから……」
リナサの話を聞き、シュウは思った。確かに大都市であればそう言った依頼が多いと。だから薬草取りとかモンスター退治の依頼がリナサにとって珍しい物だと、改めて思った。
「ねえ、このキズナオス草って何?」
「それはねー、切り傷の治療に使われる薬草なんだよー」
と、シュガーが話に入って来た。
「薬草にもいろんな種類があるんだ……」
「うん。傷を治す以外にも腹痛や腰痛、挙句の果てには頭痛にも効く薬草があるんだよ。だけど、中には毒もあるの」
「恐ろしいね……」
「勉強すれば薬草の種類なんて一発で分かるよ~」
シュガーとリナサの話を聞いていたクリムは、シュウにこう聞いた。
「シュガーさんって薬草にも詳しいんですね」
「ああ。魔力が切れた時に薬草を使うんだ。俺もシュガーが作った薬草で手当てしてもらったことがある」
「そうなんですか。いつも回復魔法を使ってるイメージしかないから驚きました……」
そんな中、シュガーが二人に近付いてこう言った。
「ねぇ、今日は私達でキズナオス草を取りに行く依頼を受けようよ」
「そうですね。ここのところ人との戦いが多かったので、久しぶりに採集の依頼を受けますか」
「俺も行くよ。戦いばっかで気が疲れてるんだよ」
「それじゃあ早速レッツゴー」
その後、シュウ達は正式に依頼を受けて外へ出て行った。
同時刻、フィアットとキャニーがあのプリン屋へ向かっていた。治療で身動きが取れないタルトに頼まれたからだ。
「しっかし、タルトさんもうっかりなことをするなー。リナサちゃんのプリンを食べちゃうなんて」
「あんたも人の事言える? 以前、ナギちゃんのチョコ全部食べて大騒ぎになったじゃない」
キャニーにこう言われ、フィアットは痛いところを突かれたような顔をした。その後、フィアットはキャニーに文句を言ったのだが、キャニーはその文句を聞き流していた。しばらくし、あのプリン屋へ来たのだが、店は閉まっていた。
「あれ? もう閉店ですか……」
「そりゃそーだよ、これ見なよ」
フィアットが指さす看板には、こう書かれていた。
『プリンが無くなり次第店を閉めます。また明日来てください』
「という事は……もう売り切れ……」
「後ろ後ろ」
フィアットの言うとおり、後ろを見ると、そこには行列ができていた。それを見たキャニーは察した。明日の開店に合わせてもう並んでいるのだと。
「……こりゃどんな依頼よりも難しそう」
と、キャニーは情けない声で小さく呟いた。
キズナオス草を取りに行ったシュウ達四人は、ハリアの村の近くの山に来ていた。
「うわー……」
山の頂上から見る景色を見て、リナサは声を漏らしていた。遠くまで続く平原、そしてちらほら見える湖。空には雲と鳥しか存在していない。
「シェラールより自然がたくさん」
「リナサちゃんはシェラールから出たことないんだっけ」
「うん。お兄ちゃんに会いに来た時が初めて。それまではずっとシェラールの中で働いていた」
「私達は何度もこの場所に来たんですが、やっぱり初めての人がここに来ると感動するんですね」
「特に都会の人だと皆そうだよ。ビルや車なんてここじゃあ滅多にないし」
そんな会話をしながら、シュウ達はキズナオス草を探していた。しばらくすると、クリムは何かの気配を感じ取った。
「モンスターがいますね」
「どうする? 追い払う?」
「だね。戦うだけ無駄だし」
その時、シュウ達の目の前に黒い大型の狼が現れた。それを見て、シュガーは驚くリナサにこう言った。
「ブラックウルフだよ。この辺じゃあ群れを成して生息している大型狼のモンスターだよ」
「でも……ちょっと怖い……」
シュガーは察した。リナサはいつもは人と戦っているせいか、本能で動くモンスターとの相手はしたことがないのだと。
「大丈夫だよ。シュウ君とクリムちゃんが追い払うから」
「大丈夫なの?」
「うん。あの程度の相手なら二人で上等だよ」
その時、シュウとクリムはブラックウルフの前に立った。
「俺達とやるつもりか?」
「後悔しませんね?」
二人から放たれるオーラを感じ、ブラックウルフの群れは悲鳴を上げながら逃げて行った。
「ね」
それを見て、シュガーはリナサに笑顔でこう言った。この光景を見ていたリナサは思った。やっぱりお兄ちゃんとクリムお姉ちゃんは強い人なんだって。




