倒す以外の目的
ラック、ジャックの戦いは終わった。シュガーはそう確信し、目の前の敵に声をかけた。
「どうやらあなたの仲間はやられたみたいですね。彼らがどんな結末を迎えたのかは口に出せませんが」
「察しているよ。体がぶっ飛んだ」
敵はそう言うと、飛んで来たブーメランを取り、シュガーを睨んだ。
「俺たちがどうなろうかギルドの戦士様は気にしてないだろう。所詮俺たちは底辺の虫けらだ。どうあがいても底辺から抜け出せない」
「そうと決まったわけじゃないですよ。希望を失わないでください」
シュガーの言葉を聞き、敵はイラッとした表情でシュガーに向かって走って行った。
「偉そうに言うんじゃねーよ、クソ女が!」
叫び声と共に二本のブーメランがシュガーを襲った。飛んで来るブーメランをかわし、敵の動向を探った。敵はシュガーの隙を狙って移動していて、シュガーが自身の動向を探っているとは知らない様子だった。
さてどうしよう。そう心の中でシュガーは思った。接近して体の動きを止める薬品が入った注射器を刺そうにも、敵との距離は開いていて、敵の走る速さも早い。確実に追いつけないのだ。ならどうすると、シュガーは思考を巡らせた。あらゆる考えを巡らせた結果、シュガーはある行動をとった。
「む?」
敵はシュガーの行動を見て少し動揺した。シュガーはその場に立ち止まったのだ。魔力も解放せず、武器も持たずに。
「死ぬ気かあの女?」
不思議に思った敵だったが、チャンスと思いシュガーに接近した。
「お望みなら楽に殺してやるよ!」
とにかく倒すしかないと敵は思い、隠し持っていた小刀でシュガーを突き刺そうとした。しかし、シュガーは小刀をかわした。
「なっ!」
「接近してくると思いましたよ。それと、もう一つ」
と言って、シュガーは高くジャンプした。何故飛び上がったのか分からなかった敵だったが、目の前を見てシュガーがジャンプした理由を把握した。自分が投げたブーメランが、目の前に飛んで来ていたのだ。
「あ……」
シュガーが立ち止まったのに動揺し、敵はブーメランを投げていたのを忘れていたのだ。ブーメランの両端には鋭い刃が付いている。戦っている相手に致命傷を与えるために改造したブーメランだったが、それがまさか自分を窮地に陥れるとは敵は思ってもいなかった。
「しまった」
動揺した敵はショックで避けることを忘れていた。しばらくして我に戻ったが、ブーメランの刃は敵の体に命中した。
「あああああああああああああああ!」
勢いをつけてブーメランは戻って来たため、刃は奥深くまで食い込んだ。敵は後ろに下がり、体に刺さったブーメランを取ろうとした。しかし、激痛が体に走り、思うように両腕を動かせなかった。
「クソ……このバヤイがこんな目に……」
敵、バヤイは血を流しながら周囲を歩き回った。そんな中、シュガーが接近してこう言った。
「大人しくしてください。これ以上戦うのは得策ではないですよ」
「ふざけるなよ。たかがブーメランが刺さっただけで勝利を確信するな」
「私はあなたを殺そうとは思っていません。ポーカーの改造からあなたを救おうと考えています」
シュガーの言葉を聞き、バヤイは笑い出した。
「敵を助けるだと? お前、頭がおかしいのか?」
「何と言われようともどうもしませんが、死にたくなければ私の言うことに従いなさい」
バヤイの言葉に動じることはせず、シュガーがこう言った。バヤイは笑った後、シュガーを睨んだ。
「おかしいなお前。どうして敵を助けようとする?」
「目の前で死ぬ人を救うためです。ヒーラーとして当然のことをするまでです」
「敵を助けるのがヒーラーの仕事か? 仲間を助けるためじゃないのか?」
「それもそうです。ですが、目の前で死ぬのが確定している人をほっとくわけにはいきません」
シュガーはそう言ってバヤイに接近した。バヤイはシュガーを蹴り飛ばそうとし、足を後ろに引いた。だが、その前にシュガーが注射器をバヤイの体に向けて投げた。
「な……」
「大人しくしてください。下手に魔力を開放すると体に異常が発生します。ポーカーの改造のせいで、魔力を激しく使うと体に異変をもたらします」
「だからどうした……俺たちはギルドの連中をぶっ殺すために……」
「はいはい、大人しくしてください」
シュガーはバヤイの体に刺さった注射器の薬品を注入した。薬を入れられたバヤイは両膝を地面に付いた。
「な……なん……だ……体の……力が……」
「体を動けなくする薬を入れました。一日、あるいは二日間あなたは動けません」
「何だ……と……」
動けないと分かったバヤイは、何が何でもこの場から逃げようとした。だが、体はすでに動かなくなっていた。
「あ……ああ……」
「それじゃあ待っていてくださいね。少しばかりあなたの体を見ますので。いろんな意味で」
と、シュガーは笑いながらこう言った。だが、この時の笑みをバヤイは脳裏に焼き付けていた。シュガーの笑みは少し怖かったからだ。
戦いが終わった後、シュガーはギルドに待機している戦士たちに応援を要請した後、バヤイを下着一丁にし、体の様子を調べていた。
「ふむ。やはり一度体の中を見ないと分かりませんね」
この言葉を聞いたバヤイは自分の体がどうなるか察し、恐怖の表情となった。その顔を見たシュガーは慌ててこう言った。
「大丈夫ですよ、死にはしません。あ、ただあの薬品には麻酔の効果を打ち消す副作用があったので、体にメスを入れる時にどうしても痛みを感じます」
この言葉を聞いたバヤイは、恐怖のあまり失神した。しばらくすると、シュガーの所に一人の戦士が現れた。
「君は確かシュウの……」
「ん? あら、カーボンさん」
シュガーの所に現れたのは、カーボンだった。




