追い込まれた刃はどう動く
アロウの部下、ブランズはラックを追い詰めていた。魔力の刃を発してラックを切り裂き、後ろに下がった。攻撃を受ける寸前、ラックは何とか後ろに下がった。致命傷は免れたが、刃の先端はラックの体をかすっていた。
「グッ!」
かすっただけでも、ラックの体には長い切り傷ができた。それを見たブランズは、高笑いをしてこう言った。
「ハーッハッハ! 痛そうな切り傷だな! どれ、俺がもう少し伸ばしてやろう!」
「余計なお世話はしなくて結構!」
ラックは魔力を開放し、風を発した。飛んできた風を見て、ブランズは笑いながら風をかわした。
「そんな風が俺に通用するか。魔力を持ったガキでもこんな風作れるぜぇ?」
「ならこれはどうです?」
ラックがこう言った直後、飛んで行った風は分裂し、刃となってブランズに襲い掛かった。
「へぇ」
分裂した風の刃を見て、ブランズは感心したような顔を見せた。そして、魔力を発していない左手に魔力を発し、刃を作って二刀流の構えをとった。
「応用は一応できるというわけか。だがま、それができるからって、俺を倒せるわけじゃないぜ!」
ブランズは魔力の刃でラックが発した風の刃をかき消し、再びラックに接近した。
「もらった! くたばれェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
ラック目がけて両手の魔力の刃を振り下ろそうとブランズは考えた。しかし、ラックの体を見て動きを止めた。
「何故だ……俺が作った傷がない……」
ラックの体には、あの長い切り傷がなかったのだ。どうしてだと思ったブランズだったが、風の刃を相手にしている隙に、ラックが傷を治したと推理した。
「小賢しい真似を」
「隙を作ったあなたが悪い」
と言って、ラックは素早く居合斬りを放ってブランズを一閃した。斬られる中、ブランズは心の中でこう思った。二度も隙を作ってしまったと。
「グッ……ガァァァァァァッ!」
ラックの居合斬りは、ブランズに深い傷を与えた。流れる血を抑えるためにブランズは手で傷を塞ごうとしたが、多少の隙間が発生して血の流れを止めることはできなかった。
「チクショウ! チックショウ!」
「あなたのような単細胞を長く相手にするのはこちらとしては不利なので、えぐいやり方ですが深く傷を作っておきました。さぁ、早く投降してください。そうすれば、傷の手当ぐらいはしておきますよ」
傷を受けて苦しむブランズを見て、ラックはこう言った。だが、ブランズはこの時のラックをまるで自分を見下しているような表現で聞こえた。
「俺を……見下すな、クソガキ! こうなったら……とっておきを使ってやる!」
ブランズは叫び声を上げながら魔力を開放した。それに合わせ、ブランズの筋肉が肥大化していった。突如肥大化したブランズの筋肉を見て、ラックは動揺を隠せなかった。
「一体……何をするつもりだ!」
「さぁな。ただ、強くなるってことは確かだ!」
動揺するラックに対し、ブランズは言葉を返した。
別の場所で遠くの敵の相手をしているミゼリーとティラは、突如大きな魔力を感じたため、敵から視線をそらしてしまった。
「何あの魔力?」
「分かりません。敵が何かをした……としか、考えられません」
「だね。おっと、油断した。敵はどう動いている?」
ティラにこう言われ、ミゼリーはすぐに敵の方に視線を戻した。敵の方も、突如発生した魔力に驚き、動きを止めていた。
「相手も止まっています」
「相手側からしても予想外の動きだったみたいだね。さて……攻めるよ……と言いたいけど、あの子らはどこ行ったの?」
「え?」
ティラの言葉を聞き、ミゼリーはストブたちがいないと察した。彼女らがどう動くか察したミゼリーは、ため息を吐いた。大体の事情を把握したティラは、少し考えてこう言った。
「ま、シュウとクリムと一緒なら大丈夫か」
アロウはブランズの魔力が急激に上がったのを察し、外に出た。
「ブランズ……いつの間にこんな魔力を……」
「ちょっと改造したのよ」
と言ったポーカーの方を向き、アロウは話を続けた。
「いつの間に」
「あなたを改造したその後。あんたの部下、皆改造したわ」
「それはあいつらが望んだことなのか?」
「ええ」
ポーカーはこう答えながら、アロウを改造した後のことを思い出した。アロウの部下の一部はギルドの戦士を倒すため、さらに力を付けたいと言ってポーカーに改造を望んだのだ。その望みに応えるため、ポーカーはアロウの部下を改造した。
「改造した結果、皆結構強くなったわ。そのおかげでギルドのおバカさんを殺す程度の力を付けたわ」
「そうか」
と言って、アロウは外を見た。しばらく外を見ていたが、数分後にポーカーの方に視線を戻してこう聞いた。
「あいつら、死にはしないだろうな」
「それは本人次第よ。上手に魔力を使えば長生きはできるはずよ。ただ、急激に魔力を高めたりしたら何かが起きるかもしれないわ。今みたいに魔力を上昇させると……ま、これ以上言うのは野暮ということで止めましょう」
ポーカーは無理矢理話を締め、自室に戻った。ギルドの戦士に勝とうが負けようが、最悪な運命が待っている。アロウはブランズのことを思い、悔しそうに舌打ちをして部屋の中に戻った。




