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鋼の体を打ち破れ


 鋼のような皮膚となったポーカーの体はシュウが持つナイフの刃で傷付くことはできなかった。その上、ポーカーは遠く離れていても相手の呼吸音を聞き分けることができる張力も手にしてしまった。押し倒されたシュウはポーカーの腹に向かって蹴りを放ったが、シュウの足には鉄でも蹴ったような感触がした。


「ぐ……硬い……」


「さっきのナイフを見ていないの? どれだけ蹴っても無駄よ。さぁ、暴れないでね」


 そう言って、ポーカーはシュウの顔に近付いた。これ以上この状態が続くと確実に倒され、ポーカーに改造されるとシュウは思った。その時、シュウは自分の呼吸音で居場所がポーカーに察知されたことを思い出した。


「聴力は上がったみたいだな。じゃあこれを聞いてみろ!」


 シュウは刃先が折れたナイフを左手に持ち、床に押し付けた。その時、黒板を爪でひっかいたような音が鳴り響いた。


「いやあああああああああああああ! 何なの、この音は!」


 音を聞いたポーカーは頭を抱え、悲鳴を上げた。ポーカーが離れた隙にシュウは立ち上がり、ポーカーに向けてハンドガンを発砲した。だが、ハンドガンの弾丸はポーカーの体に命中して潰れてしまった。


「ふ……ふふふ……この隙に攻撃したみたいね。でも残念。得意の狙撃も今の私の体じゃあ意味がないわよ」


「そうみたいだな」


 シュウはため息を吐いてこう言って、後ろを向いて逃げた。


「あら、また鬼ごっこ? 脚力も強化されたのに、逃げても無駄よ」


 ポーカーはその場で何度も小さく飛んだ後、足に力を込めて力強く走り出した。その足はとてつもなく早く、あっという間にシュウに近付くことができた。


「捕まえたわよ。シュウ君」


「捕まってたまるかよ」


 シュウはポーカーの方に振り向き、リボルバーでポーカーに攻撃を仕掛けた。発砲した際、大きな音が響き、ポーカーはその音を聞いて動揺した。


「グッ! 聴力を強くしすぎたみたいね……」


 その時シュウが放たれたリボルバーの弾丸はポーカーの左肩に命中した。リボルバーの弾丸でもこの皮膚は傷つかない。そう思っていたが、リボルバーの弾丸はポーカーの左肩を貫いた。


「が……があああああああああああああ!」


 激しい痛みがポーカーを襲った。シュウはその隙にハンドガンを手にし、ポーカーの左肩に向かって発砲した。


「グッ! これ以上やられてたまるものですか!」


 ポーカーは立ち上がり、飛んで来たハンドガンの弾丸を胸で受けて潰した。その時、シュウはナイフを構えてポーカーに接近し、傷ついた左肩に向かってナイフを突き刺した。


「あっ……」


「確かに硬い皮膚だけど、耐えられる威力があるみたいだな。リボルバーで撃てば硬い皮膚でも貫通する!」


「ぐ……偶然よ……」


「偶然か。そうか」


 と言って、シュウはポーカーの左肩に突き刺さったナイフを無理矢理引き抜き、リボルバーに持ち替えてポーカーの両足に向けて発砲した。


「ぎゃあああああああああああああああ!」


「もう終わりだな。どれだけお前の改造の力がすごくても、弱点は存在する。完璧なんてものは存在しない」


「なければ……作ればいい……」


「無理だよ。現にお前は相当ダメージを受けている」


 苦しそうな声を出しているポーカーを見て、シュウはため息を吐いて言葉を続けた。


「大人しく捕まれ。生きて罪を償え」


「嫌よ、そんなの。捕まったら、一生刑務所の中で過ごすことになるからね」


「何だ、分かっているようだな」


 シュウはリボルバーをしまって縄を取り出した。その隙にポーカーは魔力を開放した。まだ戦うのかと思いながらシュウはポーカーを見て、ため息を吐いた。魔力を開放したポーカーの体からは蒸気が発し、傷ついた左肩と両足が治っていた。


「さぁ、第二ラウンドを始めましょう……ゲホォッ!」


 突如、ポーカーは嗚咽した。体に異変が起こったのか、ポーカーは片膝をついて苦しみ始めた。


「か……体が……苦しい……」


「改造を受けた結果だろ。今までのあんたの考えが間違えていただけだ」


「そ……そんなことは……」


「間違えていなければ、あんたは俺に勝てていた」


 シュウの言葉を聞き、ポーカーは歯ぎしりした。しばらくの間、ポーカーは黙っていた。


「ふざけたことを言わないで……さぁ……ここであなたを倒して、私のおもちゃにしてあげるわよ!」


 その時、上から激しい音が響いた。それと同時に天井が崩れ、ポーカーを押しつぶした。発生した砂煙を手で払いながら、シュウは一体何が起きたのか確認した。


「く……クリム!」


 シュウの目の前には、化け物のような姿となったアロウが立っていた。アロウは巨大化した左手でクリムの体を握っていて、その時のクリムの顔は苦しそうな顔をしていた。




 息苦しい中、クリムは自分の判断ミスを反省していた。改造の力によってアロウの体は巨大化し、筋力も魔力も倍以上に膨れ上がってしまった。驚いた隙にクリムは捕まり、アロウは大声を上げながら飛び跳ねた。その衝撃で、床が崩れて下の階に落下した。


「ぐ……先輩……」


 クリムは右手で氷の刃を作り、アロウの皮膚を突き刺そうとした。しかし、アロウは下敷きにしたポーカーの死体を踏み潰し、その場に転倒した。転倒した際、アロウは捕まえていたクリムを放してしまった。


「クリム!」


 突如現れたアロウを見て、茫然としていたシュウだったが、クリムが解放されたと同時に我に戻り、すぐにクリムの元に近付いた。


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