愚か者の末路
クルーガーが注射器を自身に刺した光景は、彼を捕らえに来たシュウ達も目撃していた。
「何だありゃ?」
ティラが注射を打った後のクルーガーを見てこう言った。傍にいるミルチは、震えながら答えた。
「あれは実験用に用意したモンスターの細胞が詰まったエキスです。あなた達が目撃したモンスター化したホームレスは、あれでモンスターになったのです」
「じゃあ……もしかして……」
キャニーがこう言った直後、クルーガーは物凄い叫び声をあげた。それと同時に、彼の筋肉が異様に膨れだし、ついに服を弾き飛ばしてしまった。
「ハァ……ハァ……チカラガ……ワイテクル‼」
「クルーガー様‼ 気をお確かに‼」
「ダマレ‼ ヤクタタズノオンナ‼」
クルーガーは巨大化した左腕で、ミルチに攻撃をした。ミルチは壁に向かって吹き飛んだ後、床に崩れ落ちた。
「こいつ……自分の仲間を」
「もう人じゃないですね」
シュウはクルーガーに向けて銃を撃ち、クリムは雷の魔法でクルーガーの足を止めた。しかし、銃が撃った弾丸はクルーガーに通らず、クリムが放った魔法も力づくで解除された。
「皮膚が固くなってるのか」
「力づくで魔法を解除する人、初めて見ました」
クリムはこう言った直後に襲ってきたクルーガーの攻撃をかわし、風の刃を放った。刃はクルーガーの皮膚を通らず、命中した直後に破裂した。
「風の刃も無駄ですか……」
「シネ‼ コザカシイクソガキガ‼」
クリムの目の前に、クルーガーの巨大な腕が迫っていた。しかし、シュウが撃ったライフル弾がクルーガーに命中した。
「グガッ‼ ガァァァ……」
「ライフル弾位の強さになると、通用するんだな」
「援護は任せなー」
「奴を止めます」
と言って、後ろにいるティラとキャニーはライフル弾を撃ち始め、クルーガーに攻撃していった。
「コザカシイマネヲ‼」
クルーガーはティラとキャニーに向かって突進を仕掛けたが、突如現れた氷の壁に激突した。
「ググ……」
「あなたがどれだけ薬品を使っても、私達には敵いません」
クリムはそう言って、クルーガーに近付いた。その時のクリムの魔力を感じ、シュウは冷や汗をかいていた。クリムは本気でクルーガーを仕留めるつもりなのだと、シュウは察していたからだ。
「あなたのような愚かで外道な人には、少しお灸をすえないといけませんね」
と言って、クリムは火と闇で出来た巨大な塊をクルーガーにぶつけた。それに対し、クルーガーは受け止めようとしたのだが、頑丈な皮膚でも火の強烈な熱さには我慢できなかった。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼ オレノテガァァァァァァァァァァァァ‼」
「私の魔法、あなたみたいな人には止められませんよ」
クリムがこう言った直後、火と闇の塊はクルーガーの体に命中し、爆発を起こした。爆風によって発生した煙が止んだ後、そこには倒れたクルーガーの姿があった。
「まだ体がでかくなったままなんだな」
「モンスターのエキスが体全体に入ってしまったからでしょう……」
クリムはシュウにこう言って、倒れたクルーガーを縛った。キャニーは周囲を見渡し、一息ついた。
「とりあえず、終わりましたね」
その後、シェラールのギルドの戦士達がクルーガーの研究所に入り、中にいる研究者を捕まえ、まだ改造されていない人やモンスターを解放した。しかし、すでにモンスター化した人に対しては何もできない状態だった。
地上に戻ったシュウ達は、クルーガーでの戦いをシェラールの戦士に伝えていた。そんな中、拘束したミルチが目を覚ました。
「……ここは……」
「地上です。あなた達はもうすでに捕まえました」
クリムがこう言った後、ミルチに近付いた。
「モンスター化した人を救う方法はありますか?」
「……あるわけないでしょ。体全体にいきわたったエキスを取り除く方法なんて……」
「本当のことを言ってください‼」
「本当よ。ああなった以上、もう処分するしかないわ」
ミルチが答えた後、クリムはその場でうずくまった。
「クリム……」
心配したシュウが、クリムに近付いた。そんな時、ティラが欠伸をしてこう言った。
「そんな難しく考えるなよ、治療魔法で何とかなんねーのか? モンスターのエキスを取り除く魔法位あるだろ」
「……モンスターのエキスではなく毒を取り除く魔法はあります……可能性はあります。モンスターのエキスを毒と判断させて治癒すれば、治せる可能性はあります」
そう言った後、クリムは急いでモンスター化した人の所へ向かい、治癒魔法をかけた。しばらくすると、モンスターのエキスのせいで異形かした体が、徐々に元の姿に戻って行ったのだ。
「カラダガ……モドッテイク……ああ、周りが見える、はっきりと鮮明に。やった、元に戻ってる‼」
クリムの治癒魔法を受けたモンスター化した人は、無事元に戻った。それを見たクリムは、大声でモンスター化を直すことを周りに伝えた。
数時間後、クリムは疲れ果ててしまったのか、シュウの膝を枕にして眠っていた。
「お疲れさまでした」
シュウの横に、キャニーが座った。
「ああいや、こちらこそ」
「今回の事はいろいろとお世話になりました。おかげでモンスターの異形化や麻薬の問題が解決しました」
「シェラールのギルドの力になれて光栄です」
「私はもうギルドに戻ります。もっと話したいのですが、仕事がありますので」
「大変ですね」
「ええ。では、また会えることを祈ります」
と言って、キャニーは戻って行った。シュウはクリムの頬を触りながら、こう思った。クリムが目覚めたら部屋に戻ろうと。




