大事の背後にいる者
セントラルタワー前での戦闘を、スネックは事細かくタルトに話していた。話をすべて聞いたタルトは怒りで拳を震わせるスネックに対し、冷静にこう言った。
「今回の失態はお前の責任じゃない。私たちの仲間をやったのはあの連中だ」
「いえ、俺の責任です。何が何でもあの連中を見つけ出し、牢屋へぶち込みます」
「落ち着け。怒りで我を忘れるな。我を忘れると、更なる失態に繋がる」
「だけど!」
「冷静になれ、スネック」
静かだが、タルトのこの一言には重みがあった。言葉を聞いたスネックは、タルトも仲間を失ったことに対し、怒りを覚えていると察した。
「分かりました。タルトさん、もし今回の騒動を起こした連中を見つけたら、誰よりも早く俺に情報を回してください」
「それだけは約束できん。お前の性格だ、いの一番に駆け付けて暴れるだろ」
「もちろんです」
「それだけは止めろ。敵の魔力はお前のバリアを貫くほど強い。ここでお前も死んだらどうなるんだ?」
「うっ……分かりました」
スネックはタルトに一礼し、タルトの部屋から去って行った。話を終えたタルトは、異常事態が起こるだろうと予測した。
クリムちゃんを狙うアロウという魔法使いが行方不明なのが気になる。一度、ギルド全体にこの話をしておこう。
そう思い、タルトはシェラールのギルドの責任者の元へ向かい、話をすることにした。
シェラールから離れた廃墟にて。クリムとの戦いで傷を負い、アジトと手下を失ったポーカーはこの廃墟をアジトとしていた。それなりの医療器具は揃えているが、一人で準備したためまともに機能する物はなかった。が、アロウとその部下の協力の下、医療器具と実験用具の支度を終えることができたのだ。
ポーカーは鼻歌を歌いながら実験用具を掃除していた。そんな中、セントラルタワーの前で騒動を起こした集団が現れた。
「ただいま戻りました」
「あらーん、早かったわね。で、どうだった?」
「これをご覧ください」
と言って、集団の一人が携帯電話の画面をポーカーに見せた。そこには、セントラルタワーでの騒動の記事が書かれていた。
「うんうん。派手に目立ってるぅ。やるじゃない、あんたたち」
「いえ、ポーカー殿が我々に協力してくれたおかげです。そのおかげで、圧倒的な力と魔力を得ることに成功しました」
「お礼なんていいのよ。人体実験なんていつものことだし」
「そうですか。それより、アロウ様はまだ眠っているのですか?」
集団は包帯姿で横になっているアロウを見て、ポーカーにこう聞いた。ポーカーは少し考えた後、質問に答えた。
「もう少し……だと思うんだけど、流石に改造しすぎたわねぇ。魔力も体力も上げたんだけど、やっぱりそれに対して体がついて行けないのかしらねぇ」
「でも……アロウ様は……」
「下手したら壊れるかもね。無理矢理強くしたんだから、それ相当の反動を受けるかも。でも、それでもいいって本人が言ってたんだし」
「はぁ……」
ポーカーの言葉を聞き、アロウの部下は何も言い返せなかった。アロウが改造しても強くなりたいと言ったのは事実。それ相当の反動を受けるとポーカーから聞いたが、それでもいいとアロウは答えたのだ。それからすぐにアロウは改造手術を受けたのだが、手術を終えて今日までの時間、アロウは身動きもせず、目を覚まそうともしないのだ。アロウの部下が不安そうにアロウを見ている中、ポーカーはのんびりと紅茶をすすっていた。
セントラルタワーの事件から数日が経過した。バカップルはこの事件のことをタルトから聞き、もしかしたら大きな事件の前触れかもしれないとも話を聞いていた。その話を聞いたクリムはタルトにその可能性が高いと告げた。が、数日経過してもバカップルの周辺は平和だった。
「この平和が長く続けばいいんですがねぇ」
「全くだ」
バカップルは部屋のベッドの上で会話をしながらイチャイチャしていた。しばらくイチャイチャしていたが、クリムは突如大きな魔力を感じた。
「何ですか……この魔力」
「俺も感じた。異様だよ、これ」
バカップルは立ち上がり、窓から外を見た。ジャックやシュガー、ラックも窓から外を見て異様な魔力の主を見つけようとした。その直後、ストブが慌てながらバカップルの部屋に入って来た。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおい! やべーことになってるぞ!」
「やべーこと? この魔力ですか?」
「この魔力のこともそうだけど……まぁそれよりも早くテレビの電源を入れてくれ!」
珍しく慌てるストブのことを気にし、シュウはテレビの言々を入れた。昼間はワイドショーかドラマの再放送を流しているが、今は速報が流れていた。
『只今、シェラールで大規模な破壊テロが行われています! 重傷者、死者、行方不明者ともに不明、シェラールのギルドでも大混乱が続いており、連絡が通じないとのこと! テロ組織の目的は不明……あ! 今速報が入りました、テレビ局のヘリコプターが魔力の塊に命中し……落下して爆発! ああもう、滅茶苦茶じゃねーか! 一体どうなってんだ!』
と、テレビのキャスターは慌ただしさと苛立ちが原因で腹が立ち、原稿を投げ捨ててしまった。シェラールのギルドから連絡が通じない。その言葉を聞き、シュウは急いでタルトに電話をつなげたが、電話はつながらなかった。




