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縮まらぬ差

 アロウはチュエールから去った後、死に物狂いで自己流のトレーニングを行っていた。毎日体中に痛みが走るほどの筋トレを行い、魔力を鍛えるために開放した状態で何時間も行動したり、魔力の元となるカロリーを使用時に消費する量を減らしたりなど、強くなると思った時はその行動を行った。そんな中、クリムがギルドの戦士となったと知り、悪事を行えばいずれクリムと戦えると思ったアロウは、鍛えた魔力を使って意味のないテロ行為、裏ギルドに関する悪事などを行った。その結果、裏の世界で有名となり、部下も多数つくこととなった。


 俺は強くなったと、アロウは自分で自分の強さが増したと思っていた。だが、今のクリムは当時よりも強くなっていた。


「うおおおおおおおおおおおおお! お前を殺す!」


 氷の剣を作り、アロウはクリムに斬りかかろうとした。しかし、クリムはため息を吐いてアロウを見下すような目をしていた。


「全く。全然成長してないですね、あなたは。自分で自分が情けないと思わないのですか?」


「黙れ!」


 効く耳を持たないアロウを見て、クリムはやれやれと思いながらこう言った。


「先輩、一緒に戦ってください。徹底的にあいつの体とプライドをズタズタにしてやりましょう」


「ああ。分かった」


 クリムの後ろにいたシュウが返事をした。それと同時にシュウは持っていたリボルバーをアロウの氷の剣に狙いを定め、発砲した。放たれた弾丸は氷の剣を破壊し、そのまま飛んで行った。


「なっ!」


 氷の破片を浴びながら、アロウは粉々に砕けた氷の剣を見て、絶句していた。それと同時に、クリムが魔力を開放してアロウに接近していた。


「一度反省してください。そして、もう二度と私たちの目の前に現れないでください」


 クリムはそう言って、巨大で強力な風の魔法をアロウに向けて放った。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 アロウは悲鳴を上げながら宙を舞い、そのまま遠くへ吹き飛ばされた。飛んで行ったアロウを見て、部下たちは声を上げながらアロウの方へ向かって行った。


「ふぅ……」


 解放した魔力を抑えつつ、クリムは息を吐いた。少し疲れたのか、クリムはシュウに寄りかさった。


「久しぶりに大きな魔力を開放しました。そのせいか、滅茶苦茶疲れました」


「分かった。少し休めクリム。俺が支えてやる」


「ありがとうございます、先輩」


「いいってことよ」


 そう言って、シュウはクリムを抱きしめた。それからバカップルの独特な雰囲気が場を飲み込んだが、タルトがため息を吐いてこう言った。


「イチャイチャしている中すまないが、吹き飛ばしたあいつは一体どうすればいいんだ?」


「少しやりすぎたのを反省しています。すみません、あのアホを確保してきてください」


「しゃーないねぇ」


 ティラは頭をかきながら返事をし、タルトと共に外へ向かった。




 アロウの部下は吹き飛んだアロウを追い、チュエールの外へ向かった。しばらく探していると、部下の一人がアロウを見つけた。


「アロウ様を見つけたぞ!」


 この声を聞き、部下たちは一斉に声のした方へ向かった。吹き飛んだアロウを見つけて安堵した部下たちだったが、見つけたアロウの姿を見て絶句した。クリムの風の刃を受けたアロウは、見るも無残な姿となっていた。


「ぐ……が……ああ……お……お前……ら……」


 苦しそうにわめくアロウを見て、魔力が使える部下たちは一斉にアロウに回復魔法をかけた。だが、回復魔法をかけても傷は治らなかった。


「アロウ様……傷が……」


「ぐ……クリムの奴……傷が治らないように……力を……」


 アロウは察した。これ以上悪さ、そして復讐ができないようにと考えたクリムが、魔法使いとして再起不能になるように痛めつけたと。更にクリムに対し、怒りと殺意を抱いたアロウだったが、風の魔法によって手足は深く傷つけられ、更には関節部分まで風の刃は達していて、体を動かすことも不可能に近い状態だった。魔力を使おうとするたび、アロウの全身には針で突き刺されたような鋭い痛みが走った。


「グオオオオオオオオ! クリムめ! あのクソ女が! クソ女がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 どうすることもできない自分の身を呪い、アロウは叫んだ。その時だった。


「あらん。こんな所に重傷人が」


 突如、後ろから声がしたのだ。アロウの部下は後ろを振り向きつつ身構えたが、その人物は笑いながら手を振った。


「大丈夫よ。私はあなたたちに対して何もしないわ。ほら、武器も持ってない」


「そのカバンの中身は?」


 その人物の足元のカバンを見て、部下はこう言った。その人物はカバンを開け、その中を見せた。


「医療道具。私は通りすがりの闇医者ポーカー。名前ぐらい知っているでしょ?」


「闇医者ポーカー……だと」


 その名を聞き、アロウと部下はたじろいだ。アロウと部下の態度が一変したのに気付いたポーカーは、笑みを見せてこう言った。


「そんなにシリアスにならないで。あなたたちのこと、知っているわよ」


「だからどうした? 何をするつもりだ?」


 アロウの言葉を聞き、ポーカーは少し間をおいてこう答えた。


「あなたの体を治すわ。これでも医者だからねぇ。でも、条件がある」


「条件?」


「確実に賢者クリムを殺せるように少しだけあなたの体をいじるわ。治す条件はそれだけ」


 ポーカーの言葉を聞き、部下たちは悩んだ。ポーカーの悪行は耳にしている。もし、ポーカーの言葉に答えたら、アロウは改造されてしまう。どうしようか悩んでいると、アロウがこう答えた。


「分かった。クリムを確実に殺せるならお前の条件を飲んでやる」


「アロウ様!」


 アロウの言葉を聞いた部下たちは動揺したが、続けてアロウはこう言った。


「だがこちらからも条件を出す。俺は死にたくはない。俺を死なないように改造しろ」


「了解。それじゃあ今から隠れ家に案内するわね。早くしないとギルドのおバカさんがここに来るわよ」


 と言って、ポーカーは部下たちに向かってウインクをした。その数分後、重傷を負ったアロウを連れ、ポーカーたちは去って行った。


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