ライブの行方は?
ライブ会場の客席はチェリーポップのファンで満員となっていた。チェリーポップが歌う歌や踊りに合わせ、ファンは光る棒を振り回したり、それぞれの推しの写真が付いたうちわや手作りであろう、タオルを振り回していた。警備員が暴走しそうなファンをなだめてはいたが、時間が経つにつれてファンのテンションは上がって行った。そんな騒騒しい空間であるためか、彼らは皆、外で騒動があることを知らなかった。
会場に向かって飛んで来るロケットランチャーを見たシュウは、ライフルから拳銃に持ち替え、飛んで来るロケットランチャーに銃口を合わせた。
「そんなもん使っても、無駄だぜ」
そう言ってシュウは銃弾を放った。放たれた銃弾は回転しながらロケットランチャーに向かって飛んで行き、命中した。丁度裏の人間たちとライブ会場の間の所で、ロケットランチャーは大爆発を起こした。たった一発の銃弾でロケットランチャーがぶっ飛んだのを見て、裏の人間たちは目を丸くし、鼻水を流して驚いていた。
「うっそ~ん」
「そんなのあり?」
「ありゃまぁ……」
その時だった、クリムが風の魔法を使って裏の人間たちを身動きができないように縛ったのだ。
「さーてと。いろいろとお話をしてもらいましょうか。もちろん、その場から逃げようとする暴走族の皆さんも、いろいろとお話してもらいますよ~」
と、クリムは笑顔で逃げようとする合成果汁のメンバーにこう言った。すでにナギやリナサはそれぞれの仕事を終え、先に合成果汁の逃げ道を防いでいた。詰んだ。合成果汁のメンバーは、誰もがこう思った。
ライブを終え、キウは機嫌が悪そうに会場の裏に回り、煙草をふかした。
「クソが! どうして奴らは来なかったんだ!」
壁を殴りながら、キウは何度もこの言葉を繰り返し叫んだ。だが、少し離れた所では、レーモが父親に連絡をしていた。
「ちょっとパパ! ライブ中あいつら来なかったんだけど、どういうことなの!」
『パパでも理解ができん。おかしいな、ちゃんとキウを襲うって言ったのに……』
「ギルドの連中が邪魔をしたと思うけど、やることはちゃんとやってよね!」
『ごめんねレーモ。次は上手くやるから』
「もういい! あんな役立たずの連中とはすぐに縁を切って! もう知らない!」
『レーモ! ちょっと待ってくれ……ん? ちょっと待って、お客さんが……』
と、ライチがここまで言うと、突如電話が切れた。何が起きたと思ったレーモは、少しして連絡をしようと思い、その場から去ろうとした。だが、行く手を阻むようにバカップルが現れた。
「お疲れ様です、レーモさん」
「スタッフやメロさんがバスでお待ちしていますが……」
シュウがこう言うと、メロや他のスタッフが乗るバスは、発進してしまった。それを見たレーモと、後ろから来たキウは驚いた。
「ちょっと、まだ私らバスに乗ってないんだけど!」
「ねぇ、どういうことか教えてくれませんか?」
「教えるも何も、あなた方がこの騒動のことを一番知ってるんじゃないんですか?」
クリムの言葉を聞き、二人は一瞬動揺した。この一瞬の動揺を、バカップルは見逃さなかった。
「キウさん。あなたが以前、合成果汁という暴走族のリーダーであることは話を聞きました」
「そしてレーモさん。今、ナギさんとリナサちゃんがライチさんの取り調べを行っています」
「はぁ? 何でパパが出てくるのよ!」
ライチの名前が出たとたん、レーモは怒り出してクリムに詰め寄った。だが、クリムを守るようにシュウが前に出た。
「俺たちが戦った裏の人間に話を聞いたんですよ。いろいろと教えてくれましたよ。ライチさんから金で雇われて、キウさんを襲うように言われたと」
「お前……裏でそんなことを!」
話を聞いたキウは、レーモの服の裾を掴んで持ち上げた。だが、クリムがキウを睨んでこう言った。
「あなたも似たようなことをしたじゃないですか。合成果汁のメンバーに聞きましたよ、ライブ中にレーモを襲えって」
「なっ……」
クリムの話を聞き、キウは力を落とした。キウから解放されたレーモは、笑いながらこう言った。
「あははははははははは! 何だ、お前も結局同じようなことをしてたじゃない!」
「あなたが言える立場じゃないですよ」
笑い始めたレーモを睨みながら、シュウがこう言った。シュウの目を見て、レーモは大人しくなり、笑うのを止めた。沈黙が空気を支配する中、クリムは咳ばらいをしてこう言った。
「さて、この騒動に決着を付けましょう。二人とも、今すぐ近くのギルドへ来てもらいます」
その後、待ってましたと言わんばかりに、ギルドの車が現れた。その車には、すでにナギとリナサが乗っていた。
数日後、チェリーポップの不祥事の事件は大きく扱われた。現役スーパーアイドルトリオの二人が、互いを潰しあうために裏の人間を利用したという話題性があったためか、ニュースはしばらくその話題で持ちきりだった。その事件の結果として、フルツエンターテイメントの株は少し下がってしまったが、すぐに持ち直した。だが、ライチの方は裏の人間との関り、そしてまた別の裏の人間との繋がりや過去に起こした不祥事の隠蔽などが次々と判明し、政治の世界から追放され、その挙句警察に捕まった。
事件が落ち着いたころ、バカップルはメロに会いに行った。バカップルがメロの様子が気になるとバナに言うと、バナはすぐにメロに連絡をし、会う予定を作ってくれた。数日後、バカップルはフルツエンターテイメントへ向かい、バナの案内の下、メロの所へ向かった。
「お久しぶりです」
と言って、メロは頭を下げた。バカップルは頭を下げた後、メロに話しかけた。
「事件の後、いろいろと大変だと話を聞きました」
「はい。マスコミの人たちにあれやこれやと質問攻めされましたので……」
「大変だな、マスコミの連中を相手にするのも」
シュウがこう言うと、メロはそうでもないと返事をし、言葉を続けた。
「これが仕事ですし、芸能界で生きていく以上、マスコミを避けることはできません」
「そうですね……それより、話は聞きました。しばらくしたらソロデビューをすると」
クリムの質問を聞き、メロははいと答えた。
「少ししたら、ソロで初のCDを出します。よかったら、これをどうぞ」
と言って、メロはソロで初めて出すCDを、バカップルに渡した。しかも、ジャケットにはサインが書かれていた。
「二人の為に用意しました」
「そんな……」
「ありがとうございます」
少し照れながら、バカップルはこう言った。それから、バカップルはメロと話をした。その時のメロの様子を見て、バカップルはメロ一人でもこれからやって行けると思った。




