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暴走するプライド


 目の前の敵、ラバルに向けてフィアットは斧を振り上げていた。わざと相手のペースを乱すような言動をし、大きな隙を作ることに成功したのだ。


「おりゃァァァァァァァァ!」


 叫び声と共に、フィアットは勢いよく斧を振り上げた。強烈な一撃はラバルの腹から胸にかけて大きな一文字の傷を作った。


「な……あ……」


 傷を受けたラバルは動揺していた。しばらくして、腹と胸から熱いものを感じた。大量の血が流れている。そう認識するのは時間がかからなかった。


「ぐっ……が……あ……」


 痛みを感じたラバルは、ゆっくりと後ろに下がった。床にこぼれる血を見て、目を開いて動揺した。まさか自分が追い込まれるとは思っていなかったからだ。まさか自分が大きな傷を受けるとは思っていなかったからだ。


「クソが……この俺にこんな傷を……」


「もう戦いは終わりよ、さっさと降参しなさい!」


 と、フィアットは斧をラバルに向けてこう言った。しかし、ラバルはフィアットの言う通りにはせず、魔力を開放した。


「お前を殺す! たとえこの身が滅びても!」


 この言葉を聞き、フィアットは身構えた。セントラルタワーに入る前に、バカップルからポーカーの改造手術のことを聞いていた。相手が魔力を開放して急激にパワーアップし、命を落とす可能性があるということを。


「あんた、命を落とす覚悟があるってわけ?」


「当然だ……お前たちを殺すためにこの力を得たのだからな!」


 ラバルはそう言うと、フィアットに向かって襲って来た。どのタイミングで襲われてもいいように、フィアットは身構えていたため、ラバルの突進をかわすことに成功した。しかし、突進したラバルはその勢いを落とすことができず、壁に激突した。


「うわー、痛そう」


 めり込んだラバルを見て、思わずフィアットは声を漏らした。だが、壁に激突してめり込んだラバルは無傷だった。


「ふぅ。改造の力がここまでとは。素晴らしいな」


「うっそ!」


 強く壁に激突したのに、傷一つないラバルを見てフィアットは驚いた。その隙にラバルは剣を持ち、フィアットに襲い掛かった。


「死ねぇ!」


 ラバルは力に任せて剣を振り下ろし、フィアットを一閃しようとした。フィアットは盾を出して防御したが、強烈な一閃を受け止めた盾は壊れてしまった。


「嘘……結構いい値段のする盾なのに」


「安物の盾で俺を防ぐことはできない!」


 と言って、ラバルはフィアットを蹴り飛ばした。蹴られたフィアットは宙に吹き飛び、床に激突して転がった。蹴りが命中した箇所はフィアットの腹。フィアットは立ち上がろうとしたが、激痛を感じて立ち上がることができなかった。


「うう……ゴホッ! ゲホッ!」


 息苦しさを感じ、咳きを出すと、フィアットの口から血が流れた。


「臓器の一つがグチャグチャになったようだな」


 ラバルが接近し、左手でフィアットの頭を掴んで持ち上げた。


「喜べ。このままお前の臓器を全部粉々に、グチャグチャにしてやるぞ」


「それだけは勘弁」


 と言って、フィアットは右手に銃を持ってラバルの左足に発砲した。弾丸を受け、強烈な痛みを感じたラバルは悲鳴を上げ、うずくまった。何とか着地したフィアットはうずくまるラバルを見て、あることを察してこう言った。


「確かに攻撃力はすごいし、図体もかなりでかいよ。だけどさ、防御力がかなり下がっているよ。この銃と弾丸、安物だよ」


「ぐ……クソが!」


 痛みをこらえ、ラバルはフィアットに襲い掛かった。しかし、強烈な痛みなのか、ラバルの走る速度は大きく低下していた。


「この戦い、結果が見えたね」


「お前の死が見えたのか?」


「違うよ。負けるのはあんただ」


 フィアットは両手に剣を持ち、ラバルを飛び越すようにジャンプした。背後に回れたと察したラバルは振り返ろうとしたが、その前にフィアットは両手の剣を交差に動かし、ラバルを斬った。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「もう分ったでしょ? これ以上戦うのは得じゃないよ。大人しく捕まってよ」


 血を流すラバルを見ながら、フィアットはラバルを見下すようにこう言った。その目を見たラバルは歯を食いしばり、怒りの表情でフィアットを睨んだ。


「捕まってたまるか!」


 ラバルは魔力を開放し、無理矢理出血を止めた。フィアットはラバルがまだ戦うつもりなのかと思い、呆れてため息を吐いていた。だがその時だった。風船が破裂したような音と共に、ラバルの右腕から血が流れた。


「な……何だと……」


 動揺するラバルだったが、それから続けて腕や足の血管が破裂して勢いよく血が流れた。フィアットはラバルに近付き、こう言った。


「無理して体を巨大化させたから、負担がかかったのよ」


「クソ……それでも俺は……」


 その時だった。ラバルは苦しそうな表情になったのだ。左胸を抑えて苦しそうにしていたが、その場に倒れた。フィアットは倒れたラバルの脈と心臓の鼓動を調べたが、どちらも動いていなかった。


「まさか、心臓が破裂したのかねぇ」


 そう言って、倒れたラバルを見ていた。




 キャニーはスナイパーライフルを持ち、大きな魔力が一つ消えたことを察した。


「フィアット……勝ったのね」


 フィアットの魔力と衝突していた魔力が消えたため、キャニーは安堵の息を吐いた。その時、発砲音と共に弾丸が壁に激突する音が聞こえた。


「まずい、こっちも頑張らないと」


 キャニーはそう呟き、どうやって動くか考え始めた。


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