アイドルの裏の顔
バカップルは同行者であるナギとリナサと合流した後、車の中で詳しい話をしていた。
「依頼内容はコンサートまで、チェリーポップのメンバーの護衛ですか。芸能関係の仕事だと、護衛が多いですね」
「チェリーポップ関係者に敵はいるのか?」
「えーっと、敵対関係は無いですけど、熱狂的なファンが存在し、熱すぎて攻撃的な行動をとるファンがいるようです」
「想いが重くなったんだな……」
バカップルが会話をしていると、リナサが話に入って来た。
「クリムお姉ちゃん、この話はSNSの情報なんだけど、メンバー同士もあまり仲が良くないみたい」
「メンバー同士?」
クリムはリナサが持つ携帯端末を借り、情報を目にした。
「ほーほー、表では仲良さそうに見えるけど、裏では誰が前に立つかどうかで揉めたり、男関係で言い争いになってるか……」
「アイドルって本当に怖いですよね。ねーシュウさん」
と、ナギがシュウに近付こうとした瞬間、クリムはナギを睨んだ。クリムとナギが争う中、シュウはチェリーポップのメンバーが仲が悪いという話を聞き、ずっと気になっていた。
数時間後、クリムたちを乗せた車はチェリーポップが在籍する事務所、フルツエンターテイメントに到着した。チェリーポップ以外にも多数のアイドルや俳優、芸人などが在籍し、誰もが一流と言っていいほどの芸能人のためか、ビルはかなり大きかった。
「これまでいくつか芸能事務所の依頼を受けましたが、今回はかなり大手ですねー」
「だから私たちエイトガーディアンが関わるのよ。実際、これだけ大手の芸能事務所だと、金も権力も有り余るほど持ってるから」
ナギは少し皮肉っぽくこう言った後、事務所の前で立っている男性に近付いた。その男性はクリムたちを見た後、頭を下げた。その後、クリムたちは男性の所に近付き、話を始めた。
「始めました。私はフルツエンターテイメントのバナと申し上げます。こちら、名刺でございます」
「ど、どうも」
シュウは緊張した手つきでバナから名刺をもらった。クリムは貰った名刺を確認し、すぐにしまった。
「今回の依頼の件について、お話をさせていただきます。一緒に会議室へ来てもらってもよろしいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします」
その後、クリムたちはバナと共に会議室へ向かった。会議室にはすでにお茶や詳しいことが書かれた資料があり、クリムたちはそれらがある席に座った。
「では依頼についてお話します。実は、チェリーポップのメンバー、レーモに対してこんなメールが届いたのです。まだ本人にはこのことを知らせていませんが……」
「メール?」
車で見た資料に載っていなかった情報を知り、クリムたちは戸惑いを隠せなかった。クリムたちを見て、バナはこう言った。
「ギルドに渡した情報は、一部簡略した物になります。あまり、表沙汰にしたくなかったので」
「メディアに情報が流れると考えたんですね」
クリムの言葉を聞き、バナは頭を下げてこう言った。
「はい。奴らはどんな小さな異変でも嗅ぎ付けます。雑誌が売れるには、奴らは情報を捻じ曲げて雑誌を書きますので」
「だからメディアに対して信頼がないのよねー」
ナギがこう言った直後、リナサは横目でバナを見てこう言った。
「あの……お話は?」
「すみません、脱線しました。レーモに対し、目立ったら殺すというメールが来たのです。他のメンバーの熱狂的なファンか、いたずらの可能性もありますが、近いうちにコンサートがあります。それまで、レーモや他のメンバーの護衛をお願いします」
と言って、バナは頭を下げた。クリムたちはバナの姿を見て、依頼を改めて受けることを決めた。
チェリーポップのメンバーは、フルツエンターテイメントの一室で待機していた。メンバーの一人であるキウは煙草を吸いながら、近くにいるマネージャーに話しかけていた。
「ねー、いつまで私たちこんな部屋にいなきゃなんないわけ?」
「少し待っててください。コンサートの護衛の件でギルドの戦士が来ますので……」
「ちゃんとハリアの村のシュウ君を指名した?」
「はい。ちゃんとシュウさんに依頼をお願いしましたが……賢者クリムも同行します」
クリムも来るという話を聞き、キウは加えた煙草を一度手に持ち、床に唾を吐き捨てた。
「全く、何であの賢者も来るんだよ。余計だっつーの」
「仕方ありません、あの二人は付き合っています。その為、私たちがどんなことを言っても賢者クリムは付いてくるでしょう」
マネージャーがこう言った時、脅迫メールで脅されているレーモが近付いてこう聞いた。
「エイトガーディアンの誰かが来るんでしょ? イケメンの男の子来る?」
「いえ、今回来るエイトガーディアンのメンバーはヒーラーナイトのナギ、そして光と闇の魔法使いであるリナサです。二人とも少女です」
「ちぇー、男の子だったらいいのになー。うかつにシュウ君に手を出すこともできなさそうだし」
と、レーモは残念そうに呟いた。そんなレーモに対し、キウは煙草の煙を吐き出した。
「キャア! 何すんのよアバズレ女!」
「最初にシュウを依頼したのはこの私だ。あんたが手を出すんじゃないわよ」
「何よ、メンバーの中で年上だからって偉そうに! あんた知ってる? 私らメンバーの中で誰が一番人気ないのか? それはあんたよ!」
「生意気なクソガキだね。いっぺん絞めてやろうかああ?」
キウはそう言ってレーモの襟を掴んだ。マネージャーは慌てて二人を引き離し、喧嘩を止めようとしていた。そんな中で、もう一人のメンバーであるメロは新曲の歌詞が書かれた紙をずっと見ていた。




