試験の大ボス
クリムは襲い掛かる幻のモンスターを倒しつつ、賢者の塔を登って行った。だが、流石のクリムも疲れの色が見えてきた。
「ふぅ……そろそろ疲れましたね……」
そう言いながら、消えかけている幻のモンスターにとどめを刺した。窓から外を見ると、今いる階が地上から大体ニ十階だろうと予測した。
「何階まであるんでしょうか……」
クリムはその場で座り、疲れを癒した後、再び立ち上がって歩き始めた。襲い掛かって来る幻のモンスターは徐々に強くなっている。そのため、一人で戦っているクリムは徐々に疲れが溜まって行った。
「あー、もう疲れたなー」
しばらく歩いた後、クリムは周りを見回した。この賢者の塔には、食料や水などが一切ないのだ。荷物は塔に入る前、規則だからと言って杖以外は全て没収されたのだ。
「一日でこの塔を登れるのかなー?」
休憩中、クリムは不安を漏らした。それからしばらくして再び塔の中を歩き始めた。
ストブたちは外から見える試験の塔を見て、クリムの無事を祈っていた。
「クリム無事かしら……」
不安そうにクララはそう言ったが、ストブは大声で笑いながらこう言った。
「大丈夫だって。あのクリムだぜ、さくっと塔を登って来るって!」
そう言ってクララの肩を叩いているが、ドゥーレが何かに気付いてストブに近付いた。
「少し震えてない?」
「な……ななな何言ってんだドゥーレ?」
その言葉を聞き、クララはストブもクリムのことが不安なのだと理解した。だから、クララを安心させるため、自分の心をごまかすためにあんなことを言ったのだと。その一方で、ヴァーナは塔を見てこう言っていた。
「いずれは我もあの塔を……」
「あんたは賢者じゃなくて雷の魔力を極めるために来たんでしょうが」
と、後ろからローラがやって来て、こう言った。ストブたちは一斉にローラの方を向き、挨拶をした。
「クリムのことが気になってんだろ? 気持ちはありがたいが、今は自分たちのことを考えな。これから厳しい修行が始まるよ」
「はい」
「じゃ、早速魔力の鍛錬からやるよ、魔力全開で私について来な!」
と言って、ローラは魔力を開放して空を飛んだ。その後に続き、ストブたちも魔力を開放して空を飛び始めた。
数時間後、強さを増した幻のモンスターを倒しつつ、クリムは塔を登り続けた結果、最上階と書かれた扉の前に到着した。
「ここが頂上……」
これから先に何が起きるのか、何が待ち構えているのか分からない。その為、クリムは慎重に扉を開けた。扉の先は外で、周りには落下防止の柵が存在していた。そして、そこにいたのは、これまで戦って来たモンスターと同じような幻で作られた人物だった。
「人? だけどモンスターじゃ……」
「私はモンスターではない。一応、幻という形ではあるがな」
その人物はクリムにこう答えると、振り返った直後に姿を消した。
「なっ!」
「ここだ」
クリムの後ろから声が聞こえた。振り返ると、離れた場所に存在した幻の人が、クリムの後ろに立っていた。
「いつの間に……」
「魔力を極めたら、この位たやすいことだ。それより、君みたいな幼い子が賢者候補に選ばれるとは……世の中は進んだな」
「確かにそうですが、あなたは一体誰ですか? 自己紹介もせず、ひたすら話していると変な人だと思われますよ」
クリムの言葉を聞き、幻の人は笑いながらこう言った。
「失礼。何年も人と会ってないんだ、挨拶を忘れていたよ……」
そう言った後、幻の人は頭を下げてこう言った。
「私はアルク・リクレイト。チュエールを作った賢者だ」
その話を聞いたクリムは驚いたが、少しずつ冷静になり、アルクにこう言った。
「話は聞いたことがあります。初代賢者、アルクは魔力を使っていろんなことができたと」
「まーな。で、今はその残った魔力を使って賢者の試験の大ボスとしてこの世に居座っている」
アルクはそう言うと、杖を作り出し、クリムにこう言った。
「幼い子ではあるが……ここに来た以上、どうなるか君にでも理解はできるだろう」
アルクの言葉を聞き、クリムは杖を構えてアルクを見つめた。
「ええ。あなたを倒せば私は賢者として認められる」
「そうだ。理解が速い子でよかった。だが、幼い子が相手でも、私は容赦はしないぞ!」
アルクはそう言った後、姿を消した。クリムは目を閉じて魔力を探知し、左側から襲ってくるアルクの攻撃を防御した。
「へぇ」
「最初から全開で行かないんですか?」
クリムは杖を振り払い、アルクとの距離を取ってこう聞いた。アルクはにやりと笑い、質問に答えた。
「君がどんな子か分からないからね。小手調べってところさ」
「そうですか」
アルクは手加減をしている。それを知った後、クリムは炎の矢を発し、アルクに向けて放った。だが、アルクはジャンプをして炎の矢をかわし、巨大な炎の塊を作り出した。
「これでもほんのちょっぴりしか力を出してないんでね、これでぶっ飛んだらごめんね」
「謝るのは私の方です」
「ん?」
アルクは後ろを見ると、ジャンプでかわしたはずの炎の矢が自分に向かって飛んで来る光景を見た。
「追尾式ねぇ……」
飛んで来る炎の矢に対し、アルクは作り出した炎の塊を放って炎の矢をかき消した。だが、その後ろにはクリムが存在した。
「隙を見て飛んだってわけか……」
「その通りです」
クリムはそう言って、右手に溜めた雷をアルクにぶつけた。




