アジトでの戦いが始まる
ティーア:ケブルの村の隣村の一角
私と魔王、ハヤテはケブルの村の隣村で滅びを望む者の情報を集めていた。怪しい連中がどこかにいないかと尋ねながら情報を集めていたが、なかなか奴らに関わる情報は集まらなかった。やっぱり犯罪に関わる連中はあんまり表に出ないか。そう思っていると、魔王が声をかけた。
「後ろを見ろ、勇者」
「どしたのー?」
魔王の言われた通りに後ろを振り向くと、一見地味な男が少し離れた所で私たちの様子を伺っていた。魔力を探知すると、奴が微かに魔力を開放していることが分かった。
「変なのがいるね」
「ここで一戦交えるのはまずい。一度、人がいない所へ行こう」
「うん」
その後、私と魔王は先に歩いているハヤテの元へ向かい、声をかけた。
「一度離れるよ」
「あん? どうしてだよ?」
「分からんか? 魔力を微かに開放している奴らが我らを追っている」
「マジかよ。どうして後を追ってるんだ?」
「それは奴を倒してから聞きだす。今は広い場所へ行くのを専念するんじゃ」
「ああ」
ハヤテもこの状況を理解し、急いで村から出ようとした。途中で振り向くと、後ろにいる奴が速足でこちらを追っていることが分かった。ヴァリエーレとシュウとクリム、リナサとシュガーとスネックもこんな奴らと戦うのかな? ヴァリエーレの方は何とかなると思うけど、後の一組は……敵に対して手加減しなさそうだな。
バカップルとヴァリエーレは倒した滅びを望む者の団員に案内させ、隠しアジトに到着した。
「ほう。ここがあなたのアジトなんですね?」
「ああ……でも、もういいだろ? 俺がここに案内したことがばれたら、処分されちまうよ」
「処分?」
シュウがこう尋ねたと同時だった。ドアから雷のような手がドアの窓を突き破って現れ、団員の胸を貫いた。一瞬のことだったので、バカップルもヴァリエーレも動きが取れなかった。
「ガアッ……」
「しまった!」
シュウは急いで団員の様子を調べたが、しばらくして無念そうに首を横に振った。
「まーったく。ギルドの連中をここに案内するなんてなんてことを考えるおバカちゃんなのでしょうねぇ?」
扉の奥から現れたのは、胸元が大きく開いた派手なドレスを着た五十代くらいの女性だった。シュウは素早く左手に銃を持ち、女性に向けて発砲した。だが、女性は電撃を使ってシュウの弾丸から身を守り、大きく笑った。
「話に聞いた通り、腕のいいガンナーね。でーもー、私の魔力の方がう、え、よ」
「黙ってろババア!」
シュウはリボルバーを手にし、女性に向けて発砲した。女性はシュウの攻撃をかわそうと体を左にずらした。だが、目の前にはクリムが放った炎があった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
炎をかわし切れなかった女性は、そのまま炎に包まれてしまった。この一連の動作を見て、ヴァリエーレはあることを理解した。先ほどのシュウのリボルバーの狙撃は囮、シュウは女性がこの攻撃をかわすだろうと考え、わざとかわしやすい位置に発砲した。本命の攻撃はクリムの炎。女性が攻撃をかわす動作を予測し、その位置に炎を発したのだと。
「熱い! 熱いわよおおおおおおお!」
「まずい! スルミン様が丸焦げになる!」
「水を持ってこい! 早く! 早く!」
「バケツはどこだ?」
「あったよバケツが……底が開いてる!」
「その近くに新品のバケツがあったはずだ! いいから早く持ってこい!」
アジトの中にいた団員が、急いで炎に包まれているスルミンを助けようとしたのだが、リボルバーを手にしたシュウが、水が入ったバケツを撃ち抜いた。
「あああああああああああああ! せっかく入れたのに!」
「おいおい、これじゃあもう助からないぜ」
「俺にーげよっと」
スルミンはもう助からないと察した団員は、諦めて逃げようとした。しかし、炎に焼かれながらもスルミンは魔力を衝撃波のように使い、自らを包んでいる炎を弾き飛ばした。そして、逃げようとした団員に電撃を浴びせた。
「この薄情者が! 上司が焼かれてるのに逃げようとするんじゃないわよ!」
「う……うわああああああああああああああああ!」
団員はスルミンの顔を見て、悲鳴を上げて逃げて行った。どうして逃げるのだと思ったスルミンは、近くにある鏡を見て己の顔を確認した。スルミンの顔は厚化粧が溶け、化け物のような顔になっていた。
「いやあああああああああああああ! 化け物! いや、これ私じゃん!」
「ノリツッコミはこれで終わりですか?」
背後にいたクリムが、棒を持って襲い掛かってきた。スルミンは電撃を剣状にし、クリムの攻撃を防御した。だが、クリムは棒を振り上げ、スルミンの足から腰にかけて攻撃を当てた。その時にクリムの棒はスルミンのすねに当たり、激痛が走った。炎の攻撃で肌が焼け、それで痛みが倍増しているのだとスルミンは察した。
「グッ!」
「今です、ヴァリエーレさん!」
スルミンが痛みで動けない隙に、ヴァリエーレは魔道武器を構えてスルミンに攻撃を仕掛けた。だが、スルミンは魔力をバリアに変換させてヴァリエーレの攻撃を耐えた。
「なかなかやる……」
ヴァリエーレは攻撃を止め、反撃を受けないように後ろに下がった。スルミンは魔力のバリアを止め、ヴァリエーレに攻撃を仕掛けようとした。しかし、後ろにいたシュウがスルミンの左足に向け、リボルバーを発砲した。




