ライブを守れ!
合成果汁のアジトの一つが壊滅して二日が経過した。あれ以降キウは合成果汁のメンバーにライブ当日まで派手な動きはしないように警告し、ライブの練習に取り組むことにした。一方、父親ライチの裏の関係でキウを痛い目に合わそうとするレーモは、この作戦をクリムたちに悟れないように立ち回っていた。だが、メロは二人が何かを企んでいると察していた。
ライブの練習が終わった後、メロは一人でクリムたちの元に向かっていた。そして、二人が何かを企んでいると話をした。
「やっぱりそうね。合成果汁のアジトを一つ潰してもあまり変わらないわね」
ナギはそう言った後、改めてライブを守らねばと思った。バカップルやリナサもナギの発言に同意し、返事をした。
「皆さん、何か作戦があるんですか?」
と、メロは不安そうにこう言った。その言葉を聞き、クリムがすぐに答えた。
「作戦なんかなくても大丈夫です。来るとしても突っ込むことしか考えないアホな暴走族か、金で雇われた裏の人間。変な魔力を持ってなければ私一人でも簡単にぶっ飛ばします」
「確かにクリムお姉ちゃんの魔力なら、簡単に終わりそう」
リナサがこう言うと、クリムは苦笑いでリナサに話をした。
「まぁ、本来はそうしたいんですが、部屋に動くとマスコミが騒ぎますからねぇ」
「マスコミの連中は芸能界の騒動をかぎつけることとでたらめを書くことだけは一人前なのよねー」
「まぁまぁ少し落ち着こうぜ」
マスコミの文句を言ったナギに対し、シュウはなだめた。メロは改めてクリムたちの様子を見たが、慌てることも動じることもせず、ただただ普通に過ごしていた。そんなクリムたちを見て、余裕なのか油断しているのか分からなくなった。
そんなこんなでライブ当日の日となった。ライブが行われるドームから少し離れた所に、少し目立つ黒塗りの高級車が数台近くの駐車場に駐車していた。その中に、ライチと知り合いの裏の人間がいた。
「いいか? 可愛い娘のためだ、何が何でもキウという暴走族かぶれのバカ女を始末して来い」
「分かりました。わっしらが必ずキウとやらを仕留めましょう」
「いいか? 絶対に娘と仲間のメロという少女は傷つけるな。あくまでキウだけを狙うのだ」
「へい。了承してます。さて、わっしらはそろそろ行きます。旦那は別の車でお帰りください。政治家の人間がわっしらと一緒にいるところをマスコミのゴミ共が知ったら、大騒動になります」
「分かった。では」
ライチは周囲を見回し、マスコミの人間がいないことを確認し、そそくさと別の車へ向かい、去って行った。ライチが去った後、裏の人間たちはドームに向けて車を動かした。
その一方で、ドーム近くの道路では警察の群れができていた。住民から朝から暴走族がうるさいと何度も似たような通報が来ているのだ。
「全く。今日は近くでチェリーポップのライブがあるから、大半の警察官がそっちの見回りに行ってるってのに……」
「どうして今日に限ってバカ共がバカ騒ぎを起こすんだ? 嫌がらせか?」
そんな愚痴を言っていると、目の前から合成果汁の旗を付けたバイクの群れが現れた。
「うわ! 合成果汁だ!」
「あの迷惑軍団、朝から何をするつもりだ!」
警察官たちは合成果汁を止めるため、タイヤをパンクさせる罠を道路に置いた。だが、合成果汁は近くのパトカーに向かってウイリーし、パトカーをジャンプ台として飛び上がり、罠を回避した。
「クソ! パトカーを!」
「あいつら、絶対に許さん! 何が何でも全員しょっ引くぞ!」
それから警察官たちは他の仲間に連絡し、合成果汁の逮捕に動いた。
チェリーポップの控室。キウは煙草を吸いながら軽くストレッチをしていた。メロは化粧台で化粧をしていたが、その途中でレーモが話しかけてきた。
「ねぇメロ、今日何かが起こりそうな予感ね」
「え? そうなの?」
メロは少し驚きながら言葉を返した。その言葉を聞き、レーモは笑顔で話を続けた。
「どうなるか分からないけど、とにかくいいことが起こりそう。うふ、それじゃ、今日のライブ頑張りましょうね」
と言って、レーモはトイレへ向かった。キョトンとしたメロは去って行くレーモを見ていたが、後ろからキウが話しかけてきた。
「メロ、あんなバカ女の話すことなんて信じちゃいけないよ。それと、権力で甘ちゃんになったバカ女のようになっちゃダメだよ」
「は……はぁ……」
「一番若いんだから、変な奴が近付くと思う。もし、変なことがあったら一目散に逃げな。おっと、煙草が……」
キウは落ちそうになった吸殻を見て、慌てて灰皿の方へ向かった。仲の悪い二人を見て、どうしてこんなことをするんだろうとメロは内心思った。
その一方。外にいるクリムたちは遠くから聞こえる合成果汁のバイクの排気音に気付いていた。
「さて、来たようですね」
「朝早くからご苦労なこった」
クリムは光を発し、シュウはスコープが付いたライフルを構えた。後ろにいるリナサは闇を発してドームを守り、ナギはいつでも治療ができるように準備をしていた。これで、クリムたちが戦う準備ができた。




