ドゥーレの本気
ヴァルザーは冷や汗をかいていた。ドゥーレの雰囲気が変わり、この場の雰囲気も魔力の質も大きく変わったからだ。我に戻ったヴァルザーは冷や汗を拭い、心の中で自分を励ました。大丈夫、雰囲気が変わっても力は変わらぬ、この戦いに勝つのは自分だと。
「ハッ! 魔力が変わったからって俺に勝てると思うなよ!」
そう叫んだ瞬間だった。突然強い衝撃がヴァルザーを襲ったのだ。壁に激突したが、謎の衝撃は強い力でヴァルザーを壁に押し当てていた。
「グガ……グググ……」
このままだと押しつぶされると思ったヴァルザーは、魔力を開放して衝撃から逃れた。片膝をつき、体中の痛みをこらえながらドゥーレを見た。ドゥーレは一歩どころか、体を動かしていなかった。
「な……何だ、今の衝撃は……」
謎の衝撃の正体を考えようとしたヴァルザーだったが、上から再び謎の衝撃が襲い掛かった。
「ぐわはぁっ!」
地面に倒れたヴァルザーは、もう一度魔力を開放して衝撃から逃れようとした。しかし、今度の衝撃は前の物より強かった。骨のきしむ音が聞こえ、両手両足どころか、首も動かすことができない。魔力を使うことが困難になるほどの強い衝撃が襲い掛かっている。
まずい、このままだと体が潰れる。
命の危機を察したヴァルザーは、無理矢理魔力を開放し、衝撃から逃れた。体が軽くなったのを感じ、ヴァルザーはようやく逃げられると思った。だが、上空からドゥーレが襲い掛かって来ていた。
「それ」
ドゥーレは左手を振り下ろした。一体何をするつもりだと思ったヴァルザーだったが、その直後に強い衝撃がヴァルザーに襲い掛かった。
「グッ! 一体何だ、あの衝撃は!」
衝撃を受けて倒れたヴァルザーは、見下しているような表情をしているドゥーレにこう言った。ドゥーレは欠伸をした後、ヴァルザーに答えた。
「強い風だよ。風も強かったら人も車も街路樹も吹き飛ばす。それを操ってお前を吹き飛ばして、地面や壁に押し付けた」
「風……か……」
謎の衝撃の正体は強風だった。体も動かすことができず、壁や地面にめり込むほどの強さの風。それを自由自在かつ、魔力を消費してもピンピンしているドゥーレを見て、ヴァルザーは冷や汗を流した。
「つっ……ぐぅぅ……」
貧乏くじを引いてしまった。とんでもない奴と戦うことになってしまった。ドゥーレの本気を目の当たりにしたヴァルザーは、この場から逃げてセントラルタワーにいるアロウの元へ戻ろうとした。しかし、ドゥーレが風を操ってヴァルザーを宙に浮かせた。
「な……何をする!」
「少し痛い目にあってもらうよ」
ドゥーレはそう言うと、風を使ってヴァルザーを周囲に瓦礫や地面にぶつけた。しばらくぶつけた後、ドゥーレはヴァルザーを上空に向けて投げた。
「ああああああああああああああああああああ!」
悲鳴を上げるヴァルザーを見て、ドゥーレは風を使って巨大な拳を作った。
「死なない程度に力を調整したよ。だからさ……一度痛い目にあいなよ」
落下するヴァルザーに向かってドゥーレは巨大な拳を放った。強い力で殴られたヴァルザーはその衝撃で少し離れた瓦礫に向かって飛んで行った。
「ぐう……うぐぅ……」
強い衝撃を受け、ヴァルザーは気を失いそうになった。このままだと勝てない。なら、ポーカーから受けた改造手術の力を使うしかない。そう思い、ヴァルザーは魔力を開放した。突如強くなったヴァルザーの魔力を感じ、ドゥーレは呆れたようにため息を吐いた。
「あらまぁ……そんなことをしていいのかな? 命が欲しくないのかな」
と、ドゥーレは小さく呟いた。少しして、瓦礫が上空に吹き飛び、ドゥーレに向かって飛んで来た。瓦礫をかわした後、ドゥーレはヴァルザーの方を睨んだ。ポーカーの改造手術を受けたヴァルザーは、先ほどよりも筋肉が膨れ上がり、体からは蒸気のような煙が上がっていた。
「お前を殺す。俺のプライドにかけて!」
「プライド? 他人から受けた力を使って戦うのはありなの?」
ドゥーレはヴァルザーに向かってこう言った。
セントラルタワーにいるアロウは、下から来る魔力を感じていた。
「クリムが来るが……邪魔な虫けらがいるな」
「それじゃあタワーの中にいる人たちに任せればいいじゃない」
と、バスローブ姿のポーカーがこう言った。アロウはポーカーの方を向き、呆れたようにこう言った。
「こんな状況の中で風呂に入っていたのか? それと、ちゃんと服を着ろ。男の裸を見ても嬉しくない」
「シュウ君が来るし、少しでも体を綺麗にしないと」
「戦いになる。汚れるから無意味だと思うが」
「気持ちの問題よ。それよりも、外の方の騒ぎが収まってきているわね」
ポーカーがこう言うと、アロウは欠伸をして答えた。
「大分やられてしまったのだろう。だが、外にはまだあいつがいる」
「あいつ?」
「俺の部下の中には、ギルドを激しく恨む奴がいる。お前も俺の部下を改造したのなら、少しでも話は聞いているだろう」
「まーね。確かにギルドを恨む人はいたわ。それじゃあそいつが今外に?」
「ああ。きっとお前から受けた改造の力を使うだろう。死ななければいいが……」
アロウは外を見てこう言った。ポーカーは話を終えた後、背伸びをして洗面所に向かった。




