遠距離の戦い
カーボンは戸惑っていた。テロ組織の一員がシュガーの手によって下着姿にされ、何か特殊なプレイをしているような光景を目の当たりにしたからだ。戸惑っているカーボンを見て、シュガーは少し考えてこう言った。
「誤解しているようですが、これから私がするのはポーカーの改造技術の解剖です」
「改造技術? どういった話か分からないが」
「簡単に説明しますと、こいつらはポーカーという悪い裏医者の改造技術で多少なりとも強くなっています。しかし、改造の反動で命の危機に瀕しています」
「死ぬかもしれないのか」
「はい。現にジャックさんとラックさんが戦った相手は改造でパワーアップした後、その反動で命を落としました」
「なっ……」
シュガーの説明を聞き、カーボンは倒れているバヤイを見た。
「じゃあ彼も……」
「私が薬の力で止めたので多分大丈夫です。カーボンさん、お願いがあるのですけど聞いてくれますか? 重要なことです」
「重要なこと?」
カーボンが聞き返すと、シュガーは外での手術の用意をしながら、言葉を返した。
「たとえ悪党でも命を救わねばなりません。死んで罪がチャラになるとは私は思いません。罪は生き地獄を味わって償うものだと私は考えています。だから、今からこいつの体を調べます。その間、私の護衛をお願いします」
「お安い御用だが、他の仲間はどうするのだ? まだ戦っているみたいだが」
「負けませんよ。必ず勝ちます。そう信じていますので」
と、シュガーは笑顔でこう言った。カーボンはその笑顔を見て、シュガーのことを信じようと思い、剣を手にしてシュガーの前に立った。
「何があっても君を守り抜く。安心してくれ」
「はい」
その後、シュガーの手術が始まった。カーボンは剣を手にし、周囲を見回して見張りをしていたが、後ろからバヤイの悲鳴が聞こえ、どんな手術をしているか気になった。だが、危ない雰囲気を察したカーボンは、決して後ろを振り向いてはならないと自身に念じ、護衛に徹した。
ティラはライフル銃を構え、一呼吸した。
「厄介だねぇ」
スコープ越しで、敵の様子を見て呟いた。後ろにいるミゼリーは魔力を使い、バリアを展開していた。バリアがあるせいで敵は攻撃を仕掛けてこないが、いずれ何かしらの動きをするだろうとティラは予測していた。
「敵の様子が全く分からないねぇ」
「ええ。何もしてこないというのが、怖いです」
ティラに言葉を返した後、ミゼリーは後ろの岩盤に隠れた。その直後、発砲音と共に何かが当たる音がした。瓦礫の破片が落ちる音を聞き、ティラはミゼリーに声をかけた。
「大丈夫?」
「ええ。岩盤の上をかすめたようです」
「敵の一人は銃を持っている。それに、私と同じ狙撃銃だ。瓦礫をかすめても勢いが落ちずに飛んで行くあたり、相当火力のある銃だね」
この一発でティラは敵の銃の予測をまとめた。ミゼリーは心の中で、ティラがいつもこの位本気で仕事に取り掛かればいいのにと思った。その直後、二発目が飛んで来た。二発目は岩盤を貫通し、ミゼリーの目の前を飛んで行った。
「まずい」
「こっちに来な」
ティラはミゼリーにこう言って、自身に近付けた。ミゼリーは呼吸を直しつつ、ティラに話しかけた。
「まさか私を狙って……」
「可能性はある。あんた、さっきまでバリアを使っていたでしょ。その時の魔力を敵が感知して、どこにいるか計算したみたいだね」
「敵ながらすごい奴です」
「可能性の話だよ。改造してよく聞こえるようになったか、透視能力でも手にした可能性もあるよ。ま、何はどうあれ向こうは私たちがどこにいるかそれなりにはっきりしているみたいだ。行くよ」
「はい」
話を終え、二人は同時に別の瓦礫の裏に向かって走り出した。走っている途中、二発の弾丸が二人を襲った。
「飛び込め!」
ティラの合図で、二人は同時に瓦礫の裏に飛び込んだ。弾丸は当たらなかったが、ティラはこの弾丸で敵が自分たちの位置をほぼ完全に把握していることを察した。
「さて、どうするかねぇ」
「反撃ですか?」
「したいけど、下手に動いたらハチの巣だ。さっきの攻撃を見ただろ? もしかしたら、敵が持っているのは長距離用のアサルトライフルだ。私の勘が外れたな」
「ライフルじゃないのですか?」
「ライフル銃で二発連続発砲するのは無理だよ。一発撃ったら次の弾を撃つのに準備が必要で、その準備にかかる時間は慣れている狙撃手でも数秒かかる。ポンポン弾を撃てないってことさ」
ティラはライフルを用意しつつ、攻撃の手段を考えた。
「まずいねぇ、相手は魔力でも探知できるし、何かしらの方法で私たちの居場所を把握できる。反撃したいけど、無暗にやれないね」
「私に考えがあります」
ミゼリーの言葉を聞き、ティラはこう言った。
「無理するな。下手に動いてハチの巣にされちゃあ私泣いちゃうよ」
「修羅場はくぐっています」
「あんたの経験を信じるよ。ただこれだけは言っておく。無茶するな」
「はい」
ミゼリーは返事をした後、魔力を開放して前方に霧を発した。その直後、再び発砲音が響き渡り、ミゼリーの脇腹をかすった。
「あうっ!」
ミゼリーの悲鳴を聞いたティラは素早く医療道具を用意し、ミゼリーの服を脱がし、脇腹を見た。
「かすっただけでこの傷か……」
傷を見たティラは、苦い顔をしてこう言った。弾丸はミゼリーの脇腹をかすったが、傷は肉が削れたようになっており、そこから血が流れていた。
「手当てするから動かないでね」
「はい……ですが……これで反撃の糸口を掴めました」
と、苦しそうにミゼリーはこう言った。




