リズムとノリに乗れ
よく無駄口を挟む敵、サルトによってボーノは自分のペースを崩されていた。だが、過去のタルトとの会話を思い出し、冷静になってサルトに挑んだ。ボーノはサルトに接近し、勢いよく左手のナイフを振り上げた。その素早い動きをサルトは見てかわしたが、ナイフの刃先がサルトの頬をかすった。
「グッ!」
頬から流れる血を拭い、サルトはナイフを握ってボーノに接近した。
「隙だらけだぜ!」
ナイフを振り上げ、そのままの状態のボーノにサルトは接近した。しかし、ボーノはサルトの攻撃が来ることを予想し、呼吸を整えた後、上げたままの左手でサルトに一閃を与えた。ボーノの動きを予測できなかったサルトは、動揺しつつ後ろに下がった。
まずい。あいつの動きが読めない。俺のペースに持ち込めない!
と、サルトは心の中で不安の言葉を叫んだ。動揺する中、どうすればボーノを殺せるか、どうすればこの戦いに勝てるか考えた。しかし、ボーノはサルトに考える時間を与えなかった。攻撃を行った後、ボーノはステップを踏むような動きで素早くサルトに接近し、体をコマのように回転させて攻撃を仕掛けた。サルトはナイフでボーノの攻撃を防御したが、ボーノの攻撃は強く、サルトが手にしていたナイフは弾かれてしまった。
「なっ!」
「隙だらけだぜ、兄ちゃん」
ボーノはこう言って、サルトの方に動いて攻撃を仕掛けた。ナイフの攻撃はまだ続いており、サルトはこのままナイフの攻撃を受け続けた。
「グッ! 俺を……見下すな!」
サルトは魔力を開放し、近くにいたボーノを吹き飛ばした。吹き飛んだボーノは地面に着地し、サルトの様子を見た。魔力を開放したサルトからはオーラのような物が放たれており、明らかに雰囲気が違っていた。
「改造の力か?」
ボーノがこう聞くと、サルトはにやりと笑ってこう答えた。
「俺も改造の力を受けたが、死にたくないから使わないぜ」
「素直だな」
ボーノは言葉を返すと、魔力を開放してサルトに向かって走った。サルトは接近してくるボーノを睨み、替えのナイフを装備した。
「お楽しみはまだまだ続くってわけか。面白い! どっちかがくたばるまで派手にやろうぜ!」
「悪いな、お楽しみはすぐに終わる!」
ボーノはサルトに接近するその直前に横に向かってジャンプした。どうしのだと思ったサルトはボーノの動きを目で追った。ボーノは壁を使いながらジャンプしてサルトの背後に回り、勢いに乗って攻撃を仕掛けていた。
「勢いをつけて攻撃するつもりか。いいぜ、迎え撃ってやる!」
ナイフを構えたサルトは、二つのナイフの刃に魔力を込めて巨大な光線を放った。飛んでくる光線を見てボーノは斜め上にジャンプして光線をかわしたが、それを見たサルトはニヤリと笑った。
「残念! このビームは動かすことができる!」
と言って、ナイフを上に上げた。ナイフから放たれる光線は上に上がったが、その前にボーノはサルトの近くにいた。
「ここまで近づけば、ビームは怖くない」
「なっ!」
驚くサルトの顔を見ながら、ボーノは再び魔力を開放し、勢いをつけてサルトに近付き、ナイフで攻撃を仕掛けた。攻撃を終え、地面に着地したボーノは動きを止めたサルトを見た。
「どうだ? 今の攻撃?」
「いい攻撃だったよ。でもさ、どうしてあんたに負けたのか教えてくれよ。俺は、自分のペースで戦って、あんたのペースを崩したと思ったのに」
この言葉を聞き、ボーノは息を吐いて答えを言った。
「お前は自分で分からないうちにペースを乱していた。それと、攻撃をしている時、俺は自分の頭の中で自分のリズムを奏でていた。ノリに乗っている時は猛攻、疲れた時は回避に専念。難しいがこんな感じだ。いつも激しいリズムだと疲れてノリに乗れない」
「自分のリズムか……はは……難しい話だな」
「ま、生きていればこの話の深さを理解できるさ」
ボーノはサルトに接近し、デコピンをした。デコピンを受けたサルトは後ろに倒れ、そのまま気を失った。
スネックは銃剣を構え、目の前の敵と戦っていた。激しく斬り合いをしていたせいで、二人の服はボロボロで、肌には切り傷がいくつもできていた。
「後は俺とお前だけのようだな」
「そのようだな」
二人はそう言うと、にやりと笑って魔力を開放した。そして、手にしている武器で激しい攻撃を始めた。
「そろそろくたばりやがれ、クソ野郎!」
「くたばるのはお前の方だ! クソ野郎!」
「このクソ野郎、俺のことをクソ野郎というな!」
「クソ野郎にクソ野郎と言って何が悪い? クソ野郎!」
「何だとクソ野郎!」
「ぶっ殺すぞ、クソ野郎!」
二人が戦っている周囲には、金属音が激しくぶつかり合う音と、汚い罵倒の言葉が飛び散っていた。スネックは蹴りを放って相手の男を蹴り飛ばそうとしたが、相手も同じことを考えていて、二人の蹴りがぶつかった。
「クソ野郎、モノマネするなよ」
「真似をしたのはお前じゃないかクソ野郎!」
と言って、二人は後ろに下がった。息を切らせながら、二人は互いの顔を見て心の中で同時に叫んだ。
クソッたれ、このクソ野郎と思考が一緒だからなかなか戦いが終わらねぇ!




