反撃の糸口
「これで一応大丈夫かな」
ティラはミゼリーの腹を包帯で覆った後、治療用の道具をしまった。ミゼリーの手当て中に襲われるだろうと考えていたティラだったが、敵は攻撃を仕掛けてこなかった。
「ふぅ、敵の様子が気になるねぇ」
「多分、幻に苦しめられているのでしょう」
ミゼリーの言葉を聞き、ティラは反撃の糸口がどういう意味であるか察した。
「幻だね」
「はい。ただ、相手との距離が離れているため、幻覚症状に陥るまでは時間がかかると思います」
「いや、もう相手は幻覚症状になっている可能性があるよ」
ミゼリーにそう言うと、ティラは敵がいる可能性がある場所に視線を向いた。
ティラとミゼリーと戦っている敵、ラリオとモンスは下品な笑い声を発しながら会話をしていた。
「ヘッヘッヘ、あと少しで敵を殺せるぜ」
「どうやって殺そうか。裸にひん剥いてズタズタにするか、俺の銃でハチの巣にするか」
「どっちも素晴らしい殺し方だな」
ラリオはモンスが持つ改造アサルトライフルを見て、にやりと笑っていた。ラリオとモンスが攻撃を仕掛けてこなかったのは、余裕の気持ちを持っていた。確実に倒せるだろうと思い、あえて攻撃を仕掛けてなかったのだ。
「さーて、そろそろぶっ殺しますか。どこにいるのかな?」
ラリオは目をつぶり、神経を集中させてティラとミゼリーの位置を探知しようとした。しかし、ラリオは目印としているティラとミゼリーの魔力が多数あることに驚き、声を上げた。
「おいラリオ、声を出すと居場所がばれるぞ」
「わ……悪い……おい、俺はこっちだぞ」
と、ラリオは別方向を向いているモンスにこう言った。ラリオの声を聞き、驚きの表情を見せながらモンスはラリオの方を振り向いた。
「あれ? お前いつの間にこっちに」
「俺は移動してないぞ。どうした、疲れで神経がいかれたか?」
「疲れてないし、いかれてもない。んー? どういうことだ?」
何かがおかしいと二人は感じた。今まで普通に戦っていたのに、突如相手の魔力を多く探知してしまい、別の方向を向いて話をするという変な行動をとってしまうのだ。どうしてこうなったと考えている中、発砲音と共に弾丸は二人が隠れている岩盤を貫通して飛んで来た。
「敵だ!」
「クッ、俺たちの居場所を察知したのか!」
二人は別々の岩盤に隠れ、ティラとミゼリーの様子を伺った。離れてしまった二人は手で合図をし、次にどう動くか相談した。相談の結果、二人は接近戦を仕掛けることにした。ミゼリーが銃弾を受けて傷を負ったことを魔力の探知で知っており、ティラとミゼリーは隠れている場所から一歩も動いていないことも察している。傷を受けて動けないのだろうと考え、慣れない接近戦で戦うことにしたのだ。
「一気に距離を詰めるぞ、モンス!」
「ああ! このままやっちまおうぜ!」
そう言って走り出した二人だが、突如周りの景色が歪んだ。
「なっ……」
「何だ……こりゃ?」
「まさか……お前も?」
「それじゃあラリオも……」
二人は察した。今、二人同時に周りの景色がおかしくなっていると。
「う……敵の一人が……何かやったのか?」
「可能性はある。ぐ……幻術を使うか……それとも変な薬か……」
「幻術かもしれない。幻を使う奴が……相手だったかも……」
その直後、発砲音が聞こえた。ラリオは身構えようとしたのだが、その前にモンスの悲鳴が聞こえた。
「モンス!」
「ぐ……足をやられた……」
モンスが足を抑えながら、うずくまっているのをラリオは目にした。治療しようとしたのだが、急にだるさを感じ、体が急に重くなった。
「体がだるい……おかしいな、さっきまでは動けたのに……」
「ラリオ……」
モンスは不安そうにラリオに声をかけた。だが再び発砲音が響き渡り、倒れているラリオの腕を弾丸が貫いた。
「ギャアアアアアアアアアアア!」
「チクショウ! よくも俺たちをこんな目に……」
何が何でもぶっ殺してやる。そう思いながらモンスは動こうとした。しかし、発砲音が連続して響き渡り、弾丸が二人の体を撃ち抜いた。
「ガハッ……」
「クソ……」
追い打ちを受けた二人は、魔力を開放することなく気を失った。
「ふぃー、どうにかなったね」
ティラは倒れているラリオとモンスに近寄り、気を失っている二人を動けないように縛った。ミゼリーは傷を抑えながらティラに近付き、ラリオとモンスの様子を見た。
「私の魔力が効いたみたいでよかったです」
「恐ろしいねぇ。ただの幻覚じゃあないよね」
「はい。いつも使う魔力に少し手を加えて、相手の体に負担がかかるように調整しました」
「幻術にかかったと同時に、体に異常を与えて動けなくさせる。恐ろしいねぇ」
「今回は相手が相手です。こちらとしては命を奪いたくないので、どうやって相手の動きを止めるかと考え、今の技を編み出しました」
「ハハッ、熱心なことで大変よろしい」
ティラはそう言ってラリオとモンスを縛り続けた。そんな中、ミゼリーは大きな魔力を感じた。
「ティラさん、早くしましょう」
「分かっているよ。でかい魔力だろ。それもとんでもない強さの」
「シュガーの元に近付いています」
「戦闘能力がないシュガーから潰すつもりだね」
「呑気に話している場合じゃないですよ、早く行かないと」
焦っているミゼリーに対し、ティラはこう言った。
「大丈夫だよ。どうやら助っ人がいるみたいだ」
「え? 助っ人って……」
その直後、別の大きな魔力をミゼリーは感じた。この魔力を感じ、ミゼリーはカーボンがいることを察した。




