アイドルの裏事情
クリムたちの部屋の前にいたメロは、頭を下げて挨拶をした。
「挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「いいえ、気にしないでください。それよりも、何か話があるんですか?」
「はい……」
「それじゃ、中に入ってください」
部屋に案内されたメロは、一礼して話を始めた。
「今回の騒動の話なんですが……実は、キウさんとレーモさんが互いを潰しあうために始めたんです」
その話を聞き、クリムは納得したような表情をした。
「やはりですね、片方は元暴走族のヘッド、片方は権力で甘い汁をすすって生きていた甘ちゃん。互いが互いを気に食わないため、そんなことをするのは納得します」
「女って怖いな……」
「そうですねー」
「ナギ……」
リナサはシュウに抱き着こうとするナギの肩を叩き、近付いたらクリムがブチ切れることを伝えた。
「皆さん、二人が迷惑をかけて本当にすみません」
「いえいえ、仕事なので気にしないでください」
「ですが……」
「こんな仕事何回もやっています。なれたもんです。ま、今回の依頼が二人の過去に関係しようがしまいが、皆様を守るためなら何でもします」
と、クリムは笑顔でメロにこう返した。
その日の夜、キウはビルの陰で誰かと話をしていた。
「本当ですか姐さん? ライブに乱入してレーモに傷つけてもいいんですか?」
「構わないよ。ああいう権力にすがるバカは一度痛い目に合わないと分からないんだよ」
そう言った後、キウは加えた煙草を口から外し、煙を吐いた。キウの話を聞いた男は意を決した顔をし、キウにこう言った。
「分かりました。俺も前からああいうぶりっ子女は大っ嫌いだったんすよ。それじゃ、ライブ当日に合体果汁再集結、そして襲撃ということで」
「そうだ。相手にするのはレーモだけ、メロはほっておけ」
「はい。それじゃ姐さんの期待に応えるよう頑張ります」
男はそう言った後、後ろにある改造車に乗って去って行った。去って行く改造車を見て、キウは新たに煙草を口に加え、火をつけた。
レーモは携帯電話でライチと連絡を取っていた。
「お願いパパ~、どうしても気に食わない奴がいるからどうにかしてよ~」
『そうかそうか、一体どんな奴なんだ? パパがガツンとやってやるよ』
「チェリーポップのメンバーのキウってリーダーぶってる元族のおばさん。年上だからって偉そうにしてるの。暴走族だか何だか分からないけど、一度痛い目に見させてよ~」
『分かったよ。パパの知り合いの怖い人に任せるから、安心しなさい』
「ありがと~、パパ大好き~。あいつのプライドも傷つけたいから、今度やるライブの中にあいつを襲ってって言っておいて」
『おう。何かあったらパパの力で何とかするからな。それじゃあな~』
「うん。パパ、大好き!」
と言って、レーモは通話を切った。そして、にやりと笑って小さく呟いた。
「フフフ……馬鹿な女には一度、地獄を見せなければねぇ」
翌日、脅迫メールを調べるため、シュウとリナサは席を外していた。クリムとナギは、二人でチェリーポップの護衛についていた。
「あーあ、先輩と護衛したかったなー」
「リナサの言うことは分かるけど……あの子もあの子でシュウさんに甘えて……はぁ」
二人はそう言ってため息を吐いた。本来はバカップルが護衛をする話だったが、ナギがうるさいのと、クリムがシュウと離れたくないと駄々をこねた結果、二人で護衛しろとリナサにきつく言われたのだ。
「ねー、今の所変な奴がいるー?」
「特に不審者は見当たりませんね」
と、クリムは魔力探知を使って周囲を調べつつ、ナギにこう言った。返事を聞いたナギは、考えながらこう言った。
「ただのイタズラ……なのかしらねぇ?」
「先輩とリナサちゃんが戻って来るのを待ちましょう。それまで、しっかりと護衛をしないと」
「そうね」
話を終えた後、二人は護衛を続けた。そんな中、レーモが悲鳴を上げた。理由はキウがレーモの足を踏んだからだ。
「ちょっと! わざと私の足を踏んだでしょ!」
「わざとじゃないわ。あんたの足が私の足の下にあったんでしょ?」
「言い訳してんじゃないわよ、おばさん!」
「まーまー、落ち着いて落ち着いて」
「少し、頭冷やそっか?」
と、クリムは巨大な氷塊を発し、レーモとキウをドン引きさせた。
「クリム、ちょっと落ち着きなさい」
「ちょっとしたアクシデントなので……」
暴走しそうなクリムを見て、ナギとメロが慌てて駆け付けた。クリムを止める中、ナギはシュウとリナサが早く戻ってくるように祈った。
暴走族、合体果汁のアジトにて。リーダーの男性が煙草を吸いながら仲間と話をしていた。
「いいか? 今度の姐さんのライブに俺たちが乱入するんだ。レーモの奴を半殺しにしてもいいっていさ」
「そうですか! 俺、あいつ嫌いなんですよ」
「こりゃーいいストレス発散になります」
「姐さんに礼を言わないとな」
そんな話をする中、入口付近で爆発音が響いた。何事かと思ったリーダーは、慌てて振り返った。
「何だ? どうしたんだ!」
「どうも、ギルドの戦士です」
「フルツエンターテイメントに届いた脅迫メールについて、話があります」
そこに現れたのは、シュウとリナサだった。




