真夜中の来訪者
バカップルは改造人間の自爆により、救急車で病院に運ばれてしまった。クリムは病院へ向かう最中の救急車の中で意識を取り戻し、周囲を見回してここが救急車の中であると判断した。
「あの……先輩は……」
クリムが意識を取り戻したことに気付いた医者は、驚きと歓喜が入り混じった声を上げた。そのすぐに我に戻り、クリムの質問に答えた。
「シュウさんは隣にいます。ですが、クリムさんよりも傷が深いせいか、まだ意識は戻っていません」
この答えを聞き、クリムは思い出した。爆発する寸前、シュウが自分を庇ったと。
「先輩……」
クリムは隣で治療を受けているシュウを見て、悔しい気持ちになった。ポーカーのせいで関係ない命が奪われ、関係ない人たちが大きな傷を負い、そして愛するシュウを傷つけられたと。
数分後、バカップルは治療を受けた。クリムが予想していたよりも傷は浅く、三日ほどで退院できると知った。しかし、クリムは不安だった。病院側からジャックとシュガーにバカップルが入院したと連絡をしたが、返事はなかったからだ。クリムはもしかしたらポーカー一派に捕まったのではと思った。だが、今の状況大人しくするしか選択肢はない。怪我を負い、シュウがまだ意識を取り戻していない以上、動くことは不可能であるとクリムは判断した。
病室に到着した後、クリムは先生に声をかけた。
「すみません、ハリアの村のギルドに連絡をしたいのですが……」
「電話ですか? 患者用の電話が二階にあります」
「分かりました。ありがとうございます」
礼の言葉を言った後、クリムはすぐに電話をしに向かおうとした。だが、改造人間の自爆騒動で病院内は人まみれで、とても電話ができる状況ではなかった。クリムは仕方ないと思い、混み具合が収まってから連絡しようと考えた。
その日の夜、シュウは目を覚ました。
「あれ……ここ……」
薄暗い病室を見回し、ここが病院であるとシュウは察しした。
「あの爆発で……グッ……」
首を動かしただけで、シュウの全身に痛みが走った。まだ傷は治っていない。そう思いつつ、シュウはため息を吐いた。そんな中、遠くからガラスが割れる音が聞こえた。そして、廊下を歩く足音が聞こえ始めた。誰か来る。そう思ったシュウは銃を手にしようとしたが、腕に強烈な痛みが走り、動かすことはできなかった。そうしているうちに、バカップルが入院している部屋の扉が開き、そこからポーカーが入って来た。
「うふふ。久しぶりね、シュウ君」
ポーカーはシュウを見つけると、笑いながら歩いてきた。シュウは舌打ちをし、こう言った。
「何の用だクソ野郎。ここで俺を殺すのか?」
「殺すわけないでしょ。私は君を気に入っているの。推しの人間を殺す間抜けはいないわよ」
「テメーみたいな奴に推しとか言われたくねーな」
ポーカーはシュウの言葉を聞いた後、シュウの近くに座った。
「座るな気持ち悪い」
「そんなこと言わないで。あなたを治そうと思ってここに来たのに」
「ざけんな。お前みたいな闇の人間の手で治してもらいたくねーな」
「無料よ」
「そんな言葉でだまされるか。帰れ」
「ああもう、冷たいわね。まぁいいわ。結局は、私とあなたはまた会う運命にあるんだから」
「そんな運命拒絶したいな。お前みたいな奴はもう片目撃ち抜いて刑務所にぶち込んでやる」
「フフッ、そういうところも好きよ。それよりも……あなたの彼女、怖いわねぇ」
ポーカーはそう言って、後ろにいるクリムを見た。クリムは右腕を前に突き出し、右の手の平から風の魔力の塊を作り出していた。
「いつ気付いたのぉ?」
「最初からですよ。ガラスを突き破って侵入なんて、やることが派手なんじゃないんですか?」
「意外とそういうやり方の方がばれないのよ。現に、あなたたち以外の人間は私の存在に気付いていない。ふふっ」
「喋らないでください。先輩に手を出したら、二度と喋れなくしてやります」
「あらまぁ、賢者様は怖いわねぇ」
と言って、ポーカーは立ち上がって両手を上げ、扉の方へ向かった。
「今日は帰るわ。でもその前に、一つだけ伝えたいわ」
「伝えたいこと?」
クリムがこう聞くと、ポーカーはもう一度笑ってこう言った。
「あなたの仲間、私たちが拉致ったわ。改造はしないけど、痛い目に合ってるわよ~。うふふ。私の仲間もギルドのバカ共にいろいろとされたから、今頃滅茶苦茶になってるんじゃないかしら?」
この言葉を聞き、クリムは切れた。作り出していた風の塊をポーカーに向かって放ち、攻撃を仕掛けた。だが、ポーカーは魔力のバリアを作り、クリムの風をかき消した。
「あらまぁ。賢者様でも怪我を負っていたら弱くなっちゃうのね。オホホホホ。それじゃ、退院してから私たちを探しに来なさいな」
そう言葉を残し、ポーカーは去って行った。
「待ちなさい!」
クリムはベッドから立ち上がろうとしたが、その前に騒動に気付いた医者や警備員が騒ぎ始めた。クリムは悔しそうに枕を殴り、叫び声を上げた。シュウは深手を負った自身を呪い、クソッたれと叫んだ。




