怒りの賢者
翌朝、クリムは病院の電話で昨晩の出来事を伝えていた。電話先のギルドのスタッフは慌てていたが、クリムは冷静な口調でこう言った。
「こんな状況になってしまったのはこちらのミスです。賢者と言われていますが、私もミスをします。言い訳を言っているわけではないのですが……ですが、一つのミスでこれだけ出来事が大きくなったこと、先輩を大怪我させてしまったこと、そして……ジャックさんとシュガーさんが捕まってしまったこと。状況としては最悪ですが、私がこの状況を打破します」
『クリムさん、一人では危険です。援軍として他の戦士を……』
「大丈夫です。本気を出せばあいつらの組織を壊滅することは可能です。それに……今回のことは私自身非常に腹が立っています。ポーカーという野郎は……私が倒します」
と言って、クリムは電話を切った。話を聞いていた看護婦は驚きながら、クリムに近付いた。
「クリムさん。あなたはまだ退院できませんよ。怪我をちゃんと直してからでも」
「魔力で何とかします」
そう言うと、クリムは魔力を開放して怪我を治した。その後、クリムは病室に戻って杖や薬の用意をしていた。そんな中、ベッドの上のシュウが声をかけてきた。
「クリム、一人で奴らの所へ行くのか?」
「はい。あいつらは私が潰します」
「そうか。行くなって言っても、聞かないな」
シュウは棚の上に腕を伸ばし、置いてあったリボルバーを手に取り、クリムに渡した。
「これは先輩のリボルバーではありませんか。どうしてそれを私に?」
「お守りの代わりだ。クリム、俺の分まで暴れてくれ。そして、ジャック先輩とシュガーを助けてくれ」
シュウの声を聞いた後、クリムは受け取ったリボルバーを握り、答えた。
「はい。必ず皆さんと一緒に戻ってきます」
準備を終えてすぐにクリムはポーカーのアジトへ向かった。情報はないのだが、ポーカーの手によって改造された人と戦った場所へ向かい、周囲を見渡した。
この辺りで戦闘になったのだから、奴らのアジトはここからの範囲にある。
そう思ったクリムは目を閉じ、魔力の探知を始めた。目を閉じて集中したおかげで、周囲の魔力の他に、人の気配を感じることができた。その結果、クリムは町から外れた所に人の気配を探知した。怪しいと思い、すぐに移動を開始して数分後、クリムの目の前に怪しく動く人のグループが遮るように現れた。
「誰ですかあなたたちは? 私は急いでいるんです。ナンパなら別の人に声をかけてください」
と言ったが、グループは返事をせず、ただ怪しく動いていた。何かあると思ったクリムはグループの一人に近付いた。その瞬間、クリムに向かって手を伸ばしてきた。
「やっぱりポーカーに関わった人たちですね!」
このグループは敵だ。そう察したクリムは攻撃を避けつつ、周辺を見渡した。すると、白衣を着た怪しい男が柱の裏にいることに気付いた。クリムは攻撃を避けながらそこへ移動し、白衣の男に声をかけた。
「すみませーん。あなた一体何者なんですか?」
「グッ! ばれちまったか!」
白衣の男はグループに向かってクリムを襲えと叫んだ。その声を聞いたグループはクリムの方を向き、走り出した。この男がグループを操る主だと察したクリムは、光の輪を発して男を拘束した。
「さーてと、あなたがどういう人間で、どうして私を襲おうとしたのか教えてください」
「黙秘する」
「これを見て黙秘と言えますかねー」
と言って、クリムはリボルバーをちらりと見せた。それを見た男は冷や汗をかきながら叫んだ。
「脅しだ! ギルドのバカの脅しに屈するものか!」
「それじゃあ撃ちますよ。あーそうだ、私は銃を使ったことがないので、変な場所に弾が当たっても恨まないでくださいね」
「ぐ……賢者め……」
「おっと、睨まないでください。何もしないでください。あなたのアジトを教えれば、何もしませんよ」
「そんなことをしたらポーカー様に殺され……あ……」
男はついうっかりポーカーの名前を出してしまった。クリムはにやりと笑い、男が操るグループを水の魔法を凍らせて足止めし、男の方を見てこう言った。
「さ、アジトに案内してください。死にたくなければあなたは入り口付近で立っててください」
ポーカーのアジトにて、拷問室に入れられているジャックとシュガーは、長時間続くリンチでボロボロになっていた。ポーカーの手下は暴行の疲れで休んでいるため、部屋にはいなかった。ジャックはシュガーの方を見ながら、声をかけた。
「シュガー……生きているか?」
「殺さないでくださいよ……生きていますよ」
「そうか……悪い……こんなことに巻き込んで……」
「いずれ……捕まって酷いことをされるだろうと思っていました。いい気分ではないですね」
「当たり前だ。く……シュウとクリムが助けに来てくれればいいが……」
「来ますよ。現に今、上からクリムの魔力を感じます」
シュガーの言葉を聞き、ジャックはにやりと笑った。
「へへ……じゃあそろそろこの地獄からもおさらばってところか」
「ですね……それよりも……私は女の子に対して手を出すクソ野郎共を地獄に突き落としたくてたまりません……エッチな目に合わなくてすみましたが……顔や体を殴られ……あのクソ共、地獄の底まで突き落としてやる」
シュガーの怨念を聞き、ジャックは冷や汗を流した。




