因縁の戦い
ポーカーの後を追うシュウは、下の階の魔力が収まったことを感じ、タルトたちの戦いが終わったことを察した。これで、残るはアロウとポーカーだけになった。あとは俺たちの戦いだけかとシュウが思った直後、目の前からメスが飛んで来た。シュウはメスをかわし、壁に隠れて大声で叫んだ。
「メスは医者にとって必要な道具じゃないのか?」
「ご心配なく。こういう時のためにメスはたくさんあるのよ」
と、遠くからポーカーの声が聞こえた。まさか自分の言葉に返事を返すことをシュウは考えてもいなかった。声を出したら、それから位置がばれるかもしれないからだ。シュウは声のした方に銃口を向け、ハンドガンを撃った。
「あーらら。どこに撃っているの?」
再びポーカーの声がした。聞こえた場所はさっきと変わらず、奥の方からだ。とにかく進んで奴を倒すしかないと考えたシュウは、罠がある可能性も頭に入れ、壁に隠れながら奥へ進んだ。
しばらく奥へ進むと、広場のような部屋に出た。そこには散乱したソファーや机、ガラスの破片があった。
「酷いな……」
「そう。ここであなたは私の物になるのよ」
ポーカーの声を聞いたシュウは、すぐに身構えた。目の前からゆっくりと歩きながら、ポーカーが現れたのだ。
「こうやって二人で会うのも久しぶりねぇ」
「俺はお前の顔を見るのも嫌だ!」
そう言って、シュウはハンドガンを撃った。ポーカーは女性のような悲鳴を上げながら、シュウの弾丸をかわした。
「酷いわねぇ。久しぶりだし、再開のハグでもしようと思ったのに」
「俺はそんな趣味は持っていない」
舌打ちをし、シュウは再びハンドガンを発砲した。ポーカーは弾丸をかわし、シュウを見つめた。
「この前より野蛮になっているわね」
「そうさせたのはお前とアロウというバカのせいだろうが!」
「うふふ。まぁ、そんなことはどうでもいいわ。それより今から激しく戦いましょう。あなたを倒して、私の物にしてあげる!」
アロウは白衣のボタンを外し、大きく広げた。アロウの下の服には無数のメスがあり、白衣の裏側にもメスが張り付けてあった。
「そいつが武器か」
「武器であって私の医療器具。さぁ、激しく美しく舞いましょう!」
アロウは両手でメスを掴み、シュウに向かって投げた。変則的な動きで飛んでくるメスを見て、シュウはメスに何か細工がされている物だと判断し、ハンドガンで撃って破壊することを止めた。
「あら。自慢の銃で壊さないの?」
「弾の節約だ」
シュウはこう言って飛んでくるメスをかわし続けた。後ろに走ったシュウは柱の後ろに隠れ、飛んで来たメスが柱に刺さる音を聞いた。
「あらまぁ。急な動きには対処できないのよ」
ポーカーのこの言葉を聞き、ポーカーが投げたメスは何らかの方法で自由に操ることができることをシュウは把握した。素早く柱に刺さった一本のメスを抜き取り、どんな細工がされているのか調べた。すると、メスの握り手のそこに割れ目が存在した。シュウはナイフを取り出し、刃先を割れ目に刺して開いた。
「へぇ、こんな仕掛けがあったのか」
ポーカーのメスの中には、機械が詰め込まれていた。シュウはそのメスをポーカーに向けて投げ、叫んだ。
「こんな機械で作られたメスが、俺に通用するかよ!」
「あらま。からくりがばれちゃった」
ポーカーはそう言って、飛んで来たメスを動きが止まるように念じた。その瞬間、シュウはポーカーに向けてハンドガンを撃った。放たれた弾丸はポーカーの右足を撃ち抜いた。
「あうっ!」
苦しそうな声を上げたポーカーの右耳から、小さなイヤホンのような物が落ちた。シュウは素早くポーカーに接近して蹴り飛ばし、イヤホンを拾った。
「イヤホン? 戦っている時に音楽を聴くなんて、余裕持ちやがって」
「イヤホンじゃないわよ。メスを魔力で操れるようにする特殊な機械よ。もう。これで私の武器が減ったじゃないの」
撃ち抜かれた右足を素早く治療し、ポーカーはシュウに接近した。メスで斬られると思ったシュウは後ろに下がり、再びハンドガンでポーカーの足を狙った。
「ダメよ。同じ手は通じない」
ポーカーはジャンプしながら弾丸をかわし、両手でメスを持ってシュウに近付いた。
「右足を撃たれた時、すごく痛かったわ。あなたを傷つけたくないけど、ちょっとお仕置きが必要ね!」
そう言うポーカーの目は、憎しみの色で染まっていた。
上の階で戦うクリムとアロウは、激しい魔力をぶつけあっていた。
「ハァッ!」
アロウは無数の火や雷、風の弾丸をクリムに向けて放っていた。しかし、クリムが発したバリアで全てかき消された。
「やるな」
アロウは氷の刃を作り、クリムが発したバリアを乗り越えて斬りかかった。だが、クリムはアロウの行動を予測していた。クリムは上空に右の手の平を向け、閃光のような雷を放った。
「グアアッ!」
「考えが浅すぎ」
宙に浮かんだアロウを見て、クリムはこう言った。だが、アロウは宙で一回転しながら風を発し、クリムに向けて放った。
「反撃のつもりですか……」
「そのつもりだ! 死ね、クリム! 下の階にいるお前の彼氏まとめて殺してやる!」
アロウはそう言ってクリムに向けて風を放った。小さな風だが、見ただけでクリムはこの風の切れ味が鋭い物だと察し、ため息を吐いた。
「こんな物を使っても、私を倒すことは不可能です!」
と言って、クリムは巨大な火の渦を作り出し、アロウの風をかき消した。
「グッ! うおおっ!」
火の渦が発した際、アロウは吹き飛ばされた。舌打ちをしながら地面に着地するアロウに対し、クリムは見下すような目で見ていた。




