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勇者と魔王と先走り野郎の大暴れ

「分かりました。クリムお姉ちゃんとシュウお兄ちゃん、そしてヴァリエーレさんにお疲れ様と伝えてください。私たちもアジトを見つけ、壊滅し次第タルトさんの元へ戻ります」


 滅びを望む者のアジト探索中、リナサは携帯でタルトと連絡を取っていた。電話が終わり、シュガーとスネックはリナサに近付いた。


「クリムちゃんたちの方は仕事終わったんだね」


「うん。さっきアジトのリーダーらしき人を連れて戻って来たって」


「流石バカップル。動きが速いな。俺たちも負けてられねーな」


「速さを競ってるわけじゃないんですよ、今は」


「確かにな」


 シュガーに言われ、スネックは小さく笑った。だが、そんな中でスネックはある不安があった。ハヤテのことである。スネックから見たらハヤテと共に行動しているティーアとヴィルソルはまだ子供である。子供同士で行動するのであれば、きっと常識外れのことが起こるだろうと考えていたのだ。


「何もなければいいんだけど」


 騒動が起こらないようにと祈りつつ、スネックは呟いた。




ティーア:滅びを望む者のアジト前


 さて、やっと滅びを望む者のアジトに到着した。見張りはいないけど、離れた所に町があるためか、なるべく人の目に映らないようにアジトを選んでるのであろう。だとしたら、こんなボロボロで今にも崩れそうな建物をアジトに選ばない。何かお化けが出そう。


「ここがお前のアジトか」


「はい、そうです」


 私たちがボコボコにした滅びを望む者の男は、涙声でこう言った。ハヤテは右手に長い剣、左手に少し短い剣を持ってすでにやる気をアピールしていた。


「うーっし! 行くぞ!」


 そう言って一人先にアジトへ向かってしまった。その様子を見ていた私と魔王はため息を吐きつつ、顔を見合わせた。


「こうなったら仕方ないの」


「だね。ちゃちゃっとやっちゃうか」


「うむ」


 その後、私と魔王はハヤテの後を追ってアジトに向かった。


 アジトの中に入ると、すぐにハヤテによって吹き飛ばされた滅びを望む者の団員らしき姿が見えた。前を見ると、ハヤテは両手の剣を振り回しつつ、団員と戦っている。私やケンジ、ヴァリエーレのようにソードマスターのスキルを持っていない……というか、この世界にスキルというのはないようだ。ハヤテは適当に剣を振り回しているだけではなく、左手の剣で敵の攻撃を流しつつ、右手の剣で反撃を行うという、二刀流の基本的な戦術を行っていた。敵に隙があれば、二本の剣を利用して防御の隙がないように攻撃を行う。ふむ、子供っぽいから戦いの経験があまりないと思っていたが、かなりやるようだ。


「また二人来たぞ!」


「女か。これなら勝てるぜ!」


 おや、どうやら私と魔王を見て勝てると判断し、襲ってくる奴がいるようだ。


「哀れだな。見た目で判断して勝てると思って襲ってくるとは……」


 魔王がこう言った直後、二人の男が武器を構えて襲って来た。だけど動きが遅い。遅すぎる。私は魔力で防御し、ヴィルソルは体を反らして攻撃を回避した。


「グッ! ちょこまかと!」


 一人の男は魔王に向かって何度も武器を振り下ろしていた。だけど、魔王と比べて力も魔力も差がありすぎる。そんなんで魔王を倒すことは不可能なのに。


「たわけ者。己と相手の力量を見極めぬ奴が我を倒せると思うな」


 魔王はそう言った後、手刀で相手の腹を突き刺した。死にはしないけど、強烈な手刀だ。相手は小さくうめき声を上げ、その場に崩れるように倒れた。


「な……何だこのガキは……」


「我か? 我は魔王だ。そんでもって、お前が相手をしているのは勇者じゃ」


 私の相手は私の顔を見た後、ギョッと驚くような表情をした。勇者と戦ってたとしても、そんなに驚くことなのかな?


「勇者……バカじゃねーの? ゲームかアニメじゃあるまいし!」


「うーん……元いた世界では勇者って言われてたけど……まぁいいか」


 私はそう言って、飛び膝蹴りで目の前の男の顔面を攻撃した。男は声を上げることすらせず、その場に倒れた。


「いっちょ上がり」


「さて、ハヤテの方はどうだ?」


 私と魔王はハヤテの方を見ると、相手の数が多くて少し苦戦しているようだ。


「うおおおおおおおおおおお! なかなか数が減らねー、多すぎねーかちょっと!」


 戦いの中、ハヤテは敵の数が多いと文句を言っていたが、呼吸は乱れもせず、戦い方もさっきと変わらなかった。もし、疲れているのであれば動きが鈍くなり、隙も油断もできる。だけど、今のハヤテはさっきと変わらない動きをしていた。まだ体力があるという証拠だ。


「さて、ハヤテの援護にでも行くかの」


「そうだね」


 私と魔王はハヤテの方へ行き、目の前の敵をぶっ飛ばした。


「なっ! 援護に来やがったか!」


「気を付けろ、この二人滅茶苦茶強いぞ!」


「オイオイオイオイオイ、化け物が三人って俺たち勝てるのか?」


 私たちが加勢したのを見て、敵はかなり動揺しているようだ。ハヤテは私たちに近付き、息を吐いてこう言った。


「俺一人でもやれると思ったが……難しかった。悪いな」


「なーに、今は共に戦う仲間じゃん」


「一人で多勢を相手にするのは難しい。我らを頼れ」


 私と魔王はハヤテに言葉を返した。そんな中、私たちを見ている一つの影があることを私は知った。


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