悪しき呪いを抹消せよ
呪われたタルトを救うため、クリムたちは呪いの剣を相手に戦いを始める。その一方で、ジャックとクララは村長の元へ向かっていた。
「あの政治家崩れ、この騒動を知って責任逃れるために逃げるかもしれねーな」
「かもしれませんね。どこかへ雲隠れする可能性があります」
二人は村長が責任を逃れるためにどこかへ逃げると予想していた。村長の部屋へ到着し、二人はやはりと心の中で思った。部屋は散らかっていて、中には誰もいなかったのだ。
「予想通りですね」
「だな。さて、外に行くか」
「はい」
こうなることを二人は予想していた。その為に、村の外にベヨオを通じて村の警備に村長が通ったら足止めをするように伝えていたのだ。村の外へ向かうと、警備兵に止められている高級車が一台あった。二人は少し離れた所にいたのだが、そこからでも高級車から聞こえる叫び声が聞こえた。
「バカモン! 私はこの町の村長で元政治家だぞ! 私の一言で貴様の地位や名誉を簡単に奪うことができるのだぞ!」
「有名なギルドの戦士に頼まれています。いくらあなたの言うことでも聞けません」
「俺ら元々お前みたいな人を見下すろくでなしは大嫌いだったし」
「ちょ、上司に向かってどんな口の利き方をしてるんだ貴様!」
「そーいう態度がむかつくんですよ。豚野郎」
「村長に向かって豚野郎とか言う?」
村長と警備兵の口喧嘩が聞こえたため、二人は急いで駆け付けた。警備兵は二人が来たことを察し、敬礼した。
「ベヨオから話は聞いています。さて、元が付くだろう村長をとっちめてください」
「分かりました」
「つーわけで、村長さんよ、どうして俺らがあんたの敵と出てきたか理解してるよなぁ?」
ジャックは手を鳴らしながら村長に近付いた。村長はこの呪われた剣の騒動の発端が自分の安易なアイデアであることを察していたからか、滝のような冷や汗をかいていた。
カーボンは呪われた剣に操られたタルトの攻撃を何度も受け止めていた。だが、クリムが隙を見て闇の魔力を放つということを呪われた剣は知っているせいか、なるべく隙のないように動いていた。しかし、クリム以外でも銃を使うシュウがいる。シュウが放つ弾丸が隙を作り、クリムの闇の魔力に襲われるだろうと考えていた。
「クソ! どうして復活した時に偶然俺様を倒せる奴らがいるんだよ?」
「生前の行いが悪いから、罰が当たったんだろ」
カーボンはそう言って呪われた剣に向かって剣を振り下ろした。渾身の力で剣を振り下ろしたせいか、タルトは苦しそうな表情となった。
「グ……痺れる……」
「今だシュウ!」
カーボンの合図を聞き、シュウは呪われた剣の刃に向けて発砲した。放たれた弾丸は二発。かなり火薬を使ったのか弾丸のスピードはかなり速かった。その弾丸は呪われた剣の刃を撃ち抜いた。火薬を使ったおかげで威力も上がったのだ。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「カーボン、父さんから剣を遠ざけてくれ!」
「分かった! タルト殿、すまない!」
カーボンはタルトの腕を蹴り、呪われた剣を吹き飛ばした。その際タルトはしまったと言いたそうな表情を作ったが、すぐに白目を向いてその場に倒れた。
「父さん!」
心配したシュウは急いでタルトの元へ駆け寄った。カーボンも不安になったため、タルトの様子を調べた。
「どうやら気を失ったらしい。脈も心臓もちゃんと動いてるから、大丈夫のようだ」
「よかった……」
シュウとカーボンはタルトが呪いから解放されたことを知り、安堵の息を吐いていた。その一方で、地面に落ちた呪われた剣は怪しいオーラを出していた。まるで、誰でもいいから自分に気付いてほしい。誰でもいいから自分を手にしてほしいと言いたそうに。だが、近付いたのはクリムだった。
「これ以上あなたの手で周囲を滅茶苦茶にさせてたまりますか」
クリムは魔力を開放し、巨大な闇の魔力の弾を作り出し、地面に落ちている呪われた剣に押し当てた。何かを削るような音が周囲に響いたが、闇が消えると今まで落ちていた呪われた剣は跡形もなく消滅していた。クリムはシュウとカーボンの方を向き、全てが終わったことを知らせるかのようにウインクをした。
翌日。ブーレンの村で起きた呪われた剣の騒動はあっという間に世間に広まり、騒動を取材するために取材陣がブーレンの村に集まった。ベヨオの説明により、騒動の発端が村長の安易な考えであることが知らされ、ブーレンの村の村長は騒動の責任を取るため、村長の座を降り、長い間警察の世話になることになった。だが、その時の村長は髪が爆発したかのようにぐしゃぐしゃであり、体の一部分にはまるでドライアイスでも押し付けられたかのような跡があった。
「クララ、一対村長に何をしたの?」
「ちょっと抵抗されたから……ついね」
「ああ。俺もちょっと……な」
ジャックとクララは苦笑いでクリムに答えた。シュウは苦笑いを作った後、カーボンとタルトの方を見た。
「カーボン、また騒動解決を手伝ってもらってありがとな」
「気にするな。俺も剣士の一人、困った人がいれば手を貸すよ」
「私は役に立つどころか、足を引っ張ったような気がするが……」
「ま、終わりよければすべていいではありませんか」
「確かに、カーボンさんの言う通りだな」
タルトはそう言って、カーボンと共に笑い始めた。そんな中で、ジャックはため息を吐いて小さく呟いた。
「呪いとかその類はもう勘弁だな」




