神速の足を持つ男
蜘蛛使いの男、ダイラを倒したクリム一行は、ダイラの部屋を抜けて次の部屋へ向かった。
「うう~、また蜘蛛とか出てくるんじゃないでしょうね……」
「同じ技を使う敵は一度出たら出ないと思いますよ」
クリムは苦手な蜘蛛と遭遇した成瀬を慰めていた。前を歩いている剣地は、何かの音を聞いてシュウの方を振り返った。
「何か聞こえたよな」
「ああ。だけど一体何の音か分からない」
「敵の可能性がでかいな。一発ぶっ放しとくか?」
剣地は銃を取り出したが、シュウが剣地を止めた。
「敵が分からない今、無駄に弾丸を使ったり魔力を使うのは止めよう」
「いいのか? 先手を打てば戦いが楽になる」
「それもそうだが、敵の正体や戦法が分からない状況なら、様子見でわざと敵を動かすってこともできるぜ」
「敵の動きを見て戦い方を学ぶってか。それもそうだな」
剣地がこう言った直後、目の前の扉が急に開いた。クリムは開いた扉を見て、にやりと笑った。
「どうやら敵は私たちが来たのを察知して扉を開けたようですね」
「私たちを相手にして勝つつもりなのかなー? 舐められてる?」
「そのようじゃの。全く、呆れたもんじゃ」
ヴィルソルがため息を吐いて呆れた様子を見せた。その時、シュガーとヴァリエーレが前に出た。
「今度は私たちがやるわ」
「どんな相手か楽しみだねー」
その言葉を聞き、剣地はシュガーを止めようとした。ヴァリエーレの戦力はいつも一緒に戦って来た剣地は察知しているが、一応ヒーラーだが、恐ろしい化学薬品を使うシュガーの戦力は少し不安なのだ。剣地は心の中で、シュガーが本アジト攻略に入って大丈夫なのかと思っていた。だが、剣地の不安をよそに二人は前へ向かって行った。
「あのちょっと、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、後ろにいて~」
と、シュガーはウインクをして剣地の不安をほぐそうとした。だが、それでも剣地の不安はほぐせなかった。
扉を抜けると、そこはスケボーの競技で使われるようなジャンプ台などがいくつかおかれていた。
「何だこの部屋? スケボーを使って戦う敵がいるのか?」
シュウがこう言うと、走るような足音が聞こえ、シュウは反射的に拳銃を抜いた。だが、何かがシュウに向かって飛んで来た。
「あぶねッ!」
「先輩!」
シュウを守るため、クリムと剣地が魔力を使って飛んで来た何かを吹き飛ばした。地面に刺さったそれを手にした成瀬は、それをシュウに見せた。
「ガラスの破片。こんなものが物凄い勢いで飛んで来たら深い傷を負ってたわ」
「そんなもんまで武器にするのか……」
「それが俺のやり方だからね」
聞いたことのない声が聞こえた。その直後、クリムたちから少し離れた場所に半袖半ズボンの青年が現れた。上半身はあまり筋肉が付いていなかったが、下半身の方はかなり鍛えているためか、筋肉がかなりついていた。
「うわぁ……上半身と下半身のバランスが酷い……」
「もう少しうまく鍛えていればいい体になっていたのに」
青年のアンバランスな体を見て、思わずリナサとティーアは呟いた。
「ふっ、俺は俺流のトレーニングをしただけだ。そこの長耳のお嬢さんも俺を見て嫌そうにしているが……」
「また相手が男かよ。女だったらセクハラできたのに」
ルハラの答えを聞き、青年はバランスを崩した。しかし、すぐに本調子に戻り、自慢げに笑いながらこう言った。
「俺の名前はピード。滅びを望む者の中で神速と言われている。俺の武器はこの足だ」
「そう。それじゃあ見せてくれないかしら?」
魔道武器を持ったヴァリエーレがこう言った。その言葉を聞いたピードはにやりと笑い、クラウチングスタートのような構えをとった。
「じゃあお望み通り見せてあげるよ!」
その直後、ピードは走り出した。そのスピードは、目にも見えないほどの早さだった。
ヴァリエーレ:滅びを望む者の本アジト
神速と言われているピードと言う男だが、神速と言われている通り走るスピードはとんでもなく早い。魔力を感じていないため、かなり鍛錬をして手にしたスピードだと私は推理した。
「ハーッハッハ! これでも俺に勝てるというのか!」
「ま、やってみないと分からないわ」
私はそう答えると、魔道武器を構えた。相手の戦法は素早く走って相手を惑わせ、ガラス片などの尖った、鋭い武器を投げるか、蹴り飛ばして相手に攻撃する。この状況で分かるのはこの程度だ。相手はまだ魔力を使っていない。どの属性の魔力なのか、どんな使い方をするのかまだ分からない。ピードはまだ手を隠している。
「そうれ、行くぞ!」
私に向かって何かが飛んで来た。さっきシュウを襲ったと同じガラス片だ。私はガラス片の軌道を読み、隙の無い動きで回避した。
「ヴァリエーレさん、援護しますか?」
入口にいるシュウが銃を持ってこう言った。ケンジも援護をしてくれるのかしら、銃を構えている。だけど……。
「大丈夫よ。私もまだ本気出してないから」
「そうですか……」
「いざとなったら援護に入りますんで」
「ええ。でも魔力と弾丸は残しておいて。この敵は私とシュガーで倒せるレベルよ」
二人を安心させるため、私はこう言った。この言葉を挑発として聞こえたのか、ピードは私に向かって無数のガラス片や刃のような物を一斉に投げた。




