クリムVSポーカー
病院で待機しているシュウは廊下が騒がしいのを察し、様子を見た。それと同じタイミングで、ジャックとシュガーを乗せた担架がシュウの前を通った。
「ジャック先輩! シュガー!」
シュウが声をかけた時、近くにいた医者が話しかけた。
「悪い奴に捕まっていたみたいだよ。賢者クリムが助けたんだって。自力で病院に来たんだけど、入口で気を失ったみたいでね」
「そうですか……命はどうですか? 助かりますか?」
真剣な表情で質問をするシュウを見て、医者はすぐに答えた。
「大丈夫だよ。怪我は酷いけど、命に別状はないよ」
「よかった……」
ポーカーに捕まっていた二人が無事だった。そのことを知ったシュウは安堵の息を吐いた。あとはポーカーのみ。クリムがポーカーに負けるはずがない。シュウはそう思い、クリムが早く帰って来ることを願った。
クリムは風の魔力を発し、ポーカーに向けて放った。
「あらやだ。そんなもん使ったら私の部屋がズタズタになっちゃうじゃないの」
暴れまわる風を見て、ポーカーは嫌そうにこう言った。だが、その言葉を無視し、クリムは風を発し続けた。
「もう、人の言うことを聞かないお子ちゃまねぇ」
ポーカーはそう言った後、魔力で火球を作り、クリムに向けて放った。飛んで来た火球を見て、クリムは驚きながらも急いで攻撃をかわした。
「闇医者のくせに、魔力は使えるんですね」
「あなたほどではないわ。それなりに使えるわよ」
と言って、ポーカーは雷の魔力を発した。次々と襲ってくる雷をかわしつつ、クリムは魔力を少し開放して闇の剣を作り出し、ポーカーに向けて放った。
「わお。当たったらやばい奴」
飛んで来る闇の剣を見たポーカーは、笑みを浮かべながら上半身を反らして闇の剣をかわした。その直後、上空に飛んでいたクリムが上半身を反らした状態のポーカーに接近し、両手に火の魔力を作り出し、爆発させた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
爆発に巻き込まれたポーカーは悲鳴を上げながら地面を転げまわり、壁にぶつかった。床に着地したクリムは倒れたポーカーに接近し、動きを封じようと考えた。しかし、ポーカーは横になったまま体を回転させ、クリムに向けて満面の笑みを見せていた。
「ざーんねん。今の悲鳴は演技なのよねー」
その時のポーカーは、懐に隠し持っていた銃を装備していて、クリムに向けて銃口を向けていた。
撃たれる。
クリムがそう思った直後、銃声が響いた。クリムは反射的に体を動かしたが、ポーカーによって放たれた弾丸がクリムの頬をかすった。
「あらら、その可愛いお顔に風穴を開けようとしたのに、大失敗」
「残念ですね、ざまあみろです」
クリムは頬から流れる血をぬぐった後、魔力を開放した。
「これ以上あなたのようなクソ野郎の相手はしたくありません。すぐに捕まえるので大人しくしていてください」
「大人しくするわけないじゃない。バカなの?」
「バカというのはあなたみたいな犯罪者のことですよ」
クリムの言葉を聞き、ポーカーは高らかに笑いだした。
「犯罪者? 私は究極の人間を作る……いわば至高の発明家よ。そのために医学を独学で学び、極めたわ」
「独学で学んだんですか。教科書とか使わなかったんですね」
「あんなもん使うわけないじゃない。あんな頭脳明晰のふりをしている何も分かっちゃいない大間抜けなバカの学者の作った本なんて。あんな本を作った奴が書いたことを信頼するより、私は実際に人体をいじってその目で見たことや感じたことを信頼しているわ」
ポーカーはそう言うと、再び銃の引き金を引いた。だが、会話中に発砲するだろうと考えていたクリムは銃弾をかわし、こう言った。
「あなたがどういった理由でこんなことを起こしたのかは捕まえた後で聞きます。そしてもう一つ、これだけは言っておきます。究極の人間は作れません。そして、あなたは至高の発明家ではありません、ただの思考が狂った犯罪者です」
「何と言われても私は気にしないわ。ただ私は、自分の考えで人類が進化するのを見たいだけ!」
「地位と名誉が欲しいのですか?」
「まーね! 私がいれば! 人類は次のステップに行けるわ!」
「そのためにいくつも犠牲を出していいと? 邪魔をする人を始末していいと思っているのですね」
「その通り! 私の計画が成功すれば、シュウ君の右腕の傷を治せるわよ。どう? あなたにとっても悪い話じゃないわよ」
この言葉を聞いた直後、クリムは動揺した。だが、ポーカーの研究の被害によって命を落とした人もいる。そのことを思い出したクリムはシュウから受け取ったリボルバーを手にし、ポーカーに銃口を向けた。
「あら、あなたも銃を使うのね」
「黙りなさい! 先輩が……先輩があなたの研究で右腕が治ると知っても、絶対にその言葉には乗りません! 先輩ならきっとこう言います、多数の犠牲を払っても右腕は治さないって!」
クリムの叫びを聞いた後、ポーカーは笑いながら銃を手にした。
「そんなのあなたの憶測じゃない! あなたはシュウ君じゃない! シュウ君じゃないのにそんなことを言うんじゃねーぞクソガキがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
二人は叫び声を上げながら、同時に銃の引き金を引いた。




