暗殺者の影
シェラールの中心街。バカップルはそこでデートをしていた。久しぶりの休日で、二人はタルトに挨拶を兼ねてシェラールでデートをしようと計画を練っていた。タルト、そしてエイトガーディアンたちやシェラールのギルドに挨拶をした後、二人はデートを始めたのだが。
「見てー。あの有名なバカップルよ!」
「本物だ! 本物がいるぞ!」
「噂通りどこでもイチャイチャしてるな」
街を歩いていた人々はバカップルの存在に気付き、ざわつき、集まり始めたのだ。クリムは周囲に集まった人を見て、笑顔でこう言った。
「すみません。今はプライベートですので……写真は勘弁してもらいませんか? それと、その写真をSNSとかに投稿するのも止めてくださいね」
クリムの話を聞き、写真を撮っていた人は攻撃されるだろうと思い、写真を止めた。その後、バカップルは再び歩き始めた。
「有名になるってのもあまり得はありませんね」
「だな。写真は撮られるわ、人が集まってデートはできないわで結構不便だな」
「久しぶりの休みなのに……これじゃあ買い物もできませんよ」
クリムはマスコミのように後を追いかける人々を見てこう言った。シュウは周りの人がもう少し自分たちの行動を知りたいのだろうと察知していた。そんな中、物静かそうな男とバカップルが通りすがった。その瞬間、バカップルは嫌な気配を感じ、振り返った。だが、ついさっき通りすがった物静かそうな男の姿はなかった。
「今のは……」
「ああ。うっすらと魔力を感じた」
「私もです。そして……ただならぬ気配も」
「裏の人間の可能性があるな。一応注意しておこう。何か起こるかもしれない」
小声で会話をした後、バカップルは何事もなかったかのようにデートを続けた。
シェラールのギルドのエイトガーディアンの部屋。書類の整理をしているタルトだったが、後ろからハヤテとナギの怒鳴り声が聞こえた。
「あんたァァァァァァァァァァァァァァァァ! 私のとっておきのチョコ食べたでしょー!」
「俺じゃねーよ! 何でもかんでも俺のせいにするんじゃねーよ! それに、自分のだったらちゃんと名前を書いておけよ!」
「書いたわよ! マジックでちゃんと書いたわよ! だけど食べられてたのよ!」
「あ、ごめーん。そのチョコ食ったの私だわ」
フィアットの声が聞こえた後、ナギがフィアットに襲い掛かる音が響いた。タルトはため息を吐きつつ、書類整理を続けた。そんな中、キャニーが一枚の紙を持ってタルトの部屋にやって来た。
「タルトさん、仕事中すみません。一度、目に通してもらいたいものがあります」
「かなり重要な物か?」
「ええ。かなり重要な物です」
タルトはキャニーから紙を受け取り、中を見た。その紙は写真であり、そこには黒いパーカーを着た男性らしき人物が写っていた。
「これは?」
「暗殺系裏ギルド、誘う手の重要メンバー、オミトだと思われる人物です。シェラールの防犯カメラに写っていたようです」
「場所は?」
「デパートイオスコ周辺です。この周辺では、政治家のメイスがイベントの為に来ているとの情報があります」
「政治家メイスか……」
その名前を聞き、タルトは難しい表情を作った。政治家メイスの見た目は普通の男性かつ政治家だが、裏ギルドとの関りがあると言われている。タルトもその調査を行ったが、メイス陣営からの通告があり、調査が断念されたことがある。そのこともあり、タルトはメイスと裏ギルドが何らかの形で関わっていると確信しているのだ。裏ギルドの関係がある政治家と、暗殺系裏ギルドのメンバーが同じ場所にいる。何が起きるのかタルトは理解した。
「キャニー、確かリナサとボーノの手が空いているはずだ。二人と一緒にイオスコへ向かってくれないか? 私も書類整理が終わったらすぐに行く」
「分かりました」
話を終え、キャニーは急いでリナサとボーノの元へ向かった。タルトはこの話が最悪な方向へ行かなければいいがと思った。
デパートイオスコ。かなり有名なデパートで、シェラール以外にも店舗を出している。服や雑貨品はもちろんのこと、フードコートもスーパーもこのデパートの中に入っている。バカップルは服屋へ行き、私服を選んでいた。
「ふーむ……腕の長さが足りないな……」
シュウは気に入った服を手に取って腕の長さを見ていたが、少しシュウの腕が長かったため、断念して服を戻した。そんな中、クリムが水着を持ってシュウの元へやって来た。
「先輩、この水着どうですか? かわいいですか?」
シュウはクリムが手にする水着を見て、その水着を着て海でデートする様子を想像した。
「ああかわいいさ。クリムは何を着ても最高だ」
「せんぱーい、そう言われると恥ずかしいですよ~」
クリムは少し照れたが、嬉しそうにこう言った。周りの人はこんな所でいちゃつくなよバカップルがと思いつつ、バカップルを見ていた。そんな中、バカップルは何かの気配を察知し、周囲を見回した。それと同じタイミングで、警報が鳴り響いた。
「何かありましたね」
「ああ」
そう話した後、謎の黒い服を着た集団が現れた。




