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それでも誇りは捨てられない


 隙をついたカーボンの一閃は、ミチサクに大きな傷を負わせた。ミチサクは後ずさりしながら、まさかと思うような表情で腹の傷を見た。


「まさか……こんな……」


「終わりだ。これ以上戦うことはできないだろう」


 勝負は終わった。そう思ったカーボンは剣を鞘に納め、シュガーの元に戻ろうとした。しかし、ミチサクは魔力を開放した。強い魔力を感じたカーボンは驚きながら後ろを振り返り、ポーカーの改造の力を使うのだろうと思ったシュガーは、注射器を持って身構えた。


「強い魔力だ。まさか、これほどの力を持っていたとは」


「カーボンさん、構えてください! ポーカーから受けた改造の力を使うかもしれません!」


「それほど強いのか」


「はい。命と引き換えに強い力を手にしたようです」


「命と……」


 ポーカーの改造のことを聞き、カーボンはミチサクを見て冷や汗をかいた。だが、二人の話を聞いていたミチサクは大声でこう言った。


「俺を誤解するな! 改造を受けたが、そんな力を使うつもりはない! 裏ギルドの一員だが、一人の剣士としての誇りは捨ててない!」


 この言葉を聞いたシュガーは、胡散臭いと思った。だが、カーボンは剣を鞘から抜き、ミチサクに向かって歩いて行った。


「カーボンさん! まだ魔力の衝撃波が発しています、危険です!」


「大丈夫だ。俺も剣士の一人、奴も剣を持つ者としての誇りは捨ててないと察した。変な力は使わないだろう」


「でも……」


 心配していたシュガーだったが、カーボンは歩いてミチサクの元へ歩いて行った。


 カーボンはミチサクの近くに来て、自分が与えた傷が治っているのを見た。先ほどの魔力の解放は、パワーアップではなく傷の治癒に発したものだと察した。


「傷を治すために魔力を使ったのだな」


「まだ戦える。互いに果てるまで勝負するぞ」


「望むところだ」


 短い会話を交わした後、二人は同時に剣を抜いた。それから、周囲に激しく金属音がぶつかり合う音が響いた。しばらく斬りあう中、カーボンは渾身の一撃を放つため、剣を上に上げた。その瞬間を見計らい、カーボンは剣を横に振るった。


「グウッ!」


 カーボンの剣は、ミチサクの腹に横一線の傷をつけた。だが、痛みをこらえながらミチサクは力強く剣を振り下ろし、カーボンの左肩に深い切り傷を付けた。


「グッ!」


 傷を受けたカーボンは、痛みで顔が歪んだが、左手を強く握って痛みをこらえ、後ろに下がった。ミチサクは片膝をつき、魔力を使って傷を癒した。


「はぁ……はぁ……やるじゃないか」


「お前も……」


 カーボンは剣を地面に置き、右手で左肩の治癒を行った。互いに治癒が終わった後、二人は剣を握って走り出した。最初に技を仕掛けたのはカーボン。カーボンは利き手ではない左手に剣を持ち、横一線に剣を振るった。予想外の動きを見たミチサクは動揺して隙を見せ、この攻撃を受けてしまった。


「策を練ったか。なら俺も!」


 腹に傷を受けたミチサクは、素早くしゃがんで両手で剣を握り、飛び上がると同時に剣を振り上げた。体を使った技は、防御の構えをとっていたカーボンの態勢を崩した。


「うおっ!」


「隙あり!」


 宙にいるミチサクは、剣を構えなおし、地面に倒れているカーボンに向けて剣を振るった。この一撃を受けたらまずい。そう思ったカーボンは腰に力を入れ、体を動かして攻撃をかわした。かわす際、落ちていた剣を拾い、地面に着地したミチサクに向かって斬りかかった。


「むっ!」


「うおおおおおおおおおお!」


 勢いをつけてカーボンはミチサクに斬りかかった。ミチサクは足を動かし、カーボンの足を蹴ろうとした。しかし、自分を転倒させるだろうと考えを持っていたカーボンは、横に移動して攻撃をかわした。


「そんな手が通じるか!」


「やはり小細工は効かないか」


 そう言いながら、ミチサクはにやりと笑った。そして、カーボンの強烈な一閃が再びミチサクに命中した。


「ふぅ……」


 魔力と体力を込めてカーボンは一閃を放った。ミチサクはこの一閃を避けることができず、受けてしまった。


「誇りを捨てず……戦えてよかった」


「外道どもの中にも、お前のような誇りを持つ者がいるとは……思ってもなかった」


「機会があればさ、また相手してくれよ」


「何年でも待つ。いつでもリベンジマッチは受け付けている」


「ヘッ、それはありがたいや」


 と言って、ミチサクはその場に倒れた。戦いが終わった後、カーボンは気を失ったミチサクを背負い、シュガーの元へ戻った。




 一方、メッズーニ率いる変態集団は周りの様子を見ながら行動していた。


「流石メッズーニ様。混乱の中、こっそりとこの町に侵入して火事場泥棒を行おうなんて誰も考えませんよ」


「下手したら死にますからね」


 部下がこう言うと、メッズーニは静かにするようにジェスチャーした。


「黙ってなさい。周りに誰もいない今なら、宝石店とか銀行とかで盗み放題だけど、下手したらギルドの戦士か変な連中に見つかっちゃうでしょ」


「はい、すみません」


「以後気を付けます」


 部下はそう言って頭を下げた。よろしいと言ってメッズーニは歩くのを再開しようとしたのだが、鋭く尖った瓦礫を踏んでしまった。


「イッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 痛い! 痛い! 痛いよォォォォォォォォォォォォォォ! これマジでやばい、血が出たんじゃない? 何でこんな所に尖った物が落ちてるのよォォォォォォォォォォォォォォ!」


「メッズーニ様ァァァァァァ! 静かにしてェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」


「お前も静かにしろ!」


 その時、バカ共の叫び声を聞いた誰かがやって来た。それは、改造して姿形が変わったアロウの部下だった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア! 化け物ォォォォォォォォォォォォォォ!」


 アロウの部下を見て、バカたちは叫び声を上げながら逃げて行った。


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