憎しみの魔法使い
ネオマギアのアジトにて、団員の魔法使いたちが強い魔力を突如感じ、動揺していた。団員たちが慌てふためく中、赤黒いマントを羽織った男が窓から外を覗いた。
「やっと来たか、クリム」
男の声を聞き、団員の一人が驚いた。
「ま……まさか、賢者クリムがこの地にやって来たんですか?」
「ああ。まぁ情報でクリムの奴がシェラールのエイトガーディアン共と仲がいいって知っているし、チュエールで大事が起きたら奴らはクリムに協力を依頼するだろう。こうなる事を考え、俺は行動を続けていた」
そう言うと、男は団員たちに話を聞けと叫んだ。叫び声を聞いた団員たちは一斉に動揺を止め、男の方を見た。
「今から賢者クリムの討伐を行う! だが、お前たちでは賢者クリムを殺すことはできない。奴を殺すのは俺の役目だ!」
男の声を聞き、団員たちからは驚きの声が上がった。その後、男は話を続けた。
「クリムを殺した後はチュエールを滅ぼす! 俺の力と偉大さを知らない古の老いぼれ共をぶっ殺し、俺が新たな賢者となる! 賢者の称号は賢く、勇ましく、そして強い俺にこそふさわしい! この……アロウ様がだ!」
赤黒いマントの男、アロウは言葉の最後に自分に指を指し、叫んだ。その声を聞いた団員は歓声を上げた。団員のやる気が戻ったのを察したアロウは、にやりと笑った。
「よし行くぞ! まず手始めにシェラールに無差別攻撃を行う。そうすれば奴らは俺たちに注目するだろう! やりたいことやっていいぞ!」
アロウはマントを翻し、アジトの出入り口へ向かった。その後を追うように、団員たちが歩き始めた。
シェラール中心部、クリムたちはアロウやその手下がいないかパトロールをしていた。パトロールの最中、バカップルはいつものようにイチャイチャしなかったため、ナギは珍しそうにこの光景を見ていた。
「珍しいわね、いつもだったらシュウさんとイチャイチャしながらパトロールするのに」
「今回の奴らの狙いは私の命です。それに、戦いの余波でこの町全体に被害が及ぶ可能性が大きいです。先輩とイチャイチャするのは全てが終わってからにします」
「結局イチャイチャするのね。じゃあ、今は私がシュウさんと」
「最初に散りますか?」
と、クリムが黒い笑顔でナギの方を見た。ナギは冗談ですと言いながら、後ろに下がって行った。その時であった。クリムたちは魔力を感じ、一斉に武器を装備し、魔力を開放した。
「奴らが来ます! この魔力の量だと、百人はいると思われます!」
「数が多いが……まぁ大丈夫だな」
「ああ。ラクショーラクショー」
シュウとティラは銃を装備しいつ敵が来てもいいように反撃の支度をした。ハヤテは両手に剣を握り、タルトにこう言った。
「どこから来るんですかね?」
「分からん。奴らが正々堂々と真正面から来るはずがない。きっと予測しない変な所から現れるだろう」
タルトがこう言葉を返したと同じタイミングで、黒いマントの集団が上空から現れた。すでに魔力を開放していたのか、集団はクリムたちに向けて火や雷の魔力を発した。
「そんな魔力で私は倒れませんよ」
クリムは風の魔力を発し、飛んで来た敵の魔力を消滅させ、敵を吹き飛ばした。吹き飛ばされた敵は何とか着地したのだが、その隙を狙ってシュウとティラの弾丸が敵を襲った。
「悪いが敵には容赦しない」
「自業自得だ。悪いことすんなよ」
ティラはこう言った後、銃を後ろに構えて奇襲しようとしてきた敵を攻撃した。その時、別方向から火の玉が飛んで来た。
「俺に任せろ!」
ハヤテは飛んで来た火の玉目がけて剣を振り、一閃した。斬られた火の玉は消滅したのだが、その後に続くかのように水や雷、風が飛んで来た。飛んで来るそれらも斬って対処していたハヤテだったが、数が多すぎるせいで苦戦していた。
「クッソー! どんだけ敵がいるんだよ!」
「ハヤテ、私に任せろ!」
と、タルトがハヤテの前に出て、刃に魔力を込めた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そして、勢いよく剣を振り下ろし、衝撃波を発した。衝撃波は地面を走り、遠くにいる敵に命中した。
「やっぱりスゲーなタルトさん」
「流石父さん」
「少しは男らしい所を見せないとな」
タルトは剣を構えなおしながらハヤテとシュウにこう言った。その時、上空から強い魔力を感じた。
「やはり団員たちでは歯が立たなかったか」
上空から声が聞こえた。この声を聞いたクリムはげんなりとした表情を作り、大声でこう言った。
「当たり前ですよ。私の強さを把握してなかったんですか?」
「してるさ。とりあえず今のお前の強さを見たかっただけだ」
その後、声の主が上空から降りてきた。地面に着地した瞬間、クリムは大きな雷を声の主に向けて放った。
「うわー、容赦ない一発」
無情なクリムの攻撃を見て、ナギは呟いた。その呟きを聞いていたクリムはため息を吐きながら、ナギにこう言った。
「いえ、まだ奴は生きてますよ」
「えええ? あんなドでかい一発喰らって生きてるの?」
「当たり前だ。勝手に人を殺すな小娘」
晴れて行く砂煙の中から、両手を上げてバリアを発している男の姿が見えた。その姿を見て、クリムはため息を吐いた。
「少しはやるようになったんですね。アロウ」
「当たり前だ。お前を殺すため、鍛えたんだからな」
アロウはそう言って、両手を下ろした。




