少しお馬鹿なウェポンマスター
大声で叫ぶフィアットの声を聞き、その男は恐れていた。
男の名前はジョーネ。殺人を犯し、この場に逃げてきた男の一人である。得意武器はなく、主に格闘技で戦う男である。
「アホな女がいるもんだな……」
フィアットの事をアホと呼び、音を殺して移動し、この場から逃げようとしていた。しかし、ジョーネの目の前に何かが通った。
「んな!?」
敵の魔法かと思い、ジョーネは一瞬だけ魔力を解放した。だが、通りかかったのはただの小さなネズミのモンスターだった。ネズミのモンスターはジョーネを見て、そそくさと逃げて行った。
「何だ、ただのネズミか……」
と、呟いた瞬間、後ろから激しい魔力を感じた。
「みぃつけたぁ‼」
何と、剣を持ったフィアットが襲って来たのだ。ジョーネは察した。あの時に一瞬だけ解放した魔力で居場所が悟られたと。
「さーて、あんたをぶっ飛ばすよ‼」
「やれるものならやってみな」
仕方ないと思いつつ、ジョーネは構えを取った。次々と襲ってくるフィアットの剣をかわしつつ、カウンターを狙っていたのだ。しかし、フィアットの方も動きに無駄はなく、カウンターを狙う隙は無かった。
「避けるだけしかできないのー?」
「下らん挑発しかできないのか。アホな女だ」
この言葉を聞き、フィアットは怒り出した。
「誰がアホじゃァァァァァァァァァァ‼」
フィアットは剣を振り回しながらジョーネを襲った。だが、その動きは先程よりも隙が多く、すぐにカウンターを喰らってしまった。
「ぐげっ‼」
「貴様のような馬鹿が相手でよかった。おかげでスムーズに貴様を殺す事が出来る」
「馬鹿って言うな……アホって言われるより腹が立つ‼」
カウンターを喰らったフィアットは立ち上がりつつ、手にしている剣をしまった。
「今から本気出す‼」
そう言って、フィアットは槍を振り回しながらジョーネに攻撃を仕掛け始めた。更に怒り出すのはジョーネの予想に入っていた。しかし、剣以外の武器を使って戦う事は予想していなかったのだ。
まいったな。そう思いながら、ジョーネは槍をかわしながらフィアットに接近しようとした。しかし、フィアットは槍をしまって即座にとげ付きのグローブを装備した。
「てあっ‼」
フィアットはそのグローブを装備し、ジョーネの腹に攻撃をした。
「グウッ‼」
ダメージを受けたジョーネはフィアットを蹴り飛ばし、即座に治療を始めようとした。しかし、上から銃弾が飛んできた。
「仲間か!?」
「全く、一人で突っ込まないでってよく言ってるでしょうが」
「大変ですね、キャニーさんの方も……」
「追いついてよかったね~」
誰が銃を撃ったのか、ジョーネは即座に判断した。キャニーが持っている銃から煙が上がっている。あいつが撃ったんだと確信した。
「仲間がいたのか……」
「ちぇー、一人でやろうと思ったのに」
「魔力が乱れてますよ。それに、傷もあります。少し癒しましょうか?」
と、シュガーがこう言ったが、フィアットは笑顔でこう返した。
「大丈夫だよ。それなりに頑丈だから、私」
その後、武器を二丁のナイフにし、高く飛び上がった。その動きを見て、ラックはキャニーにこう聞いた。
「あの人ってどんなスタイルで戦っているんですか? さっきはグローブを付けて戦っていたのに、今度はナイフで戦ってますが」
「フィアットは自称ウエポンマスターって言ってるわ。あのアホ、勉強とか全くできないけど、武器に関しての知識と技能は誰よりも持ってるのよ。多分、この世にある武器を全て使えるわ」
この説明を聞き、ラックは意外とすごい人なんだと思った。
「ぐっは‼」
ナイフで切り裂かれ、ジョーネは後ろに吹き飛ばされてしまった。
「さーて、フィニッシュと行きますか」
フィアットは巨大なハンマーを両手で装備し、体を大きく回転させ始めた。
「こーれーでーもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……喰らえェェェェェェェェェェ‼」
大きく回転し、破壊力が増したハンマーの一撃を喰らい、ジョーネは大きく吹き飛んだ。何本もの木をなぎ倒しても、何度も壁を貫いても勢いは止まらなかった。結局、ティラ達がいる湖の方までジョーネは吹き飛んでしまった。
「何だこいつ?」
「敵じゃねーの? 縛ろうぜ」
その後、ジョーネはティラとハヤテに縛られてしまった。
クリムはずっと気になっていた。リナサがずっとシュウの事を見ているのを。
「あの……どうかしたの?」
と、シュウがリナサの方を振り向いたが、恥ずかしいのかリナサは目をそらしてしまった。その様子を見て、タルトは困りながらこう言った。
「リナサ、その人は私の息子だ。で、その横がシュウの彼女さんだ」
「お兄ちゃんの……彼女?」
お兄ちゃん。その言葉を聞き、シュウとクリムはかなりの衝撃を受けた。
「父さん、その子って一体何?何で俺がお兄ちゃんって言われてるの?」
「いやーその……実はいろいろあってな、今はその……私がこの子の父親代わりみたいなもんなんだよ」
タルトはそう返事をした後、リナサの事を話し始めた。




